最終話(前編)
手を握りしめ震え、ただひたすらにドアを見つめる。
逃げ出したいのに、恐怖で足がすくみ動けない。
できることと言えば、祈ることだけ。
(……誰か、早く……!)
そうすると、金属のぶつかる音や靴音、話し声が聞こえてきた。
兵士とともに、女性たちが入ってくる。
メイドや侍女たちが不安げに顔を見合わせている。
しかし、どの女性たちもドアをくぐると無言になった。
(……よかった……)
二人きりじゃない状況に安堵する。
その中に、知っている顔があった。
「……エミリー……!」
呼びかけると、不安そうな表情のエミリーが視線を向ける。
アンジェを見て、驚いた表情になったあとに、ねっとりとした笑顔になる。
懐かしさすら覚える、わざとらしい笑顔。
「……お嬢様!」
アンジェがエミリーに駆け寄ろうとした瞬間、エミリーの首が飛ぶ。
宙を描き、赤と黒の絨毯に落ちた。
「………え?」
足が止まる。
心臓の鼓動が跳ね上がった。
額に、汗が浮かぶ。
「きゃあああああああ!!!」
女性たちから悲鳴が上がる。
逃げだそうとドアへ向かう女性たち。
今度は目の前に剣が突き付けられ、悲鳴が上がる。
いつの間にかドアは閉まり、この場にいる全員が閉じ込められている状態だ。
「不要だ」
混乱の中で、頭上から声が降ってきた。
低く冷たく、恐ろしい音。
(……ふ、よう……ふよう…………?)
言葉の意味が分からなかった。
不要……なわけがない。エミリーはアンジェの侍女だ。
転がったエミリーの髪を兵士が掴む。
「…………っ」
怖くなり、顔を背けた。
見たくなかった。
長い間、アンジェの傍にいた侍女のそんな姿を。
(……エミリー……)
閉じた瞼の隙間から、涙が落ちる。
「誰に聞いた。この女か」
悲しさに、唇を噛みしめ堪える。
ただ震えて時を過ごすことしかできない。
「申せ」
「……………」
しかし、容赦なくガブリエルはアンジェを促す。
恐怖に硬く唇を引き結ぶ。
閉ざされた口の中に、鉄の味が広がる。
「二度言わすな」
「……………」
「そうか」
冷めた言葉だが、アンジェは胸をなでおろす。
震えて動けないアンジェに、納得してくれたのだろう。
しかし、
「そうか。全員殺せ」
頭上から放たれる冷たい言葉。
瞬間悲鳴が上がる。いや、絶叫だ。
アンジェは耳を疑った。それから、瞑っていた眼を開く。
唇を噛んでいた口元の力を抜くと、奥歯がガタガタと音を立てた。
ゆっくりと、ゆっくりと顔を悲鳴に向ける。
兵士が一人の女性を掴んでいた。
「アンジェリナ様の話は真実か?」
「う、ううう……ううう……」
問われた女性は、力なく崩れ落ちた。
動かなくなる。
「アンジェリナ様の話は真実か?」
「違う、違う違う、知らない!!!」
また、問われた女性は力なく崩れ落ちた。
動かなくなる。
(違う、違う………違う!!!)
無関係な侍女やメイドたちが走り回る。
しかし、ドアは固く閉ざされていた。
ぐるりと兵士に囲まれている部屋の中、逃げ場などない。
(……いや、いや……)
問いかけ、確認する兵士。
女性たちが何を言っても容赦はしなかった。
(あ、あ、あ…)
走り回る女性。嫌な音。嫌な臭い。
恐怖と混乱が起こり混沌としている。
(……怖い……!)
ただ、死にたかった。
ルーシーの話を聞き、セオが弟だったことを知り、ショックだった。
だからこそ、血が繋がっていないという話をすれば殺してもらえると思った。
解放してもらえると。そう考えた。
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