19 親父の確信
「 おう善太郎。どうした?昨日、サエが凄い顔して帰ってきたぞ。なんで喧嘩したんだ?」
「 おっちゃん、サエは孝也のこと知らねえのか?」
サエの親父は、何の話だ、という顔をした。
「 サエはどう見ても孝也にかまい過ぎてっだろ?」
親父は驚いた顔をしてしばらく固まった。
「 いや、まさかなあ。知らんなんてことは・・・。わざわざ言ったことはねえが、だって、お前、孝也の母親は赤ん坊のあいつを連れてうちに来たんだからよ」
「 ああ、皆知ってる。けど梅は知らねえみてえだ。孝也は生まれたての赤ん坊だったし、あの位の年より下の連中は分かってなかったんじゃねえのか?しかもサエは同じくらいの年の奴らより阿呆だったしよ」
親父は血の気の引いた顔をしていた。サエが周知の事実を今更聞かされた時の衝撃を思っているのだろう。
「 ・・・まずいな。どうしたもんかな・・・」
考え込んだ親父がふと顔を上げた。
「 お前らの喧嘩の原因はそれか。サエに言ってくれたのか?」
「 いや、それは言ってねえ」
「 それはって・・・。他の何言ってあんなに怒らせたんだ」
「 あー、孝也がサエを好きだからかまい過ぎんなって言った」
親父は呆れたように唖然とした。
「 ・・・・肝心なところを知らんまま、それを聞いたのか。とんでもねえな」
「 ああ。だから俺にとんでもなく怒ってるぞ」
「 お前なあ。なんでそんなに怒らせといて、本当のことを言わなかったんだ。そこで言っててくれりゃあ俺が悩むこともなかっただろ」
親父は頭を抱えた。
「 知らんままの方がサエが楽かと思ってよ。今まで気付いてねえってことは、サエの周りにその事を話題にするような口さがない連中がいねえってことだろ。だったらこのまま知らずにいられるんじゃねえの。・・・危なかったな、俺がその悪人になるとこだった」
「 いやでも、いつどっからばれるかわかんねえだろ。現に孝也はどっかから聞いて知ってる訳だし。だから捻くれてんのか?・・・そうゆう余所の悪人に聞かされるよりお前が言った方がましだと思うけどな」
「 俺に嫌な役押し付けてんじゃねえよ」
「 押し付けてるわけじゃねえ。お前から言えば、サエのお前に対する誤解も解けるし、サエもお前に慰めてもらえる。そうすりゃ俺のとこに来るときにはちったあ落ち着いてるだろ。良いこと尽くしじゃねえか」
「 おっちゃんが半狂乱のサエをなだめたくねえだけじゃねえかよ」
「 やっぱり半狂乱にはなるよな・・・・」
「 間違いねえだろ・・・」
「 善太郎、お前が言ってくれ!おっちゃんは耐えられそうにねえ」
親父が俺に手を合わせた。
「 家族の問題だろ!家族会議しろよ三人で!」
「 ・・・・お前ほんとにそれで良いと思ってんのか?」
親父がいきなり冷めた目で俺を見てそう言うので、自分が何を言ったか考えた。
「 良くねえな。孝也の前では駄目だな。てえかやっぱり俺はわざわざ言う必要ねえと思うぞ。孝也にサエは血の事知らねえって言っとけば、それで良い。あんなに孝也のことに神経質になってんのは、どうせもうギクシャクしてっからだろ?これ以上悪くなりゃサエがきつい」
親父は呆れたような顔で俺を見て言った。
「 お前はそれでいいのか?それじゃお前がとんでもねえことを考えてるって誤解が解けねえだろ?かわりにお前とサエの仲がギクシャクするじゃねえか」
「 ああ、もう既に昼、これっきりだって言われてる。問題ねえ」
「 はあ?馬鹿かおめえ。そりゃ大問題って言うんだよ。サエはお前との仲がこじれることの方が辛いと思うぞ」
「 いや、サエは孝也のことを自分の子供みてえに思ってる。母親もえらく子供っぽいけどよ。母親は男より子のことを優先するもんだろ。サエに聞くわけにはいかねえけどよ、俺より孝也との関係が上手くいくことを望むに決まってる」
「お前、それはなんか、孝也に対する僻みに聞こえるぞ」
「 ああ、そうかもな。サエは前からあのくそガキのことばっかりだからな」
「 くそガキってなあ。あれも俺の子だぞ。お前でかい図体して十二の子供に嫉妬か」
「 十二だからってあいつの気持ち馬鹿にすんなよ。俺は十二の時には既にサエが好きだったんだ。五年後に孝也が立派な敵になってても何もおかしくねえ」
親父がため息を吐いた。
「 お前は何なんだ。孝也の敵なのか味方なのかわからんぞ」
「 ガキの恋を応援したい気持ちもある。だが、相手がサエじゃムカつくだけだ。あのくそガキは気に入らねえ。サエが悲しむから仲たがいもさせたくねえ。でもやっぱり孝也孝也言うからむかついて、孝也から離れろって言っちまう」
孝也が逃げ回って必死で隠してたあいつの気持ちも言っちまった。
結局俺が嫉妬心でサエを傷付けたことを再確認して、うなだれた。
「 お前にしては複雑なんだな・・・。俺としてはやっぱり子供相手に嫉妬すんなと言いたいが」
親父はぽんと俺の肩に手を乗せて言った。
「 何にしても、お前がサエのことを一番考えてる。お前にまかせるわ」
「 サエのことを考えてんのは孝也もだろ。・・・・おっちゃん、もし孝也が十年たってもサエを好いたまんまなら、サエはあいつと居たほうが幸せだと思うか?」
「 いや全く思わねえな。サエは昔からお前にしか操縦できん。孝也じゃ百年たっても無理だろうよ。それにサエが好いてんのはお前だ。孝也じゃねえ」
俺は親父の言葉に感動した。
「 やめろ!何するんだ!抱きつくな善!」




