181 浄化工房〈運び屋〉
◆〈浄化工房〉
灰の裂け目の南端へ向かうと、〈侵食帯〉に自生する異形の植物群が地面を覆い、黒い根が廃墟の壁を締め上げているのが見えた。その奥に石棺を思わせる巨大な建造物が、沈黙の闇に沈むように聳えている。
〈浄化工房〉の名で知られた処理施設だ。〈大樹の森〉から持ち込まれた遺物が最初に通される場所でもある。
汚染にまみれた電子機器、情報端末、地中から掘り出された車両の部品、旧文明の建築資材。そのすべてが、まずこの場所で死をもたらす穢れを落とされ、再び人間が触れられるものへと変えられる。
イジュンからガスマスクの装着を促される。どうやら、この場所では空気すら信用できないらしい。
内部に足を踏み入れると、低く唸る機械音が空気を震わせた。汚染を洗い流す高圧洗浄機の噴射音、回転ブラシが金属を削る摩擦音、除染液が滴り落ちる湿った響きが反響し、空間全体が巨大な臓器のように脈打っている。
まるで旧文明の亡霊が、機械仕掛けの肺で息をしているかのようだ。
薬品と金属の刺激臭が混ざり合い、確かにマスクがなければ生きていけない場所だと分かる。ホログラム投影機が赤い警告文字を浮かび上がらせ、「放射線区域」「生物汚染注意」「隔離処理中」と無言の圧力をかけてくる。赤い光が霧のような汚染粒子を照らし、影がゆらりと揺れた。
処理工程は多岐にわたる。素材の分類、表面除染、放射線スキャン、構造解析。旧文明の自動解析装置にかけられた遺物は、〈技術組合〉から派遣された技術者によって内部データを抽出され、構造が再構築される。
破損した記録媒体から断片的な情報が引き出され、かつての研究ログが蘇ることもある。しかし、そのほとんどは意味を成さないノイズの断片でしかない。
死者の記憶を掘り起こすような陰湿な作業に思えるが、この荒廃した世界で生きる者にとっては、わずかな情報でも貴重な糧となる。
作業員たちは全身を覆う白い防護服をまとい、顔はマスクとゴーグルに隠されている。誰が誰なのか判別できず、ただ〈浄化人〉と呼ばれていた。
彼らは無言で遺物を清め、探索者の装備を再び使える道具へと変えていく。汚染物質に長く触れてきた者も多く、指の数が増えたり減ったり、頭部が異様に膨れたりと、半ば変異している者もいた。
見ていて気持ちのいい連中ではないが、それでもこの拠点を支える重要な存在だった。
彼らを差別したり、危害を加えたりする者はいない。〈ネオン・ハーレム〉の能無しのチンピラですら、〈浄化人〉がどれほど貴重な人材なのかを理解している。
俺はその光景を眺めながら、傭兵の代わりとなる戦力を探すという目的を思い返した。〈浄化工房〉には、〈浄化人〉のほかにも、旧文明の技術を扱える者や、汚染地帯での作業に慣れた者が多い。
だが、傭兵以上に危険地帯に精通した者はいない。俺たちの目的は、あくまで戦力となる〈機械人形〉を手に入れることだ。
白い蒸気が足元で揺れ、機械音が低く響く。この場所は、死と汚染の境界線でもある。そして、俺たちが踏み込もうとしている〈大樹の森〉もまた、その延長線上に位置していた。
作業員に声をかけると、回収されたばかりの〈機械人形〉が集められる区画へ案内された。広大な施設で、通路はどれも同じ灰色の壁に覆われ、方向感覚が狂う。案内人がいなければ迷うのは確実だった。
ここでも、イジュンがいなければ相手にされなかったかもしれない。〈灰荷隊〉が身につける灰色の外套は、この拠点では通行証のようなものだ。彼らがどれほど重要な役割を担っているか、こういう場面でよく分かる。
無機質な廊下を進むと、やがて広い空間に出た。そこには機械人形の残骸が山のように積まれていた。手足が欠け、胴体が裂け、内部のケーブルが乾いた血管のように露出している。
まともな状態の機体はひとつもない。足元に転がる頭部パーツを拾い上げると、単眼のレンズが割れているのが見えた。〈ソニー〉の光学センサーだろうか。
〈廃墟の街〉でも恐れられる〈アサルトロイド〉の頭部だ。廃墟では滅多に見ることはないが、この場所ではありふれたガラクタらしい。
周囲には腕部ユニット、脚部サーボ、破損した制御基板が無造作に積まれている。赤い警告灯が断続的に点滅し、影が機械の残骸の上でゆらりと形を変えた。薬品の刺激臭と鉄の臭気が混ざり、空気がざらついている。
戦闘用の機械人形をあてにしていたが、この場所なら軍用に改良された〈アサルトロイド〉が見つかるかもしれない。
目的を伝えると、作業員はうなずき、ひとりの〈浄化人〉のもとへ案内してくれた。その〈浄化人〉は、昆虫の変異体を解体して資材を調達する作業をしていた。
黒いゴムエプロンを身につけ、肉切り包丁を握り、大型犬ほどの甲虫をステンレスのテーブルに載せてひっくり返すと、器用に足を切断していく。関節が外れるたび、乾いた音が響いた。
腹部を裂くと、濃い体液が流れ出し、内臓が露わになる。毒腺や感覚器官は貴重な資材になるため、捨てることはない。外骨格は別の容器に放り込まれ、装甲材として再利用される。作業は淡々としていて、まるで日常の家事のようだったが、見ているだけで吐き気を催しそうになる。
案内してくれた作業員が声をかけると、ガスマスクを装着した〈浄化人〉は手を止め、こちらへ歩いてきた。赤い警告灯がその背後で点滅し、影が踊るように揺れた。




