日記⑥ 26日目〜31日目
【26日目】
我々はフィールド本部の指令で、列島東部の平野における敵の重要拠点“ポイント・マグナ”への攻撃に参加した。ここを越えれば、その先は大山脈の聳える険しい地となる。
しかしここで問題が発生した。以前我々を苦しめたあの機動兵器(人類の言葉で“戦車”というらしい)が群れを成して現れたのだ。我々の生体兵器と異なり、“戦車”は平野部においてその真価を発揮した。その圧倒的な機動性と無敵の装甲は、暴力的なまでに我が隊を苦しめた。
我々の生体兵器は確かに戦車に対する防御策を身につけた。しかし奴らを撃破するには、今一つ攻撃力が不足きている。
互いに決定打に欠けるまま膠着状態に陥るかと思われたその時、あのフラーが持ち前の適当さを発揮したのである。彼は生体兵器に装備されていた対空兵器を、何の気無しに敵戦車へ向けて放射した。すると、対空用の高出力レーザーを受けた戦車は、溶けるようにして沈黙。
それを見たユノの行動は早かった。
彼女はアニマを介して私に進言した。「対空兵器は敵戦車に有効です。今なら敵部隊の殲滅も可能です」。私も同意見だった。トゥランメも希望が見え始めたことに喜び、アニマを黄色く輝かせている。
シシンだけは、「対空兵器なのですから本来は空に撃つべきで——」と最初は渋っていたものの、それが勝利の鍵になると説得すると、最後には理解を示してくれた。我々は(まったくの偶然ではあるものの)対空レーザーによって全ての敵戦車を撃破し、ポイント・マグナにおける我が軍の勝利に貢献した。これは間違いなく勲章ものに違いない。
私は初めて小隊長たちの連携を見られたような気がして、無性に胸が熱くなった。
「誰にも思いつかない作戦だったろ」
フラーがドヤ顔をしてユノに呆れられ、シシンが冷静な毒舌で応じる。そしてトゥランメが余計な一言を言ってまたフラーを怒らせる。私にはそれが、とても微笑ましい光景に見えた。
今日ばかりは私のアニマもほんのり赤みを帯びている。
【30日目】
敵は我々の予想どおり大山脈地帯に逃れ、そこで防衛線を構築している。ゼダ・フィールド本部は、この方面の突破作戦を計画中である。
それにしても人類は面白い。フィールド調査部が敵の戦車を解析したところ、なんとすべてのパーツが無機物で出来ていることが判明した。
惑星の生命体を兵器として改造し、軍事転用する我々にとってみれば、無機物を加工して一から兵器を組み立てるというのは途方もない難事に思える。我々の種族はその難事を「非効率すぎるテクノロジー」として1000年も前に捨て去ったが、人類はその伝統工芸の技術を自らのアイデンティティとして確立しているようだ。
どんな社会でも、0から1を生み出すことは、1を10にするよりも難しい。人類とは、宇宙に比類なきエンジニアであると認めざるを得ない。
【31日目】
朝、兵たちの前に立つと、トゥランメのやつが無邪気にはしゃいでいた。何事かと問えば、「とうとう衛星軌道兵器が配備されたんです!」と息巻いている。フラーも「これで戦争が楽になる」とトゥランメの言葉に頷いている。ポイント・マグナでの戦闘以来、この2人の仲は良好だ。
シシンは軌道兵器を見ようとしばらく空を仰いでいたが、何も見えないと分かるや再び資材の搬入に戻っていった(我が隊は現在、小休止中である)。
ユノは「新配備の軌道兵器が大山脈でどれほど効果を発揮するか算出してみました。ぜひこれをフィールド本部に」といって私にデータを見せてくれた。しかし私はこれを本部に上げるつもりはない。どうまた面倒なことに巻き込まれるからだ。
ポイント・マグナにおいて、我々が対空兵器を使用して敵戦車を撃破したことは、既にフィールド本部、特にあのナバト軍団長に伝わり、いたく評価された。きっとこの前の「指導」が効いたと勘違いしているのだろう。
しかも、過去の対ゲリラ戦でのユノの活躍や、事前の対空兵器調達の件まで取り沙汰され、我々はなぜかゼダ・フィールドの精鋭部隊のごとく扱われてしまっている。
いやちょっと待て。
あれはそもそもら戦争バカのユノや空回り野郎のトゥランメが引き起こしたトラブルが元で起きた惨事だ。我々はそのトラブルを一つ一つ片付けていったに過ぎない。それをあたかも英雄的行為のように取り扱われては困るのだ。我々は決して精鋭ではない。ポンコツマネージャーによるポンコツ四重奏だ。
戦車部隊の殲滅にしたって偶然の産物でしかない。上はそのことをよく分かっていないんじゃないか?
しかもそのせいで、大山脈への侵攻では我々が先鋒を務めることになってしまった。“先鋒”なんてものは、名誉ばかりで被害だけはしっかり被る汚れ役だ。なぜ手柄を挙げたはずの我々が、さらに過酷な仕事を押し付けられるのか。
頼むから誰もこれ以上目立たないでくれ!
【次回】
ついに火を吹く衛星軌道兵器。
核をも凌駕する圧倒的破壊力を前に、人類文明はなす術もなく蹂躙される。
先鋒を担う主人公中隊は、時を同じくして敵の立てこもる大山脈へと進軍。しかし、部下たちの個性が最悪の形で連鎖してしまい、部隊は敵中孤立の危機に!?




