番外編:新たな日々8
「ふふっ、ディナークルーズ楽しみだな、クロノちゃん」
「ああ、しかしあそこまで目立ってしまうとは思わなかったがな」
「仕方ない、クロノちゃんはこの都市の英雄だ。噂も回り始めたばかりだし、しばらくは話題で持ちきりだろうな」
く、そう考えると頭が痛いな。
そういえば……転生前、アリアたちもどこへ行ってもすごい歓迎のされようであったな。
「……どうした、クロノちゃん? なんだか寂しそうな顔をしているぞ……?」
「いや……大丈夫だ。少し考えごとをしていただけだから気にしないでくれ」
「む〜、とてもそうは思えんが……よし、スミレお姉ちゃんが元気づけてやろう、着いてきてくれ!」
む、何やら吾輩の手を引いて方向転換を……
って、何故に宿屋街の方へ!?
「ふふっ、たくさん元気づけてやるからなっ♡」
あ、元気づけるってそういう……
「まぁ、少しくらい悪くはない」
「そうこなくてはな♡」
◆
結局、夕方まで大いに楽しんでしまった……。
「ふふっ、運動もたくさんしたし、ディナーが楽しみだな♡」
あれだけ激しく貪りあったというのに、ご機嫌のつやっつやであるな。
さすがは騎士隊長、凄まじい体力である。
などとやり取りを交わしている内に波止場へと着いた。
乗る船は……うむ、アレだな。
さすが、なかなかに大きな客船である。
下で受付をしているようだ。
係の者に話変えてみよう。
……よし、レストランのオーナーが言っていた通り、無事に乗船させてもらえることになったぞ。
ディナーのコース料理も都合つけてくれるようだ。
ありがたい。
さっそく乗船。
ほう、高さのある船だから景色がいいな。
甲板から都市の方を見ると、向こうの方へと軽い夜景が広がっていて楽しむことができる。
「席にご案内させていただきます」
スミレと一緒に少しばかり景色を堪能したところで、係の者が声をかけてきた。
どうやら気を使わせてしまったようだな。
「おお、なんと素敵な!」
思わず声を上げるスミレ。
本当に素敵な内装だ。
雰囲気を作るために僅かばかり照明を暗くしてある。
が、それでいて煌びやかな雰囲気にまとまった船内レストランである。
「どうぞこちらへ」
む、良いのだろうか?
何やら窓際の席に案内されてしまった。
飛び入りだったのもあり、さすがに窓際の席には座れないと思っていたのだが……
「あと少しで出稿となります。それとともにコースが始まりますので少々お待ちを。クロノ様と素敵なお連れ様」
そう言って頭を下げると持ち場へと戻っていくウェイター。
まさか、吾輩だとわかっていたからこんな良い席に通されたのでは……
あ、スミレが吾輩の顔を見て苦笑しておる。
つまりそういうことなのだな。
むぅ、かたじけない。
それにしても、なんでもない日だというのに大盛況であるな。
席もほぼほぼ埋まり始めた。それに、どの席にも身綺麗なカップルや家族連れが座っておる。
船の大きさからある程度察してはいたが、これ上流階級寄りの者たちが利用するディナークルーズであるな?
「ふふっ、戦いになるとあんなにどっしりと、そして冷静沈着なのにギャップがたまらんぞ、クロノちゃん♡」
「む、すまん」
いかんな、柄にもなくワクワクしておるのが伝わってしまったようだ。
それしても……スミレ、さすがは元貴族の娘であるな。
普段は騎士隊長という立場にありながら、このような場所に来てもごく自然、むしろ優雅さすら感じる。
「どうした、クロノちゃん? お姉ちゃんの顔そんなに見て♡ もしかしたら改めて惚れ直しでもしたか?」
「ああ、そんなところかもれない。こういう場所に来るとまた別の魅力を感じる。本当に綺麗で愛らしく思う」
「ピャぁ……っ!?」
なんだ、今の声は。
それに急に顔を赤くしてもじもじと……
なるほど、真正面から魅力を伝えたりするとこうなるわけであるな。
これは色々と役立ちそうだ。
「ク、クロノちゃん! 何をニヤニヤしておるのだ、何かよからぬことを考えているだろう……!」
「ああ、この後もたっぷり可愛がってやる」
「ピャぅぅ……♡」
だから何だ、その鳴き声は。
お、どうやらそろそろ船が出航するようだ。
ウェイターたちが各席に飲み物の伺いを立て始めておる。
せっかくのディナークルーズだ。
何か良い感じのボトルでも頼むとしよう。
メニューを見ていると……
おお、蜂蜜酒もあるではないか。
しかも蜂蜜酒なのにすんごい値段をしておる。
せっかくだからこれを頼もう。
ウェイターに注文を済ませる横で、スミレが「(あわわわ……っ)」と小さな鳴き声(?)を漏らしておる。
普段高い酒を頼まないから恐怖しておるようだが、せっかくの二人きりのデートなのだ。これくらい良いであろう。
蜂蜜酒が運ばれてきたタイミングで船が出航した。
「それでは、二人きりの数日間に乾杯だ」
「ああ、本当に嬉しい。ありがとう、クロノちゃん♡」
軽くグラスをぶつけ合いながら、顔を真っ赤に染めるスミレ。
うむ、実に愛らしい。




