↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第九部・新たなる脅威 後編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
194/211

194 遭遇〈運び屋〉


◆遭遇


〈大樹の森〉の奥へ進むほど、空気は濃密さを増し、世界は多様な生物の音と極彩色に満たされていく。その中で、俺たちは荷物の受取人であるタカクラと連絡を取るため、〈データベース〉との接続が確保できる地点を探していた。


 森の磁場は常に乱れ、通信は途切れがちだ。巨木の根の間を縫うように歩きながら、イジュンは情報端末に接続したアンテナを調整し、コトネは周囲の警戒に当たっていた。


 そのコトネが、突然動きを止めた。森が静まり返っていた。鳥の鳴き声が消え、風に揺れていた葉は微かに震えるだけになり、遠くで鳴いていた変異体の声も途絶えた。森そのものが息を潜めているようだった。


『……奇妙だ』

 コトネの合成音声がイヤーカフ越しに響く。


 その時だった。イジュンの端末が警告音を発した。彼が偵察に出していた小型多脚ドローンからの反応が、ほぼ同時に途絶えた。


『消えた……三機とも』

 ガスマスク越しにイジュンのくぐもった声が漏れる。


 攻撃されているのは明らかだった。だが、最後の瞬間まで受信していた映像を確認しても、どこから攻撃を受けたのかは分からない。森の影が揺れた瞬間に映像は途切れていた。


 俺たちは即座に巨木の陰に身を隠した。防護服に付着した苔が微かに光り、呼吸音がガスマスクの内側で重く響く。


 その直後――死角から攻撃を受けた。まず標的になったのは、俺たちが手にしていた銃火器だった。高出力のレーザが空気を裂き、気がつくとライフルの銃身が赤熱し、つぎの瞬間には融解して滴り落ちた。金属が焼ける臭いが、ガスマスク越しにも分かる。


 その瞬間、俺たちはふたつの情報を得た。ひとつは、相手が変異体ではないということ。もうひとつは――敵が自律型兵器であるということ。


 高出力の指向性兵器を扱う変異体など存在しない。これは旧文明の自律兵器による攻撃だ。イジュンは即座に偵察ドローンを空へ放った。ロータが高速回転し、ドローンは巨木の枝の間を縫うように上昇する。だが、数十秒後には撃ち落とされた。


 破壊される直前に受信した映像を確認すると、光学迷彩を使い、周囲の景色に溶け込む寸前の多脚車両の輪郭が、わずかに歪んだ蜃気楼のように浮かび上がるのが見えた。


『間違いない……相手は〈ツチグモ〉です』


 イジュンの顔色が変わる。森で〝旧文明の亡霊〟として恐れられている施設警備型の多脚兵器。光学迷彩を搭載するだけでなく、指向性兵器を備え、汚染地帯で最も遭遇したくない脅威のひとつだった。


 その時、巨木の影の向こうで空気がわずかに揺れた。光学迷彩の境界が、森の光を歪ませる。


『……来る』

 コトネが呟いた。


 すかさず発煙手榴弾を放り投げると、白い煙が林立する巨木の根元に広がり、森に射し込む光を曇らせた。俺とイジュンは煙に紛れるようにして、大樹の根がつくり出す深い窪地へ滑り込み、姿を隠す。ライフルは、恐ろしく高精度のピンポイントレーザで融解し使い物にならない。だが、背中に背負っていた狙撃銃は無事だった。


 問題は――姿の見えない敵に、それがどこまで通用するか分からないことだ。イジュンは銃を構えもせず、端末を操作していた。戦う気など端からないのだろう。彼は自律兵器の恐ろしさを知っている。


 この場からどう離脱するのか。それだけを考えている顔だった。幸い、俺たちは数日かけて調査した安全な移動経路を知っていた。敵の追跡を避けながら、この状況から抜け出す方法だ。そして、それが唯一の賢明な選択だった。


 だが――その判断を伝える前に、コトネが動いた。彼女の蜘蛛めいた義眼が複雑な機構で展開し、広範囲にわたって森を走査する。その直後、敵の位置を正確に割り出したのか、前腕が変形し砲口が展開された。


「待て、コトネ――」


 言い終える前に、彼女の頭上から光線が降り注いだ。高温の熱線が空気を裂き、コトネの腕が一瞬で切断された。焼けた金属と合成皮膚が溶け、断面から火花が散る。


 彼女は声を上げなかった。痛覚は制御されている。だが、残った片腕で戦闘姿勢を取ろうとしていた。もはや躊躇う余裕はなかった。〈ツチグモ〉は全方位から攻撃できる。根の陰に留まれば、つぎの瞬間には蒸発する。


 俺は窪地から飛び出し、コトネの残った腕を掴んで草むらへと引きずり込み、そのままイジュンが指示する獣道を駆けた。強引なやり方に抵抗すると思ったが、コトネは文句ひとつ言わずついてきた。彼女も理解していたのだ――勝ち目はない、と。


 その間にも、背後で熱線が大地を焼き、極彩色の草が蒸発し、巨木の根が赤熱してひび割れる。


 どの方向から攻撃されているのか分からない。光学迷彩の揺らぎすら見えない。ただ、空気が歪む気配だけが、死の接近を知らせていた。


 俺たちは死に物狂いで森を駆けた。ガスマスク越しの呼吸が荒れ、防護服の内側で汗が流れ、背後ではツチグモの熱線が森を焼き続ける。


 どれほど走ったか分からない。ただ、足が止まった瞬間に死ぬと分かっていた。


 そして――気がつくと攻撃は途絶えていた。森の影が揺れ、木々の葉が再び風に揺れ始める。俺たちはなんとかその場を離脱したが、変異体よりも厄介な敵に目をつけられたのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。