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恵みの雨

水神様の神気を乗っけて、わっちは全力で駆けた。


確かに白龍様ならお力添えくださるかもしれないものねえ。ああ見えてわっちの主は、他人から力を借りる為の嗅覚はとても鋭い。それに白龍様は面倒だとかうるさいだとか言いながらも、根は優しいお方だ。知り合いらしい水神様をけして無碍にはなさりますまい。


結界を抜けて長い長い階段を駆け上がると、お社に威風堂々とした真白いお姿が見えた。



「白龍様」


「ウメか、久しいな……なんだその、霞のように心許ない神気は」



相変わらず不機嫌そうに言って、白龍様はわっちを撫でる。神様なんて便利なもんで、神気を交わせば言葉なんぞなくとも大体の情報は読み取れるってんだから恐れ入るよ、まったく。



「やれ、あやつは相変わらず甘い事よ。神罰のひとつもくれてやらんから消えそうな羽目になるものを」



暫く黙ってわっちを撫でていた白龍様は、呆れたように独りごちた。どうやら状況は大方読み込んでいただけたようだね、まったく、わっちも同意見ですよ、白龍様。



それでもお人好しさでは負けず劣らずの白龍様の事だ、ぶすっとした顔しちゃあいるが、案の定「運べ」と一言。もちろんわっちは走るしかない。今度は水神様がおいでのお屋敷に向かってただひたすらに疾走する。まったく人使いのあらい神様たちだよ、しょうがないねえ。





「ああ白龍、来てくれたのね」


「仕方あるまい、みすみす消滅させるわけにもいくまいて」



満面の笑みで迎えり水神様に、あくまで白龍様は憮然とした面持ちで対応している。慣れているのか、それでも水神様は嬉しそうだった。



「それでは皆々様、月も中天を越しております。雨を呼ばう儀を致しましょう」



いつになく、主が厳かに宣じる。



井戸の周りには急拵えの祭壇に供物が捧げられ、いっぱしの準備がなされていた。その場に、金次郎さんの奏でる胡弓の繊細な音が響いていく。主が止めないところを見るに、金次郎さんも楽を奏でるという方法でこの儀に参加することになったんだろう。


胡弓に合わせて主が祝詞を唱えると、また、あの天上の音楽のような美しい音色になって、音が波のようにゆらりゆらりと体を優しく包んでいくような、心地よさが広がっていく。



気持ちいい……目を閉じていても、キラキラと何か光の粒みたいなものが感じられて、なんだか夢みてるみたいだねえ……。



「なんと…!」



横から息をのむような、不粋な音が聞こえると思ったら、銀之助と作治が一心に空を見つめていた。目線の先を追えば、仄かに光を纏った水神様が、空に浮いていく。


それはもう、この世のものとは思えない、美しい光景だった。


纏った光が天女の羽衣のように水神様を彩って、たなびく姿も美しい。



水神様が天を仰ぐように、その両の手を挙げた時。

白龍様が一気に天へ向かって駆け登り、道を開いた。


眩い光が空に閃く。




その途端。


ごうっ、と一陣、爽やかな風が吹き抜けて、大粒の雨が落ちてきた。


乾ききった空気を洗い流すかのような、恵みの雨。


ざあざあと音を立てて降ってきた雨に、真夜中だというのにあちらこちらで戸の開く音がする。誰も彼も、あまりの日照りに、雨を今か今かと待ってたってことなんだろうねえ。



花が綻ぶような嬉しげな顔で、水神様が降りてくる。

その足元には、土砂降りの雨だというのに地べたに平伏し、水神様に許しを乞う銀之助の姿があった。




こうして、汗っかきの作治が突然持ってきた珍妙な依頼は幕を閉じた。


井戸にいたのが本当に水神様だと理解した銀之助はあわてて祠を設えなおし、今では父親の金次郎を凌ぐほどの信仰っぷりらしい。面倒だけどさ、わっちや主がちょいと助ければうまくいく人と人ならざるものの関係もあるわけで。


首尾よく解決できた満足感で、わっちはなんだかとっても機嫌よく、おざぶの上でゴロゴロと喉を鳴らしたのだった。



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