日記11 50日目〜57日目
【50日目】
あれから3日。フィメウス建造は順調に進んでいる。ポイント・モノスの土壌に撒かれたフィメウスの“種子”は、昨日になってようやく芽を出し、すくすくと育っている。このまま大気圏を貫く巨大な塔となるまで、我々が防護しなくてはならない。
やがて、フィメウスの幹には自己防衛機能として、重レーザーを搭載した数多の花が咲き誇るだろう。そうなれば、敵の攻撃を防ぐことは容易い。しかしそれまでに攻撃されてしまえば、我々は手薄な人員のみでフィメウスを防衛しなくてはならなくなる。
「早く攻めてこないですかね」
“モノスの山”を見つめながら、ユノがふとそんなことを漏らした。
「テラのアニマを覗きました。“日本人”は核を持たない種族のようです」
こいつ、またテラの記憶を勝手に…。
それにしても、人類の中にもエコロジーを重んじる種族がいるとは驚いた。核を持たないなんて、まさに平和思想の塊じゃないか。我々とは気が合うかもしれないな。
あるいは、核など持たずとも敵を殺せるという自負のあらわれか。
「核が飛んでこないというのは、部隊としてはありがたいですね。…個人的には味気ないですけど。スリルが足りないっていうか」
私の気も知らないで、ユノはあっけらかんとしている。
「もっとはっちゃければいいのに…」
私は思わずユノから顔を逸らした。彼女のアニマは、目のやり場に困るくらい破廉恥な色に染まっている。
日本人が「核を持つ」と言い出せば、真っ先に喜ぶのはユノの奴に違いない。
この戦争狂いが…。今この瞬間にも、テラが虎視眈々と我々を滅ぼそうとしているのに、ユノはそれを楽しみにしている節がある。また独断で何かされては敵わん。今日は事務仕事をさせておこう。
【55日目】
来た来たキタキタついに来た!!東と西の大陸から同時多発的に核弾頭が発射!かつてハヴァ・フィールドとサドナ・フィールドを焼き払った核攻撃が、このポイント・モノスに降り注ごうとしている。
賭博中毒のフラーは「昨日大勝ちしたばっかなのに死にたくねぇ!」と叫び、怯えたトゥランメはフィメウスの葉の影でうずくまり、ユノは事務作業を蹴っ飛ばしてはしゃいでいる。シシンは…。
シシンのやつは核攻撃時のマニュアルに従い、対空防御の行動に入っている。そうだ!みんな奴を見習え!
すぐさま総員が配置につく。おそらく周辺の部隊も迎撃体勢に入ったことだろう。軌道上からの監視により、敵の発射地点は特定済み。敵が核を撃てば最後。すぐに衛星軌道兵器が発射基地ごと消し飛ばしてくれるだろう。
つまり、この第1波さえ乗り切れば勝ちだ!
かかってこい、無毛の猿ども!
我が隊の意地を見せてやる!
【56日目】
……あれおかしい。第2波が来た。発射基地は軌道兵器で潰したはずなのに。しかも今度は海中からだって。
え、待って。人類って海の中にも住んでるの?
攻撃が一旦止んだ隙に、ユノがまたテラのアニマを覗いてくれた。もはや軍規違反の常習者に成り下がったユノだが、生き残るためにはこういう行為も黙認せねばなるまい。
「人類は潜水兵器を持っているようです」
ユノが言うには、人類は海の豊富なテラの環境に適応すべく、無機物による造船技術を高度に進化させ、それを軍事転用している。
その「潜水兵器」とやらは海中から地上へ向けて核弾頭を撃ち込んでは退避し、また別の場所から撃ってくるそうだ。
…この蛮族が。伝統工芸の職人だとおだてていたら、いきなりハンマーで殴りかかられたような気分だ。喜べユノ。こいつらは正真正銘の戦闘種族だ。
しかも上空からはデカい飛行兵器が核弾頭を直接ぶち込んで来やがった。それもレーダーには映らないステルス機だ。奴らの技術は殺戮に特化しすぎている。
これもテラのアニマの成せる業か。
というか、我々テラに嫌われすぎじゃない?
【57日目】
敵の核攻撃に恐れをなした統合司令部が、ついに重い腰を上げた。フィメウスの成長を促すため、生長促進剤、つまり「肥料」の使用を許可したのだ。
本来は、テラの上で異星の植物を育てること自体、タブーのはずである。にもかかわらずこのフィメウス建造が許可されているのは、これがアニマの保護と活用に関わる超法規的な施設だからだ。
今、テラの抱いている異物感は半端ではないはず。そこへさらに異星産の肥料なんて持ち込んだ日には、テラの中で何が起こるか分からない。しかし、統合司令部としても背に腹は代えられないのだろう。
テラ各地に存在した主力級のフィールドは既にほとんど壊滅し、今やこのゼダ・フィールドがその役割を担いつつある。肥料の使用は、本部にとっても最後の手段というわけか。
人類の攻撃を凌ぐには、とにかくフィメウスの強力な多段重レーザーに縋るしかない。早く完成を急がねば。
我々は昼夜問わず、肥料の散布と防空警戒に汗を流した。私のアニマが久しぶりに赤と青に点滅している。完全に時間外労働であるが、命がかかっている状況でそんなことは言ってられない。
これって手当は付くんだよな…?
【次回】
雨あられのような核攻撃を凌ぎ切り、ついに死闘を制した中隊長。天を貫く巨大な「フィメウス」を仰ぐ彼らの元にテラの意思が告げたのは、まさかの「このド変態!」という赤裸々な絶叫だった。




