日記⑧ 39日目〜40日目
【39日目】
中隊の半数が(私ごと)包囲されて丸1日。今のところ、敵の攻撃はなんとか凌げている。部隊の突破力に期待できない以上、解囲は外の部隊に任せるしかない。恐る恐る上に現状を報告すると、本部からは意外な返答が返ってきた。
「貴隊はゼダ・フィールドの名誉そのものである。大山脈方面で多くの部隊が“撃退”の憂き目に遭う中、貴隊は予想以上の戦果を上げた」
ほう。他は苦戦しているのか。
まあうちにはユノがいるからな。彼女の軍才はまさに神がかりだ。他の部隊には真似できまい。
とはいえ、他が劣勢であるのなら、外からの救援には期待できないのでは?私が心配している間にも、本部からのテレパシーは鳴り止まない。
「しかし、方面軍全体としての劣勢は看過できない。我々は統合司令部に衛星軌道兵器の使用許可を申請し、たった今承認された」
ふんふん。衛星軌道兵器をね。あれだけの破壊力なら、人類側はひとたまりもないだろうな。
ん?待てよ?
「現時刻をもって、大山脈方面は当兵器の攻撃範囲となる。従って、ゼダ方面軍総員は直ちに攻撃範囲より退避。貴隊も包囲を突破してこれに続くべし」
ちょっと待て!ここにそんなものを撃ち込んだら、山脈ごと消し飛んじゃうだろ!
そしてなぜ上はそんな大事なことをもっと早く言わないんだ!我々は包囲され、重レーザーも使えないんだぞ!私の報告は無視か!?
マズい。このままでは我が隊は、上の良いように使い捨てられてしまう。絶望のせいか、私のアニマもさっきから真っ黒だ。
その時、ユノのやつがまた“進言”をしてきた。
「あの、考えたんですけど…」
ひょっとして、この状況を打開できるアイデアでも浮かんだのか?
「“アニマリンク”をすれば良いと思うんです」
アニマリンク、つまり生物同士のアニマを繋ぎ、その意思やエネルギーを共有すること。通常は生体兵器を操作するために軍人と兵器間で行われる行為。
しかしこんな時にアニマリンクをしてどうなる?まさか我々を生体兵器と繋いで重レーザーにエネルギーを補給しようとでも言うのか?あの金食い虫にそんなことをすれば、エネルギーを吸われた我々は逃げる体力さえ失ってしまう。
私がそう言うと、ユノはアニマをチカチカさせて否定の意思を示した。
「そうじゃないんです。重レーザーと接続するのは私たちじゃなくて、この惑星です」
……???待て、こいつは何を言っている?
「テラと重レーザーを繋いで、生体エネルギーを補給するんです」
つまりこの星のエネルギーを我々の兵器に使うということか。うん、なるほど。それは誰にも思いつかない画期的なアイデアだ。
……こいつは軍規というものを知らないのか?
制圧前の惑星アニマおよびエネルギーの転用は、統合司令部によって固く禁じられている。
勝手に惑星とアニマリンクすることでどんな影響が出るか未知数だからだ。
過去には同じような事例で、ある惑星の生態系が暴走し、星中が“臭い花”で埋め尽くされたことがある。だから惑星のエネルギー利用には、制圧後の調査が欠かせない。ユノはその調査を経ずにエネルギーを使おうとしている。
「バレなきゃ良くないですか?」
フラーがテレパシーで口を挟んできた。まずい。ギャンブル中毒まで同調しだした。いやバレるバレないの問題ではなく…。
「ここで味方に殺されるなんて理不尽です。それにレーザーを使い切ったの中隊長ですよね。私気をつけろって言いましたよね」
下からの突き上げが耳に痛い。はい、たしかに言われました。温存しとけって。自分でもバカだと思ってるんです。だからそんなに睨まないで。部下に怒られるのってすごい悲しくなるから…。
——かくして、我々は“ソル星系第3惑星テラ”とのアニマリンクを実施した。もちろんこれは中隊内、ことにユノとフラーと私だけの秘密である。
テラのエネルギーを補充された重レーザー達は機能を回復し、なんとか突破口を開いてくれた。さぁ軌道兵器が発射されるまでに撤退だ。急げ!
その時、私は何者かの声を聞いた気がした。
『うわー、また来るよあれ。あの痛いやつ。宇宙から撃ってくるとか反則だろ。もーマジで勘弁してくれ…』
それは妙に気の抜けた男の声だった。
【40日目】
山から吹き下ろす風は見たことがあるが、山自体が吹き飛ばされるのを見たのは初めてだった。間一髪、我々は辛くも自滅の危機を乗り切ったのである。
しかし予想外の出来事もあった。
テラとアニマリンクして以来、重レーザーを通して、この星のアニマに保存されたデータや記憶の一部を閲覧できるようになってしまったのだ。
それによると、我々ゼダ・フィールド方面軍が相手にしているのは、人類の中の「日本人」という個体らしく、我々が戦ってきた場所は「関東平野」という地域らしい。
初めから分かっていたことだが、やはりテラのアニマは全くの手付かずだった。人類は、惑星から生体エネルギーを取り出す技術はおろか、アニマの概念すら持ち合わせていない。
それなのに、奴らは知らず知らずの内に母星のアニマを傷つけ、汚染している。テラの鎧である無機物をいたずらに掘り起こし、文明の名の下に母星を食い荒らす人類。そのような存在はまさしく星にとっての侵略者に違いない。奴ら無毛の猿こそが、この星にとっての“インベーダー”なのだ。
ならば我々はその侵略者からテラを守る“救星種”なのか?いや。我々もまた、アニマの利用を目論む外からの侵略者に過ぎない。
だからこそテラは我々を拒絶し、内なる敵“人類”を使って核攻撃まで行わせた。毒をもって毒を制す。生存本能を上回る人類の攻撃性とは、そっくりそのままテラの性質でもあったのだ。人類はテラのアニマから生まれた生命体だ。同じ性質を持っていても不思議ではない。奴らはまるで暴走した免疫反応のように、我々への攻撃を続けるだろう。
直ちにフィールド本部に報告せねばならない。「核兵器の度重なる使用は我々に対する拒絶の意思の表れであり、テラに対する保護と救済は、テラ自身の賛同が得られない以上無意味である」と。
ああ、そのためにはまず稟議を回さねば!大隊長に連隊長、師団長、そしてナバトが来て、その次にようやくゼダ・フィールド本部、最後が統合司令部…。
テラの記憶で見たが、これを人類の世界では「スタンプラリー」と呼ぶらしい。
奴らはたしかに下等種族だが、苦労の質で言えば、我々と等しく悲惨である。インベーダーの仕事はいつの世も欺瞞と搾取と面倒な手続きに満ちているらしい。ある意味で人類と我々は同類である。
こうして私は、中間管理職らしからぬ使命感を胸に、途方もない稟議のスタンプラリーをスタートさせた。
【次回】
星の意思を伝えるため、意を決して「テラ撤退」に向けたスタンプラリーに奔走する中隊長。しかし上層部への稟議は、根回しに次ぐ根回しの連続で……。
上官たちの華麗なる責任回避術でたらい回しにされた主人公は、果たしてテラ撤退を実現できるのか!?




