日記③ 15日目〜18日目
【15日目】
あれからトゥランメとフラーのそりが合わない。
撤退を共有しなかったトゥランメも良くないが、フラーはフラーで、戦闘中にも関わらず他部隊の指揮官たちとアニマを介して賭け事に打ち込んでいたらしい。しかもフラーは、トゥランメのせいで賭け事に負けたと言い出す始末。問題はそこではない。
まったく、彼の適当さというか怠慢さ加減には本当に手を焼いている。
この惨状が上層部へ伝わると、なんとフィールド本部から「ナバト軍団長」が視察に来ることになってしまった。
本当に最悪だ。あの意地の悪い冷血漢が皮肉と嫌味を引っ提げてストレス発散にやって来る。
しかもこんな時に頼りのユノはいない。彼女の第1小隊は敵の追撃を警戒するために出払っているのだ。この時ほど、ユノが2人欲しいと思ったことはない。
【16日目】
朝から早速ナバト軍団長がお出まし。私が出迎えると、彼の頭部に浮かんだ紫色のアニマがギラギラと輝いた。相変わらず悪趣味な色だ。
ナバト閣下は私を見るなり、「部隊の不始末は指揮官の不始末である」とかなんとか罵ってきた。そんなことは私とて重々承知している。しかし本当に私だけの不始末であればどれほど良かったか。
その後、閣下は私に状況の説明を求めてきた。私が話している間も、相槌の代わりに逐一私の言動を鼻で笑ったり、嫌味を言ってみたり、何ともお忙しい様子であった。
意外だったのは、視察が中盤に差し掛かった頃のフラーの行動だ。閣下は始め、フラーのことを「いきなり話しかけて来た無礼な若造」と思ったに違いない。しかしフラーの放った一言が閣下の顔色を変えたのだ。
「そういえば閣下!ナジャンダのリーグ戦見ましたよ!息子さんの活躍は見事でしたね!」
“ナジャンダ”はナバト閣下の故郷で親しまれているというスポーツ……らしい。なんでも閣下の息子がナジャンダの代表選手なのだとか。
若手から愛嬌たっぷりに話しかけられて落ちないオジサンはいない。それがスポーツの話題と息子への称賛ならなおさらだ。閣下のアニマはみるみる内に紫から黄色へ変色。明らかな上機嫌となった。それもあって、閣下は私に対しても大層お優しくなられた。
かくして、私の首を賭けた“視察”という名の公開処刑は無事終わりを迎えたのである。
それにしても、フラーはなぜそんなマイナースポーツを知っていたんだ?しかも代表選手に閣下の息子がいるという情報まで…。アイツ世渡り上手くないか?ただのギャンブル狂いのサボり魔と思っていたが。
部隊は惨憺たる状況だが、意外にもあの“三枚目”は役に立つ。この事実はテラ攻略より重要だ。
【17日目】
ユノから報告。「我が小隊は敵の機動部隊を撃破し、ポイント・ナインを制圧せり」。
寝耳に水とはこのことだ。
ユノは敵の追撃に備えて警戒線を構築していたのではなかったか?それがなぜ勝手に攻撃に転じ、いつの間にか敵の要所を制圧しているのだ?
いや優秀なのは分かる。彼女は文句なしの天才だ。対ゲリラ戦で損害を受けたはずの一個小隊で、二個小隊が勝てなかった敵を粉砕したのだから。
しかし問題は「ポイント・ナイン」だ。あそこはたしか他の中隊の目標地点ではなかったか?
案の定、本部からは「予定外の戦闘の根拠を説明せよ」とひっきりなしに通信が来ている。ああよく見たら、その中隊長からもテレパシーが来ていた。
『手柄を横取りするな』……?
はい、おっしゃるとおりです。うちの部下が申し訳ございません。
【18日目】
ポイント・ナインの件、ユノに事情を聞いたところ、「目の前に手薄な要衝があるのに、放っておくなんて非合理です」と言われた。
分かる。分かるよその気持ちは。しかし戦争とは1人だけでするものではない。全体で勝たねば意味がないのだ。
「他の部隊がトロいだけですよね」
ユノはなぜ自分が責められているのか、と言わんばかりに頭部を寒色に光らせている。
私は相手の中隊長に平謝りし、相手部隊と交代させる形で、第1小隊をポイント・ナインから撤収させた。ユノは依然、不機嫌なままだ。
どうしよう。部下なのに話しかけづらい…。
束の間の平穏を享受する中隊長。
しかし現場は、彼を血の気の引く現実へと連れ戻す。
受領したはずの装備品が見当たらない!?
しかも受け取り人はトゥランメだと??
空回り野郎の尻拭いのため、中隊は総力を上げた大捜索を開始するーー。




