日記⑩ 45日目〜47日目
【45日目】
ナバト軍団長によって戦略会議にかけられた私の提案は、驚くほどあっさり否決された。「テラ攻略中止」という私の意見具申は稟議を通すまでもなく、その裏工作の段階で否定されたのだ。
私はアニマをどんより苔色に沈ませて部隊へ帰投した。
あれほどの労苦が一瞬で水泡に帰したというのに、心のどこかには「やっぱりな」という諦観があった。
私が戻ると、フラーが熱心にアニマの色を赤や黄色に明滅させている。他の者に聞くと、奴はまた賭け事に興じているらしい。私の姿を認めると、フラーは慌てた様子でアニマの色を白く変え、そそくさと仕事へ戻っていった。まったく反省して欲しいものだ。
一方のシシンは、アニマをモヤモヤ沸騰させながら何かに没頭している。聞けば、上層部へ提出するためのインテリジェンス・レポートを作っているらしい。そういえば、私が作成を依頼したのだった。
待てよ。たしか提出期限は今日のはず。それをシシンに確認すると、「文面の言い回しに違和感があって」とか「資料の色合いをもっと見やすく」とか、よく分からない部分に異常なこだわりを見せている。いい加減キリがないのでその場で提出させた。
トゥランメは相変わらず“やる気”を見せているが、お前が今自主的に整理しているのは、昨日シシンに命じて整理させた箇所だ。
そしてユノは相変わらずの不在である。帰ってきた時にまた面倒を持ち込まないといいが……。
……日記の途中だが、本部から指令通信だ。こんな凸凹中隊に、今度は一体何をさせようというのか。
『貴隊は2日以内にポイント・モノスへ進出。当地で進行中の“フィメウス”建造を援護せよ』
今度は“フィメウス”と来たか。
これは……終わったかもしれん。
【46日目】
“フィメウス”は、またの名を「天体間アニマ制御指令所」と呼ばれる軍事施設である。テラ攻略後は、このフィメウスを通じて生体エネルギーの取り扱いを管理する他、テラと本星とのアニマリンクを司る、最も重要な拠点となる。
そのフィメウス建造をこの度、ゼダ・フィールドが担うことになったそうだ。建造場所はポイント・モノスと呼ばれる山の麓。ここはゼダ・フィールド1の標高を誇る巨大な山である。
ポイント・モノスには、もともと敵の軍事基地が置かれていたが、既に我が軍によって無力化されている。しかし人類にとっても戦略上重要な拠点とみなされているため、奴らがいつ奪還に動くか分からない。そこで、大山脈での先鋒任務によって増強された我々がその援護を担わされることになった。
お察しの通り、これは人手不足によるしわ寄せ、またの名を「貧乏くじ」である。
【47日目】
我々は本日、フィメウス建造のための資材とともにポイント・モノスに進出した。
フィメウスはまさしく、我々のテラ支配の象徴である。我らを拒絶するテラにとって、これほど恐ろしい施設はないだろう。それゆえ、“彼”の免疫機能(人類)による激しい抵抗が予想される。
それにしても、テラの拒否反応は異常だ。
実は、フィメウスはもともと、はるか東の大陸で建造が進められていた。だがその途上、人類のあまりにも激しすぎる攻撃を受けたのである。
当地の戦線を担うサドナ・フィールドには、我々“ゼダ”を凌駕する強固な防空網が存在していた。しかし人類どもは、迎撃システムの手が回らなくなるほどの苛烈な猛攻を仕掛けてきた。結果、こちらの処理能力が追い付かず、ついにフィールド上空で10発以上もの核が炸裂。サドナ・フィールド方面軍は、建造中のフィメウスごと消滅した。
ハヴァ・フィールドに匹敵するほどの大規模な方面軍が、またしても敵の手で消滅したのだ。我々は、人類のなりふり構わぬ暴力性と狂気の前に、劣勢を強いられている。しかしそれでも撤退の命令は下されない。それどころか、統合司令部は攻撃続行の命令を、まるで念押しするかのように各戦線へ送り続けている。
その後、何度か他の場所でもフィメウス建造が試みられたものの、全て同じような理由で中止された。
これで伝わっただろう。この任務の危うさが。割を食うなんてレベルじゃない。
言えることはただ一つ。テラはフィメウスを異常に恐れている。彼とのアニマリンクの際、私は奇妙な感情を受信したのだ。
『怖い。重すぎて怖い!』
それはテラの悲痛な叫びに聞こえた。
【次回】
着々と進むフィメウス建造。
だが、その好調をぶち壊すかのごとく、人類の核攻撃が東西、さらには海と空から同時多発的に降り注ぐ。
終わらない時間外労働と超過酷な防衛戦の果てに、中隊長が見たものとは……!?




