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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第九部・新たなる脅威 後編

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183/211

183 T-44S Terra-Scout〈運び屋〉


◆事前確認


 任務に出る前に、まずはコトネの実力を確かめる必要があった。イジュンの情報をもとに、俺たちは〈灰の裂け目〉の外縁に広がる比較的安全な汚染地帯に向かった。


 ガスマスクを装着し、外套のフードを深くかぶりながら荒涼とした廃墟の通りを進む。この辺りでは〈廃墟の街〉では見られない植物が自生していて、黒い根が建物の壁を締め上げ、人の背丈を優に超える茎が風に揺れていた。


 葉の裏には金属光沢があり、薄く青白い輝きを帯びていた。その根元では、小型犬ほどの体長を持つ甲虫の変異体が瓦礫の隙間を這い回っていた。


 彼女の相手を探す必要はなかった。向こうから姿を見せてくれた。かつては〈侵食帯〉で活動する傭兵だったのだろう。今ではゾンビめいた変異体になり、廃墟の通りを徘徊していた。


 擦り切れた戦闘服を身につけていたが、そこから覗く皮膚は腐敗し、赤黒い腫瘍が脈打つように盛り上がっている。腕には寄生した植物が絡みつき、地面に垂れ下がる根を引きずるようにして歩いていた。


 顔の半分は崩れ、片目は白濁し、もう片方は異様に膨れ上がっている。呼吸の代わりに胸部が不規則に痙攣し、息苦しさを感じさせる呼吸音を響かせている。


 コトネは無言で前に出て、ゆっくりと呼吸を整えた。彼女の〈人工眼球(サイバーアイ)〉に映るのは、醜い変異体だけ。


 彼女はグロテスクな姿を気にするそぶりも見せず、変異体に向かって歩いていく。義肢が滑らかに駆動し、腹部と背中から伸びる無数のケーブルが彼女の動きに合わせて揺れる。


 どのような機能が備わっているのか見当もつかないが、あれだけ露出していれば、どこかに引っかけて断線する危険もある。ダクトテープでまとめておいたほうがいいのでは、と一瞬考えたが、素人が考えなしに触れていいものではないのかもしれない。


〈人擬き〉と化した傭兵がこちらに頭部を向ける。腐敗した腕を振り上げ、寄生植物がぶらりと揺れ、頬から生えた指が痙攣する。かつて人間だったものが、汚染と変異に呑まれた末路だ。


 コトネは小銃を構えるでもなく、ただ片腕を変異体に向ける。つぎの瞬間、前腕の皮下装甲が展開し、内部に隠されていた砲口が姿をあらわした。機械の動作音はほとんどなく、ただ静かに駆動する。


 マズルフラッシュが瞬き、金属が弾けるような小気味いい音が響いた。射出された飛翔体は超小型の弾丸を思わせる合金の塊で、変異体の胸部を貫通し、衝撃の余波だけで四肢をバラバラにした。


 砕け散った肉片と内臓が路面に散乱し、廃墟の空気に焦げた臭いが混ざる。壊れた街灯が断続的に明滅し、コトネの影を路面に長く引き伸ばした。


 コトネは振り返り、「どうだ」と言わんばかりの得意げな表情を見せた。


 半身が機械化され、薄着で、防護服すら身につけていないのに、〈浄化人〉とは思えない妖艶さがあった。光学センサーが淡く点滅し、ケーブルが彼女の鼓動に合わせて揺れる。その姿は、汚染地帯の荒涼とした風景の中で異様なほど鮮烈だった。


 それから彼女は腕の砲口を収納し、ケーブルを揺らしながらこちらへ戻ってきた。彼女が身につける〈サイバネティクス〉は見掛け倒しではない――それは疑いようがなかった。これ以上、変異体と戦わせる必要はないだろう。


 イジュンはその場で外套の裾を払うと、工房で入手した偵察ドローンの試運転を始めた。彼が取り出したのは、〈テラドローン〉社製の〈T-44S Terra-Scout〉と呼ばれる機体だ。


 手のひらに収まる球形の超小型機体で、安価な使い捨ての偵察機として知られていた。数時間の停空飛翔(ホバリング)が可能なだけでなく、各種センサーによる戦術支援を行える優れものだった。


 イジュンが球体を空に向かって放り投げると、機体は空中で外装を展開し、ロータが高速回転を始める。わずかな風の流れを読み取り、所定の位置でピタリと停止した。


 続けて二機、三機と投げると、それらは互いのセンサーを同期させ、周囲の地形と汚染濃度、熱源、動体反応を俯瞰地図へと流し込んでいく。


 廃墟の空気はざらついた電子ノイズのように震え、ドローンのロータ音が微かな残響となって汚染地帯の静寂を乱す。


 義眼を介して投影された拡張現実の地図には、周囲の情報がリアルタイムで追加されていく。廃墟の内部構造、変異植物の根の広がり、甲虫の群れの移動パターン、そして先ほどコトネが粉砕した変異体の残骸までもが、赤い点として表示される。


 その俯瞰図を見ていると、イジュンが徘徊型兵器ではなく偵察機を選んだ理由がよく分かった。俺たちの目的は戦闘そのものではない。〈大樹の森〉に侵入し、無事にタカクラたちと合流することなのだから。


 コトネはドローンの動きを興味深そうに見つめていた。光学センサーが淡く点滅し、背中のケーブルが風に揺れる。彼女の存在は異質で、汚染地帯の荒涼とした風景の中でさえ、ひときわ際立っていた。

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