十八話(後編)
「ポピーお嬢様方は応接室にいます」
深い色のカーペットを歩く。
埃一つない、綺麗なカーペットだ。
「失礼いたします、アンジェリナ様がご到着されました」
ドアの外から声をかける。
ざわざわしていた声が、ぴたりと止まった。
「入って」
中から女性の声。
ウィロウがドアを開け促す。
アンジェは緊張しながら中に入った。
部屋の中、三人の若い女性がソファーに腰かけ、テーブルを囲んでいた。
華やかで優雅なドレスを着た三姉妹。
しかし顔に笑みはなく、アンジェを舐めまわすように全身を見ている。
三つの視線に、アンジェは怯む。
「こちらが、ポピーお嬢様です」
「ようこそ、お義母様」
緋色の髪の女性が微笑み立ち上がった。
「こちらが、デイジーお嬢様です」
「ごきげんよう、お義母様」
橙色の髪の女性が微笑み両手を合わせる
「こちらが、アイヴィーお嬢様です」
「よろしくね、お義母様」
茶色の髪の女性がポピーを見た。
「まあお義母様、私たちのお母様のドレスを着てくれたのね」
ポピーは上品に笑みをこぼす。
アンジェもつられて笑う。
「とても美しく素敵なドレスですわ」
デイジーは頷いている。
「なんだかお母様が帰って来たみたいね」
「そうかしら?」
「それは失礼じゃない?」
アイヴィーの言葉に、ポピーとデイジーは即座に拒否を示した。
「ウィロウ、下がっていいわよ」
「はい、失礼いたします」
ポピーの一言に、ウィロウは部屋を出る。
アイヴィーがカップを手に取り、くるくるとティースプーンで回した。
そして、テーブルに置こうとしてティースプーンを絨毯の上に落とした。
「あ……」
「何やってるのよ、あなたって本当にどんくさい!」
デイジーがため息を吐いて、自分の紅茶を飲んだ。
「まあまあ、そんなに怒らないで……そうだお義母様、とってくださる?」
「………え?」
「お願いできないかしら?」
ポピーがアンジェに笑顔を向けた。
デイジーがカップをなでながら顔を輝かせた。
アンジェも笑みを返し、ドレスのふくらみを押さえながらしゃがんだ。
ティースプーンを拾って、テーブルに置こうとした。
「汚い、いやよ! そんなもの、テーブルに乗せないで!」
アイヴィーの強い拒絶に、アンジェは動きを止めた。
くすくすとデイジーが笑う。
「小国の王家ではそれが普通なのよ、驚いたわねアイヴィー」
デイジーの言葉に、アイヴィーは不満そうに唇を尖らせた。
「お義母様、ごめんなさい。アイヴィーは一番幼いでしょう。だから我がままなの」
紅茶を飲みながら、ポピーは笑顔を向けた。
(……そう、なの……?)
アンジェも驚いたが、それなら仕方がない。
「せっかく使用人みたいに跪いてくれたのにごめんなさいね」
「ふふふ、お姉さまったら」
アンジェは握っているスプーンを小さくなでた。
(……………)
テーブルに置けないなら手に持つしかない。
カーペットに落ち、アンジェ自身が拾ったスプーンを。
「せっかくだから四人でお話しましょうよ」
デイジーが提案する。
「でもポピーお姉さまの隣って……」
アイヴィーがまた不機嫌そうに言う。
「ええ、ここはお父様の席よ。だからお義母様はそこに立っていてもらって良いかしら」
三人の視線がアンジェに集まった。
上品に微笑んでいるポピー。楽しそうに目を輝かせるデイジー。
尖っていた唇を緩め、少しだけ笑ったアイヴィー。
「……はい」
アンジェも笑顔になる。
アンジェの返事に三姉妹は顔を見合わせた。
(…………?)
声は出さずに見つめ合う三人。
デイジーが、口元を手で隠した。
「まあ。小国の方は貧しいから自分で何でもやる、だから身体に自信があるって本当なのね」
「私だったら立ってお茶会なんて絶対にいや! 考えただけでいやよ」
「もう、二人とも。あの国はそういうところなんだから、あまり言わないのよ」
「……………」
そして、くすくすくすと三人は花を咲かせた笑顔になった。
「ねえ、小国はどんなものを飲むの? そもそもお茶会ってあるの?」
「それ、私も気になる! クッキーあるの? 甘いお菓子、どういうのがある!?」
「こら、二人とも。お母様の準備がまだできていないわ」
はしゃぐデイジーとアイヴィーを優しく諫め、ポピーは困った顔をアンジェに向けた。
「ごめんなさい、お姉さま」
「ごめんなさい、ポピーお姉さま」
楽しそうだった二人が項垂れて静かになる。
「ごめんなさいね。この二人、お義母様にとても興味があるみたい」
アンジェに向けられる、困ったような笑み。
興味がある、という言葉にアンジェは嬉しくなった。
「手ぶらでお茶会をさせるつもりはないわ。ただ、ここにはお茶がないの、だから――」
言われてテーブルの上を見る。
確かに、三つのカップしかない。
中央には金色の模様が描かれた白い皿。クッキーが数枚並べられている。
「そこの水差しで、お水を飲んでくださいな」
「………ぷっ!」
「グラスもないから、手に注いで飲んでね」
「まあデイジー、私はそこまで言ってないわよ」
「でもデイジーお姉さまの言うとおり、グラスがないからそうしないといけないわ!」
「……………」
三人でまた声を出して笑っている。
(…………)
とても楽しそうな三姉妹を見て、アンジェはただ無言の笑みで眺めるだけだった。




