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兄とサエ  作者: 栗栄太
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20 告知


まかせると言ったわりに、親父はその後俺に指示を出した。

「 お前はサエが事実を知れば、孝也とサエの関係が男と女のそれになってこじれると思ってるわけだな。だが、それは有り得ん。何故なら事実を知ったところでサエは孝也のことを男としては見ないからだ。だってお前、今まで弟だと信じてた十二の子供だぞ。サエはお前と違って変態じゃねえ。よって有り得ん。自分だけ知らなかったことに泣き叫びはするだろうが、落ち着いたら元に戻る。何も変わらん。サエと孝也はギクシャクした姉弟のままだ。と言うわけで、お前はサエに事実を告げてなだめる役だ。良いな。今回に限り夜に会うことを許す。解散だ」 

まかせるとは、事実を伝えることを任せるという意味だったらしい。

サエが孝也を男として見ない理由が、十二だからと言うのには絶対に納得出来ねえが、事実を隠しサエに血が繋がっていると思わせることは、孝也に対して卑怯な行いだと気付いた。

サエは泣くだろうが事実を告げるしかない。



「 サエ。話がある。土手に行くぞ」 

仕事が終わってから、再びサエの店に出向いた。

完全に無視されているが親父が俺に気付き助け舟を出した。

「 サエ。行ってこい。父さんが頼んだんだ」 

サエは親父に向かって色々煩く言っていたが、親父がサエを店から押し出した。

「 サエ。善の話を落ち着いて聞けよ。お前が善に腹立ててる件も解決するから」

「 おっちゃん、そこまで言うなら自分で話せよ。俺いらねえだろ・・・」

親父は慌てていった。

「 いや、お前は絶対に要る。サエを頼んだぞ」 

そういい残して、そそくさと店に戻っていった。よっぽどサエの泣き叫ぶ様子を見たくないとみえる。

「 何なの父さんったら」 

「 お前の泣き面を見たくないんだってよ」 

サエはまるでお前には話しかけていないとでも言うように、顔から表情をなくし俺を無視した。

「 酷えこと言ったのに悪いな。ちょっとで良い。付き合ってくれ」 

返事は期待せず声をかけたが、やはり返らぬサエの声を求めて胸が痛かった。



「 こないだの山ん中よりましだが、あまりに暗くて転げ落ちそうだな。お前落ちんなよ」 

「 何なのよ。早く話して」 

月の明かりでほの暗い土手に着くと、サエは立ったままそういった。

「 この間お前が聞きたがってた話だ。俺が言うのを止めた、まさかの続きだよ。お前の親父に確認したら俺が話せってことでな。悪いな」 

サエは冷めた目で俺を見ていた。

この目じゃ流石に俺も、サエが自分を好いているなどとは勘違いしていられなかっただろう。

きっと以前の冷めたような目はサエが無理をして作っていたものだったのだろう。


「 あれは、まさか知らないのかって言いたかったんだ。お前、孝也と血の繋がりがねえの知らねえだろう」 

サエはその冷めた目を見る見る怒りのそれに変え、食って掛かってきた。

「 うそ!どうしてまたそんなこと言うの!どれだけあたしを傷つけたら気が済むのよ!何であんたが!何であんたがそういう事ばっかり言うのよ!好きな人にそんな酷いこと言われるあたしの身にもなってよ!」 

サエは途中からぼろぼろと涙をこぼし、泣き叫んだ。

そしてそのまま踵を返して駆け出そうとした。

とっさにサエの腕を掴むと、サエが振りほどこうともがいた。

「 放して!帰る!」 

今日は暴れることを予想していたのでサエを押さえることは容易かった。

こんなに簡単で良いのかと不安になるくらいサエは非力だった。

サエの両腕ごと囲うように抱きしめると、サエが叫んだ。

「 放して!」 

「 待て。それは出来ん。今放すとその辺から転がり落ちんのは目に見えてっからな。ちょっとだけ我慢しろ。おめえの親父に話してなだめるまでやれって命令されてる」 

急に大人しくなったサエは俺の腕の中で呆然と呟いた。。

「 ・・・・・何なのよそれ。父さんが・・・?何を言えって?」 


「 お前の親父が、孝也とお前に血の繋がりがないことを話せってよ」 

ゆっくりとサエの沸いた頭に浸透させるように言った。

「 聞こえたか?」 

サエは微動だにせず随分長い間無言のままだった。






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