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不死の子供たち・設定集  作者: パウロ・ハタナカ
第九部・新たなる脅威 後編

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177/211

177 市場〈運び屋〉


◆市場


 物資を調達するため、俺は〈裂け目亭〉を離れ、市場へ向かった。通りに出ると、裂けた配管から白い蒸気が噴き上がり、ネオンの光を乱反射させる。湿った金属の臭いと焦げたオゾンの香りが鼻を刺し、人々が行き交うたびに蒸気が渦を巻くのが見えた。死んだ街そのものが、どす黒い肺で呼吸しているかのようだった。


 市場は、崩れた高架の下に広がっている。鉄骨がむき出しになった天井からは雨水が細い糸のように滴り落ち、地面の油膜に虹色の輪を描いていた。薄暗い空間では発電機の唸りが低く響き、どこかで誰かが怒鳴る声が反響している。


 そこに集まる人種は実にさまざまだ。浅黒い肌の傭兵、旧アジア圏の言語で怒鳴り合う商人、〈サイバネティクス〉の義肢をむき出しにしたスカベンジャー、そして布で顔を覆った謎めいた連中。


 混沌とした世界が、そのまま雑踏になって押し寄せてくるようだった。誰もが疑い深い目をしていて、誰もが何かを失い、何かを奪おうとしている。


 露店には、〈大樹の森〉から回収された貴重な鉄屑や電子機器が山のように積まれていた。旧文明の基板、焼け焦げたドローンの残骸、用途不明のパーツ。価値があるのかないのか判別がつかないが、商人たちは誇らしげに高値を吹っかけてくる。彼らの目は、信用よりも利益の匂いに敏感だ。


 なかには、昆虫の変異体から剥ぎ取った外骨格を売る者もいた。黒光りする殻は異様に硬く、指で叩くと金属のような硬質な音がする。銃弾すら無力化するという代物で、多脚車両の装甲に使われることが多い。殻の表面には、かつて生き物だった名残のように微かな傷が浮かび、見ているだけで背筋が冷える。


 市場の奥では、巨大な昆虫の脚部が吊るされ、買い物客の前で解体されていた。生体素材を扱う商人が殻の強度を誇示するようにハンマーで叩きつけると、鈍い音が響き、周囲の客がどよめく。どこからか噴き出した蒸気が脚部の周囲にまとわりつくと、まるで生きているかのように動いて見えた。


 薄暗い通りを歩くたび、誰かの怒号や嬌声、電子音に油の焼ける臭いが入り混じり、頭の奥がじんじんと痺れる。路地の暗がりからは、義眼を持つ者がこちらを値踏みするように見つめ、義肢の駆動音が背後を通り過ぎる。市場全体が、混沌と欲望と生存本能でできた巨大な生き物のようだった。


 俺はその雑踏を抜け、〈鉄根(てっこん)〉と呼ばれる工房へ向かう。市場の喧騒が背後に遠ざかるにつれ、武装した連中の視線が肌に刺さるように感じるが、すべて無視する。面倒事は御免だ。


〈鉄根〉は市場の外れ、横倒しになった高架の影に隠れるように建っている。遠目には、ただの薄汚いジャンクヤードだ。積み上げられた鉄屑、焼け焦げた多脚車両の残骸、用途不明の義肢が無造作に転がり、風が吹くたびに金属片が擦れ合って不吉な音を立てる。


 だが、近づくにつれて、そこがただの廃材置き場ではないことが分かる。溶接の閃光が断続的に走り、焦げた金属の臭いが鼻を刺す。工房の奥からは油圧機構の唸りと義肢の駆動テストの振動音が混ざり合い、そこで働く者たちの活気が空気を震わせていた。


 この場所は、傭兵やスカベンジャーたちが武器や装備を修理するための重要な拠点だ。既知の技術で作られた火器から旧文明の電子機器、義肢の調整まで、あらゆる装備に対応できる職人が揃っている。


 彼らの多くは組織に属さない独立系の職人や技術者だが、例外的に〈技術組合〉だけは専門職を派遣し、この工房の技術力を底上げしていた。


 彼らは、旧文明期の〈データベース〉に残された分散型情報網――〈デッドネット〉へアクセスし、森で回収された遺物のデータを復元する。破損した記録媒体から情報を抽出し、暗号化された端末を解析し、装備の設計図や製造履歴、さらには旧文明のソフトウェアまで拾い上げる。その技術は、もはや魔術に近い精度を持っていた。


 工房内は、さらに混沌としていた。天井から吊るされた照明はちらつき、床にはケーブルが這い回り、壁には分解途中の義肢や火器が並んでいる。油と金属の臭いが混ざり合い、機械の唸りが空気を震わせ、ここが生と死の境界線で働く者たちを支える場所だと否応なく思い知らせてくる。


 職人たちは油にまみれた手で工具を操り、火花を散らしながら作業を続けていた。ある者は多脚車両の脚部を調整し、別の者は昆虫の外骨格を切断して装甲板に加工している。銃弾すら弾く殻は金属より軽く、熱にも強い。この世界で生き残るための素材としては、これ以上ないほど優秀だった。


 身体改造用の設備も揃っていて、義肢の調整を受ける傭兵たちが談笑している姿も見られた。〈侵食帯〉は危険な場所だが、実入りがいい。だからこそ、半端な〈鳥籠〉よりも、よほどいい設備が整っているのだろう。


 俺は工房の入り口で立ち止まり、油と蒸気の混ざった空気を吸い込んだ。ここで必要な物資を揃えなければ、〈大樹の森〉には立ち入れない。タカクラのもとへ向かう前に準備を整える必要があるが、イジュンがいなければ、いいカモにされて終わりだ。まずは、何があるのか見てみることにした。

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