17 新たな問題
「 善太郎はいい男になったが、相変わらず可笑しなやつだな」
父さんが不意にそんなことを言って笑い出した。
「 よおサエ。もう俺に会いたくなったか、がはは!」
「 お使いで歩いてるだけよ。・・・・・すっかり元通りね。これが本心だったとはね・・・」
梅の水茶屋の前を通りかかると、こちらも使いできていたのだろう善太郎が声をかけて来た。
「 お寺にこれ届けたら寄るから。じゃあね兄さん」
前半は梅に、後半は善太郎に言って、茶屋を過ぎた。
「 上手くいったって聞いたけど兄さんの気のせいだったの?」
梅がお茶を出してくれながら言った。
「 ああ。上手くはいったわよ」
「 それにしては全く変わりないわね。会ってる様子もないし、今もさっさと帰っちゃったし。サエが少し落ち着いたくらい?」
梅が不思議そうに言う。
あの山の中での夜以来、梅に会うのは初めてだった。
「 まあねえ」
「 怖かったでしょ真っ暗で」
「 うん。めちゃくちゃ怖かった。あんなに暗くなるのね夜って」
「 確かにねえ。暗くなってから出歩くことなんてそうないもんね。しかも月も全くなかったし」
本当に怖かった。一向に目の慣れることが無い暗闇で気が狂うかと思っていたところに兄さんの声が聞こえたのだ。
「 本当にどうやって私を見つけたのかしら、あの広い山中で」
「 愛の力だって言ってたわよ」
梅が思い出し笑いをしながら言った。
「 ・・・・馬鹿ね」
あの晩サエが目覚めた後、夜明けまでそう時はなかったが、善太郎の下半身を気にしながら彼の膝の上で夜明けを待った。
善太郎はその部分以外は想像以上に大人で、サエに気を使わせることなく朝まで陽気にしゃべり続けた。
正直とても寒かったので善太郎の暖かい大きな身体と気遣いは有難かった。
「 意外に優しかったわ」
梅はにやりとした。全く似合わない。
「 サエにだけでしょ。優しい兄さんなんか見たことないわ。いつも人のことからかってるか無関心かだもの」
「 そうね。しかもめちゃくちゃ怒るし怒鳴るし。何度も」
今度は梅は驚いた表情をみせた。
あたしもすごくびっくりしたのだ。大声でしゃべるのは常だが、あんなに怒鳴るあの人は見たことがなかった。
「 怒ってる兄さんなんてそう見ないわよ。サエに怒鳴るなんて信じられない。よっぽど心配だったのね」
梅はそう言って、思い出したようにこう言った。
「 そういえばサエを心配するあまり、物凄い剣幕で孝ちゃんにも怒鳴ってたわ。ごめんね」
「 何ですって!?信じらんない!まだ子供なのに!あの子だって暗くて心細かったに違いないのに!」
「 うんそうだよね。兄さんはサエのことを心配しすぎて普通じゃなかったのかも」
梅がまずいことを言った、という顔をしてなだめようとしたが、あたしの怒りは収まらなかった。




