18 腹立ちと謝罪
「 何で怒ってんだ?」
「 ・・・・」
通りがかりに声をかけたが、視線を逸らし口をきかないサエに尋ねた。
「 お前ここ何日もそんな風だな。流石にそれは可愛くねえぞ」
サエの顔が泣きそうに歪んだ。
「 待て、泣くな。泣く前に何で怒ってんのか話せ」
サエは口をぎゅっと引き結んで答えない。
「 今しゃべれば泣くか。じゃあ・・・・・明日の昼飯だ。弁当持って土手だ。良いな」
サエは頷いたかどうかも怪しかったが、来なければ連れに行くだけだ。
「 前見えんのか?送るか?」
これには首を振った。
「 良し。じゃあ泣かずに気をつけて帰れ」
翌日の昼、サエを土手へ連行し、先日と同じ場所に座らせた。
「 まず食え」
サエは仏頂面で弁当を開き黙々と食べた。
半分ほど食べたところで、草の上に座っている俺に言った。
「 兄さんは」
「 あ?何だ?」
「 食べたの?お昼」
サエが仏頂面のまま尋ねた。
「 いや、まだだ。戻りにどっかで食う」
「 これ良いわよ。どうぞ」
サエが自分の弁当の残りを差し出した。
「 お。良いのか?でもおめえ足りねえだろ。気にすんな」
「 もう良い。お腹いっぱい」
サエが無愛想にそうつぶやくので、遠慮せずさっさと平らげた。
「 ご馳走さん。旨かった」
サエは空の弁当箱を受け取ると、無言で受け取り布に包み始めた。
「 お前よお、何で言いたいこと我慢してんだ?仏頂面もこう何日も続けりゃ疲れんだろ」
サエは黙ったままだ。
「 怒ってんなら怒った顔しろ。そんでいつもみてえに怒鳴ってろ。そっちのほうが可愛い」
サエは途端に情けない表情になり、視線を俺に向けた。
「 この前いっぱいあんたに怒鳴られたけど、何言ったらあんたを怒らせるのかが分からないのよ」
呆れてサエの顔を見つめた。
「 何だおめえ。俺を怒らせるのが嫌で黙ってんのか?」
サエはまた仏頂面に戻り言いにくそうに答えた。
「 ・・・・別に怒られるだけなら良いんだけど・・・」
「 ああ、何だ。怒らせたら嫌われるとでも思ってんのか?」
サエの顔がかすかに赤味をおびた。
「 おめえ可愛いがな、馬鹿言ってんじゃねえぞ。今まで俺がどんだけお前にぼろ糞言われてると思ってんだ。お前の文句くれえで今更嫌えると思ってんのか」
赤い顔をして横目で俺を見ているサエにそう言い、頭をがしがしかき回した。
「 もう、止めてよ!髪がぐちゃぐちゃになる! 」
俺の手を叩き落し頭を撫で付けているサエにもう一度聞く。
「 で、何に腹立ててたんだ。何を言われても怒らねえって約束すっから言え」
サエは俺の顔をじっと見ていたが渋々口を開いた。
「 その話ならもう終いだ!帰るぞ。立て」
あろうことかサエは、くそガキを怒鳴ったと、俺に文句を言ったのだ。
「 何よ!何言っても怒らないって言ったじゃない!だから我慢してたのに!」
サエは涙声だったが、俺の腹の中もおさまらなかった。
「 それは取り消す。お前があのガキを庇う台詞は聞きたくねえ。帰るぞ」
「 何でよ。ガキガキって。私の弟よ?どうしてそんなに酷く言うの!」
「 弟だと思ってんのはお前だけだ。あいつはそうは思ってねえ!」
サエは愕然とした顔で俺を見た。
「 何よ。孝也が私のこと嫌ってるとでも言いたいの?そんなはずないわ!私はあの子の母親代わりよ!あの子だって私を好いてるわ・・・」
サエは弱弱しく叫び、遂に涙を溢れさせた。
「 あいつがお前を好いてるのは分かってる。だが、あいつはお前のことを姉だとも母親だとも思ってねえ。あいつはもう子供じゃねえんだ、放っておけ!」
サエは俺を睨み付けなおも言い募った。
「 どうしてそんなこと言うのよ!家族なのよ!放っておけるわけないじゃない!」
「 だからあいつはそうは思ってねえって言ってんだろ!」
堂々巡りの怒鳴り合いだ。ここまで孝也を弟だと言い張るサエにくそガキが気の毒にさえ思えてきた。
「 お前がそんなだから家に居られないんだよ。あいつはまだ小せえが男だ。好いた女が弟だ家族だってかまってきたら辛えに決まってんだろ」
サエはしばらく息をするのも忘れたように、俺の顔を凝視したままたたずんでいた。
そして更に激しく叫びだした。
「 最低!どうしてそういうこと言うの!?半分だけど、血の繋がった姉弟なのよ!信じられない!変態!大っ嫌い!」
そういうとしゃがみ込んで泣き始めた。
「 待て、おめえ今なんて言った?まさか・・・・・いや、良い。良し。悪かった。すまん。二度と孝也のことは悪く言わねえ。本当に悪かったな。泣くな」
しゃがみ込んだサエを自分も屈んで抱きしめようとすると、「 やめて!」と金切り声で叫ばれ腕を振り払われた。
「 悪かった。許してくれ」
再びそう言うと、サエがピタリと泣き止んだ。
「 どういうこと?」
低い涙声で顔を膝に伏せたままそう聞いてきた。
「 いや、何でもねえ。泣き止んだなら帰るぞ。ほら」
サエを立たせようと持ち上げようとしたが、サエはその腕も振り払い自力で勢い良く立ち上がった。
「 何なのよ!怒ったり謝ったり!訳わかんない!まさか何なの?何か言いかけて止めたでしょ?」
「 いや、良い。気にすんな」
サエは喚き続けた。
「 嫌よ!あんた孝也と私にすっごい失礼なこと言ったんだからね!謝ったって絶対許さない!大っ嫌い!」
「 落ち着け。大嫌いは何度も言うな。流石に俺も落ち込む」
「 嫌!もうどっか行け!あんたとはこれっきりよ!」
サエは涙を流しながらすごい剣幕だった。
無理もない。間違いなくサエは知らないのだ。それならさっき俺が言ってしまったことを許せるはずはない。
「 悪かった。本当に反省してる。出来れば許して欲しい」
俺は頭を下げて、そのままサエから離れた。




