番外編:新たな日々7
翌昼、家の玄関にて――
「よし、それでは今日からは私の番だな! クロノちゃんっ♡」
「ああ、よろしく頼む」
スミレ、本当に嬉しそうな表情を浮かべておるな。
そう、今日からはスミレと数日間ともに過ごすターンである。
「行ってらっしゃいませ、ご主人さま♡」
「ど、どうしましょう……! わたくしとの日々がスミレさんに上書きされてしまったら……こ、興奮してしまいますのっっ♡」
……アリアフィーネもシェリルも通常運転であるな。
【シェリルの興奮度が急上昇しました。この場で見せつけてやりましょう】
カレンよ、ほんとお前は黙っておれ。
それはさておき、早速出かける吾輩とスミレ。
早速スミレの実家にご挨拶に……
と行きたいところではあるが、スミレの希望によりまずは二人きりで過ごすことになった。
「スミレよ、どこか行きたいところはあるか?」
「ああ、実は一緒に行ってみたいレストランがあるんだ。私の家が没落してから知った店でな、おしゃれな雰囲気で密かに憧れていたのだ」
ほう、それは興味があるな。
なるほど、だから朝からこのような格好に着替えたわけであるか。
今、吾輩もスミレも小綺麗に、そして小洒落た格好に着替え済みなのである。
にしてもスミレよ……
洒落た格好をするのはいいが、ワンピースの背中と胸元が大きく開いていて目のやり場に困るというか何というか。
「なんだ、クロノちゃん? スミレお姉ちゃんのおっぱいが気になるのか?」
む、吾輩の目線に気づいておったか。
若干気まずいな。
「あ、目を逸らさないでくれ。むしろもっとしっかり見てくれ。なんならちゅーちゅー吸って甘えてもいいぞ♡」
真っ昼間の大通りで何を言っておるのだ!
見ろ、道行く男どもが前屈みに……。
そんなこんなでゴンドラを利用しつつ移動することしばらく。
目的のレストランへと着いた。
ほう、確かに洒落た雰囲気だな。
白塗りの建物、テラス席も用意されておる。
「いらっしゃいませ、二名様でしょうか? ……ってもしかしてクロノ様では!?」
こ、ここでもか!
着々と吾輩の情報が広まっていってしまっている……
「ふふっ、すっかりこの都市の英雄だな? クロノちゃん」
スミレまでイタズラっぽい笑みを浮かべて茶化しおって。
む、どうやらテラス席に案内してくれるようだ。
過ごしやすい気温だし、雰囲気もあるので少しだけ得した気分である。
メニューも決まったので注文しようと店員を呼ぼうとした……のだが、スーツを着た男ががボトルとグラス持ってこちらの方へと向かってきた。
「クロノ様、そしてその大切なお連れ様、わたくしこの店のオーナーのグラッツと申します。こちらよろしかったら店からのサービスでございます。クロノ様は蜂蜜酒が好きとお聞きしましたので、当店自慢の特製ボトルでございます!」
「……っ!? いや、なぜそのようなサービスを? 吾輩ここへ来るのは初めてなのだが……」
「クロノ様はこの都市の英雄でございます。ゴブリンキング、そして四魔族の魔の手からこの都市を救ってくださったお話はわたくしどもも聞き及んでおりますので」
ま、またもやここでもか……!
む、何やら通りから視線を感じるような……
「おお、あれがクロノ様か!」
「噂では聞いていたが本当に少年なのだな!」
「まだ幼いのにそれほどの力を秘めておるとは……」
「ねぇ、お父様? 私もあの店で食事がしたいわ」
「おお、名案だな。英雄が舌鼓を打つほどの店……利用しない手はないな」
ひぃ、これではまるで見せ物だぞ。
というか、まさかこれを見越してテラス席に通してサービスまで施したのでは……
ああ、スミレが苦笑しながら頷いておる。
こうなったからには仕方あるまい。
多少居心地は悪くはあるが、おとなしく蜂蜜酒と料理を楽しませてもらうことにしよう。
「おお、これは確かに美味いな」
「確かに、今まで飲んだ蜂蜜酒の中で一番美味いまでありそうだ」
ふむ、スミレからの評価もかなり高いな。
さすがは「特製の〜」と謳い文句をつけてサービスしてくれただけはある。
料理も素晴らしい。
吾輩は肉料理、スミレは魚料理を頼んだのだが、どちらも美味く、シェアしながら楽しませてもらった。
……というか、かなり混んできたな。
ピークの時間はまだだろうに、店の前に列ができ始めておる。
酒も料理も堪能させてもらったし、早々に退散するとしよう。
とりあえずお会計を頼んだのだが、またもやオーナーが出張ってきた。
「ゆっくりお寛ぎいただくことができず、そしてお気遣いまで申し訳ございません!」
慌てた様子のオーナー。
なるほど。
吾輩たちを宣伝目的も兼ねてもてなしたはいいものの、まさかここまでの盛況になるとは思っておらなかったのか。
まぁ、吾輩たちでさえ予測できなんだ。仕方あるまい。
「こちら、よろしければお受け取りください……」
そう言って、オーナーが何やら二枚の紙を差し出してきた。
これは……何かのチケットか?
「こちらはクルーズ船のチケットとなっております。港の受付でわたくしの名前を伝えていただければランチ、もしくはディナークルーズのサービスが受けられるようになっております」
「なんと、しかし蜂蜜酒までサービスしていただいたのだ。流石にこれ以上は……」
「ご遠慮なさらずに、お受け取りください! じゅうぶんにおもてなしできなっかたとなればこの店のオーナーとしての名折れ……どうかわたくしども助けると思って」
そ、そこまで言われては……
「それに素敵なパートナー様もお喜びになるかと」
む、そのような情報を耳打ちされたは仕方あるまい。
スミレと食事付きのクルーズ……悪くないな。
「わかった、ありがたく頂戴させていただく」
「ありがとうございます! 近くにお越しの際はぜひまたお寄りくださいませ!」




