表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/74

十八話(前編)

次の嫁ぎ先はすぐに見つかった。

三度目の結婚。

また、大国だ。今度は貴族ではなく、富豪らしい。

迎えの馬車に向かうアンジェたち。


「アンジェリナ、本当にありがとう。クリスに似た、とても優しい家族思いな子。愛しているわ」


カトリーナは目に涙を浮かべて微笑んでいる。

とても優しい表情。いつも通りの笑顔。


「大丈夫よ、今まで通り。あなたならどこでもやれるわ」

「いってらっしゃいませ、アンジェリナ様。お元気で!」


感極まっているカトリーナの横で、サラもいつも通り元気な笑顔を向けている。

シンプルだったサラのチュニック。

しかし今は、袖口に繊細なレースが施されていた。

そのせいかサラの表情は普段よりも嬉しそうで明るく見える。


(……可愛い……)


手元がおしゃれになっていて、ついつい見つめてしまう。


(………あ……)


だが、カトリーナとサラの一歩後方。

隠れるように立ち、顔を背け遠くを見る無表情のオスカー。

不機嫌なのか、今日は一度もアンジェに視線を向けない。


(怒ってる……?)


少し心がざらついた。


(……でも)


いつもの無言の視線を向けられる方が怖い。そう思った。


「アンジェリナ様の鞄をうっかり揃えるのを忘れていたので、今回も荷造りの必要がなくて助かりました」

「ええそうね。とても懐の深い、優しい方だわ」


落ち着いた、豪奢な馬車。

乗り込むアンジェの後ろで、サラとカトリーナは会話している。

ドアが閉められ、すぐに発進した。見送る二人。

オスカーはなお、別の方向を見ている。


(…………)


小国を去るのはこれで三度目だ。

変わる景色。これも、毎度同じ。

ただただ景色を眺める。


(…………)


眺めている間に馬車が止まった。

降りて辺りを見回す。落ち着いた雰囲気の建物。


「ようこそおいでくださいました、アンジェリナ様。」


外で待ってくれていたのか、一人のメイドがアンジェを迎える。


「お世話をさせていただくウィロウと申します」


ウィロウは深々と一礼をした。


「……あら? お荷物はいかがなさいましたか?」

「……あ………」

「まさか手ぶらでいらっしゃったのですか?」

「…………」


怒られる、と思いアンジェは俯いた。


「不思議な方ですね。まあいいでしょう、お部屋にご案内いたします。奥様」


ウィロウは首を傾げたが、そのままアンジェを案内した。

ホールは落ち着いた紺の絨毯、廊下には同じ色合いのカーペットが敷かれていた。


「旦那様はとても多忙なお方です。明日、戻られるそうです」


階段を上りながらウィロウは説明した。

アンジェが結婚に頷いたあと、カトリーナは詳しく教えてくれなかった。

しかし、逆にアンジェは安心してしまった。

部屋に着く。とても広く、清潔感のある部屋。

シンプルなのに、一つ一つの家具はとても高価そうだ。


「先代の奥様のドレスがありますので、お着替えをいたしますね」


アンジェのワンピースを脱がせる。ウィロウは驚きの声をあげた。


「奥様、とても腰が細いのですね……美しいです」


露になるアンジェの裸。ウィロウはうっとりと見つめた。


「……失礼いたしました。こんな細い腰を見たのは初めてで……」


用意していたシュミーズを慌てて着せながら、メイドはやはりアンジェの腰を見ていた。


「この美しさを損なわないように、誠心誠意頑張らせていただきます」


コルセットを装着する。

久々のコルセット。何ヶ月ぶりだろう。

アンジェは緊張で唾を飲み込んだ。

ゴクリと喉が鳴る。


「……ふー……」


極限までアンジェは息を吐きだした。

凹む腹部。徐々に酸欠になる頭。


「お、奥様……!? まだ仮締めの段階ですので息を吸っていて問題ありませんよ」

「…………?」


凹んだ腹部にウィロウは慌てて手を止める。


(……いいの……?)


コルセットは最初からきつく締められるものだと思っていた。

拍子抜けする。


「まずは位置を調整しますね。本締めをするときにはお声がけいたします」

「…………」

「奥様が美しいのは、努力の賜物なんですね」


ウィロウは慣れた手つきでコルセットを固定した。


「では、いきます」

「……ふーーーー……」


肺の中の空気を全部出し切る。

ぐぐぐぐぐ……とコルセットが徐々に締まってきた。


「………っ」


酸欠の状態でキープする。

ぐぐぐぐぐ……と更にウィロウは締めあげた。


「……うっ…………」

「……はい、できました」


ぱっと手を離される。


(………え?)


息を止めたまま、アンジェは目を丸くして固まる。

あまりにもあっけないコルセット。

ほんの一瞬のできごとだった。

時間にして、数分。


(…………?)


なん十分も、まるで永遠と思われるほど強い力で長い時間締めあげられる。

そう思っていたのに、あっけない終了。

ウィロウは満足そうに頷いている。


「本当に美しいくびれですね! 惚れ惚れします」


アンジェをドレッサーに座らせ髪をとかしながら、ウィロウは笑っていた。


「髪も本当にお綺麗ですね。外で見たときは金色に見えましたが、室内だと銀色に見えます」


香油で整えながらブラシで丁寧になでた。


「こんなに美しい奥様なら、ポピーお嬢様方はさぞ驚くでしょうね」

「…………?」

「奥様のことは、ポピーお嬢様方が選んだんですよ」


お嬢様方? 選んだ?

ウィロウの言葉に、アンジェは耳を傾ける。

鏡越しにじっと見つめると、ウィロウは微笑んだ。


「ご存じですよね? 奥様と同じくらいの年齢のお嬢様方が、三人いるんです」


知らなかった。カトリーナはそんなこと、一言も言っていなかった。

結婚を飲み込み、カトリーナが笑い、そして今日嫁いできた。

それだけだ。


「長女のポピー様、次女のデイジー様。そして末娘のアイヴィー様です」

「……………」

「ポピー様方は年子で、アイヴィー様がアンジェ様と同い年です」


微笑みながら、ウィロウは手を動かす。

頭が真っ白になった。鏡に映る自分の姿をじっと見つめる。

ラベンダー色の瞳が揺れた、青白い顔。

不安そうな、緊張した表情。


(え……と……)


アンジェに三姉妹の娘ができた。

しかも、一人は同い年、二人は年上らしい。

突然のことに、アンジェの鼓動が少し早くなる。


「できました。それでは、お嬢様方がお待ちしているので向かいましょう」


不安が混じるアンジェの表情に気づいてか気づかずか、ウィロウは美しいですね。と繰り返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ