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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第九部・新たなる脅威 後編

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180/211

180 組合事務所〈運び屋〉


◆事務所


 古びた空調の唸りが耳にまとわりつき、油と埃の混ざった臭いが鼻を刺した。蛍光灯は半分が死んでいて、わずかに残った光が薄汚れた床を照らしている。


 人生に疲れ切ったような表情をした事務員に傭兵を雇いたいと告げると、彼は無言のまま奥の部屋へと我々を通した。


 何をするでもなく退屈そうにしていた傭兵が何人か廊下に立っていたが、とくに声をかけてくる者はいなかった。来訪者を見張るためではなく、むしろ事務員たちの仕事を監視しているような節さえあった。


 俺は薄汚れたソファーに腰を下ろしたが、イジュンは警戒しているのか、〈人工眼球(サイバーアイ)〉を明滅させながら部屋の隅々を走査していた。


 壁の裏に盗聴器がないか、隣室に襲撃者が潜んでいないか、空調ダクトに監視ドローンが忍び込んでいないか――彼の眼球は旧文明のセンサー技術を流用した高感度の光学装置だ。


 わずかな熱源や電磁ノイズを拾い、怪しいものがあれば即座に警告を発する。大げさに見えるかもしれないが、こういう場所では警戒しすぎるくらいでちょうどいい。


 しばらくして担当者が姿を見せた。唇の中央に深い傷跡が縦に走り、つねに前歯が露出している強面の男だった。義肢の関節が軋む音がして、彼がかつて前線に立っていたことが分かる。大怪我をして現場に出られなくなり、裏方に回されたのだろう。


 その男は端末を操作しながら、〈侵食帯〉の探索に向いた傭兵を何人か紹介してきたが、イジュンが知っている名はひとつもなかった。端末の画面には、ノイズ混じりの顔写真と、仕事の履歴の断片だけが淡々と並んでいた。


 どれも新人で頼りない者ばかりだ。〈廃墟の街〉で生き延びることができても、〈侵食帯〉では事情が違う。甘い考えを持つ者から死んでいく。イジュンがそのことを指摘すると、担当者は肩をすくめて言った。


「それがよ、組合内のごたごたで、今出せるのはこいつらだけなんだ」


 その言葉に、イジュンの義眼がわずかに光を強めた。どうもキナ臭い。組合の内部で問題が起きていることは知っていた。勢力争いか、裏切りか、あるいは〈大樹の森〉に関わる別の思惑か。いずれにせよ、今の俺たちにとっては都合の悪い話だった。


 俺はソファーの背にもたれながら、静かに息を吐いた。同行者を誤れば、森に入る前に命を落とすことになる。傭兵は慎重に選択する必要があった。


 担当者は、俺たちが渋い顔をしているのに気づいたのだろう。「信頼できて仕事のできる連中も、いるにはいる」と言い、端末を操作して別の候補を示した。しかし、その傭兵たちは旧鉄道の車両基地――通称〈鉄庭(アイアンヤード)〉にいるらしく、現在は連絡が取れないという。


 貨物列車の整備拠点だった〈鉄庭〉は広大な格納庫で、かつては多くの傭兵が常駐していたが、今では組合自身もどうなっているのか把握できていないらしい。


〈侵食帯〉に隣接するだけでなく、崩れた鉄骨が迷路のように入り組んだ場所だ。変異体の群れに襲撃されたのか、それとも放棄されたのか――担当者はそれ以上語らず、「だから、この人員の中から選べ。嫌なら出て行け」と突き放した。


 客に困っていないのか、それともハッタリか。いずれにせよ、提示されたリストから選ぶしかない状況だった。


 端末に映し出されたリストには傭兵たちの経歴が簡潔に記載されていたが、それが本当かどうか確かめる術はない。正直、〈廃墟の街〉での小競り合いを生き延びた程度の者ばかりで、〈侵食帯〉の深部に踏み込むには心許ない。


 人数合わせで雇うつもりはなかったが、今回はどうしようもないようだ。しかも、クレジットは前払いだという。傭兵が死んだから払わない、という事態を避けるためらしいが、信用できない要素ばかりが積み重なっていく。


 事務所の薄暗い照明が、端末の画面に走るノイズを強調し、嫌な予感をさらに濃くした。イジュンは担当者の態度を観察していたが、やがて小さく首を振った。


 俺たちは傭兵を雇うのをやめた。後日、正式に契約しに来ると言って事務所を出たが、戻ってくるつもりはなかった。外に出ると、空気に混じる鉄錆の臭いが肺に沈み、街のネオンが濁った光を路面に落としていた。



 廃墟の通りに出ると、白い蒸気が足元で揺れ、路地裏に向かってドブネズミが駆けていくのが見えた。背後の事務所からは、傭兵たちの笑い声が漏れ聞こえてくる。俺とイジュンは無言のまま歩き出した。ここでは、信用できる者を見誤れば死に直結する。


 とにかく、〈鉄根(てっこん)〉に物資を受け取りに行くことにした。イジュンがいれば、正規の価格で取引してくれるだろう。傭兵については適当な考えが浮かばなかったが、イジュンには別の案があるようだ。


 人間がダメなら機械人形に頼ればいいと彼は言う。人工知能によって制御された戦闘用ドロイドなら、裏切りを心配する必要がない。何人かの傭兵を雇うクレジットで、整備の行き届いた機械人形を買えばいい。彼の考えは、悪くないように思えた。


 さっそく〈鉄根〉で手に入れられないか探すことにしたが、今は在庫がないようだ。そこで、〈大樹の森〉からの遺物が多く集まる処理施設を勧められた。そこなら、いい機体が手に入るかもしれないと。物資の支払いを済ませると、俺たちはカーゴドローンを連れて、〈浄化工房〉と呼ばれる処理場へ向かうことにした。

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