16 降参の後
サエの頭を掴み、口づけを深くしようとすると、待ったがかかった。
「 待って。おわり!」
「 ああ?ふざけんなよ」
俺の顔に手を突っ張り離れて行こうとしているサエを抱き寄せ、動けないように固めた。
「 苦しいって。これ以上やったらあんたがおかしくなるでしょう」
サエが俺の顔の間近でそう言った。
「 もう遅え。お前からあんなことしてきた時点で俺の理性は限界を越えてんだよ」
ようやく顔が見える距離に居るサエに堪らず、首筋に顔を埋めようとした。
「 やめてやめて!」
サエが耳元で叫んだ。
「 煩えなあ。俺のこと好きだって言ったろ?」
まさか空耳だったかとサエの顔を覗きこみ尋ねると、サエが泣きそうな情けない声で答えた。
「 言ったけど」
「 何だよ泣くな。嫌ならしねえ」
固めていたサエの細くて柔らかい身体から、死ぬ気で両腕を離した。
「 ふう。お前が嫌がると思えば意外と我慢もきくもんだな。すげえな俺」
「 ・・・・」
「 何だどうした。たってんのは我慢しろよ。好いた女に口付けられたんだ。誰だってこうなる」
膝の上にサエを乗せ、向かい合ったまま言った。
降ろしたほうが我慢は楽だが、サエの柔らかい身体の重さがなくなるのは勿体無くてそうはしたくなかった。
「 煩い・・・」
サエに膝から降ろしてくれと言われず安堵した。
「 どうした 」
「 ・・・・・嫌なわけじゃないけど!」
照れているのか小さく叫びながら口ごもる。
「 けどなんだ」
「 ・・・先に赤ちゃん出来ちゃったら、あんたのとこにお嫁に行くの許してもらえないわ!」
サエが真っ赤になっているだろうことが窺える表情で言った。
さぞ可愛らしいだろう、明るい場所でサエの顔をよく見たかった。
「 なんだおめえ、そんなこと心配してんのか。大丈夫だ。出来ねえようにする」
「 馬鹿!阿呆!そういうこと言うな!それに確実じゃないからやっぱり駄目!」
「 おめえ中々冷静だな。まさか初めてじゃねえなんてえことは」
「 あるか!」
サエはばっしばっし俺の胸を叩き始めた。
「 お前の癇癪も懐かしいな。よくこうやって殴られてたもんな」
サエは俺の胸にどんと額をくっつけた。昔を思い出すしぐさに可愛くて頬が緩む。
「 ・・・・覚えてない」
「 何だとおめえ。あんだけ俺を殴る蹴るしといて忘れただと?」
「 全く覚えてない・・・」
あの暴挙を忘れたと言う本人に思わずため息が出た。
「 梅が清秋んとこで泣いてたみてえに、お前は俺んとこに来てたんだよ。泣くって言うより、涙と鼻水垂らしながら叫んで暴れるってえ感じだったけどよ」
梅と清秋を思い出したおかげで身体の内で燻る熱を抑えることが出来そうな気がしてきた。
「 ・・・・嘘でしょ」
「 何で嘘なんだよ。今とそう変わんねえだろうが。梅はあんまり泣かなかったが、おめえはしょっちゅう泣き叫んでたぞ。だが、叫びながら必ず俺を探し回ってな。昔も今も憎たらしくて煩せえところが可愛いんだよなあ」
しみじみ言うとサエが俺の胸に顔を隠したまま言った。
「 あたし、あんたに煩せえって言われる度に傷ついてたんだからね」
「 何だそうなのか。そんならそうと早く言えよ。これからは替わりに可愛いって言ってやるよ。どっちも大して変わりねえからな。まあ半分は本当に煩せえだけだけどな」
「 むかつく・・・。・・・・人が皆あんたみたいに思ったこと全部言えるわけじゃないのよ」
今度ばかりは俺も真剣に答えた。
「 肝に銘ずる。今回は俺も懲りた」
俺は言いたいことを言っていたはずだが、サエがそれに対して何を思っているのかは全く分かっていなかった。
良かった。サエは勘違いではなく今度こそ俺のもんになった。
何より、真っ暗闇で沢に落ちた阿呆が怪我もせず生きている。本当に良かった。
サエの頭をがしがしと撫でると、「 痛い止めてよ」 と文句を言いながら自ら俺の胸に頬を摺り寄せてきた。
「 でかくなって全く素直さがなくなったがよ、そこがまた憎たらしくて可愛いんだよなあ」
「 ・・・・あんたは全部さらけ出し過ぎよ・・・・」
俺の胸に顔を伏せたまま、サエがそう文句を言った。
もう一騒動あります




