番外編:新たな日々4
牡蠣と酒を堪能してから少し――
吾輩たちはマーケットへとやってきた。
「ほう、いろいろな出店があるのだな」
「本当ですわね、わたくしもこの辺に来るのは初めてですので新鮮ですの!」
古着を扱っている店、乾物を出している店、木彫りの着物を出している店など様々だ。
む? シェリルが急に立ち止まったな。
何やら気になる店があるようだ。
「まぁ、とても綺麗ですの……」
出店の机の上をうっとりと見つめるシェリル。
……なるほど、ここは石を売っておるのだな。
色とりどりの石が木箱の中に並べられている。
といっても、やはり出店に並ぶようなものだ。
色は綺麗だがどれも大したもの……は??
「……? どうしましたの、クロノさま? 何か固まっ
ておりますの……」
シェリルが心配そうに聞いてくるが……
それは固まるに決まっておる。
目の前の木箱、その中に並ぶ石の中に透明な輝きを放つ拳大の石が……
「どうした、少年や。そいつが気になるのかい? そいつなら銅貨三枚だよ」
石を手に取った吾輩に店主が聞いてくるが、気になるなんてものではない。
今吾輩が手にしている石、吾輩の記憶が正しければこれは……
【ご名答です。この石――貴石はクリオストラダイアです】
頭の中に流れるカレンの声。
やはり吾輩の目は正しかったか。
クリオストラダイア――
転生前に一度だけ目にしたことがある貴石兼マジックアイテムだ。
確か宝飾具としてもとてつもなく高価であるが、さらにどんなスキルでもこの石にストックすることができ、所有者の意思でそれをいつでも発動できるという凄まじい代物だ。
そんな代物が……銅貨たったの三枚だと!?
これは絶対に手に入れねば!
…………いや、そうではないな。
【クロノ様……まさか?】
(ああ、その通りだ。カレンよ)
【驚きました。まさかそのような選択をできるとは……いえ、だからこそ時の神エイリアス様はあなたを選んだのかもしれませんね】
何やら脳内に流れるカレンの声がいつもよりも柔らかな気がするが……
まぁ、それはさておき。
「店主よ、落ち着いて聞いてほしい」
「ん? どうした少年よ。どうしてもその石が欲しいなら銅貨二枚にまけるよ?」
「店主よ、これはそこらの石ではない。これはとてつもなく稀少な貴石……クリオストラダイアだ。とても小さなものでも白金貨一枚はくだらない代物だ」
「……は? クリオスト……なんだって??」
いかん、稀少過ぎてこの石の存在すら知らなかったパターンか。
「店主、吾輩は冗談を言っていない。今すぐこの石を宝飾店なりギルドなりに持って行け。不安であれば吾輩たちも一緒に護衛、そして買い手に騙されないよう知識を貸すためについていく」
「……え、それ本気なのか。いや、でもそんな手の込んだイタズラするわけもないし……」
「ク、クリオストラダイア……。言われてみれば特徴が同じですの。わたくしも一度だけ見たことがありますが、こんなに大きなものが存在するとは思わず見逃しておりましたの……」
「つ、連れの嬢ちゃんまでそんな反応を……。どうやらマジのようだな?」
「ああ、大真面目だ。店主、吾輩を信用しろ」
そう言いながら吾輩が金等級の冒険者の証を胸元から引っ張り出すと、店主は引き攣った表情で「頼む、ついてきてくれ。礼は弾む……!」と声を絞り出した。
◆
数時間後、宝飾店にて――
「この度は大変……大変稀少なお品物を当店にお持ち込みいただき、誠にありがとうございました!」
満面の笑みのこの店の店主、そしてそれに「ほ、本当にこんなことが……」と呆然とする出店の店主。
彼の目の前には大量の白金貨が。
そう、やはりあの鉱石はクリオストラダイアで間違いなかったのである。
「無事に商談が済んだようで何よりだ。それでは吾輩たちはここらで失礼……もしくは家まで護衛としてついていくが?」
「え……あ! 待ってくれ、少年! これを……うーん、いや……よし! これを君に渡す!」
そう言って、出店の店主が目の前に積み上がった白金貨、その半分ほどの量を吾輩に差し出してきたではないか。
「な、何を言っておるのだ……!? 店主、それはあなたのものだ。吾輩たちはあくまでそれの本当の価値を伝えたまでだ」
「いやいや! 君こそ何を言っているんだ?? 君があの石の価値を教えてくれなかったら私が手に入れたのはせいぜい銅貨数枚だ。それに君はあれを黙って買うこともできたはずだ。それをせずに本当の価値を教えてくれた恩人に礼をしないなんて、商売人のプライドがゆるさないよ!」
ま、まさかこのようなことになるとは……
な、ならば!
「それにしても半分というのはやり過ぎだ。ここはその内の一枚で……」
「いいや! 半分だ、なんとしても受け取ってもらう!」
「う……っ」
「(クロノさま、ここはお受け取りになった方がよろしいかと思いますの。わたくしも商会の娘だからわかりますの。商人のプライド、矜持というものが)」
シェリルにまで諭されてしまった。
「わ、わかった……。ありがたくいただくとしよう」
「そうこなくちゃ! 今回は本当にありがとう、君のおかげで明日から人生薔薇色だ!」
満面の笑みを浮かべる店主。
まぁ、心から嬉しそうだし、これでよかっただろうな。
……む?
あの商品、少し気になるな……
店の奥の方、それでいて目立つように飾られているブレスレットが吾輩の目に入る。
白銀をベースにヴァイオレットの貴石をこれでもかとあしらったこれでもかと上品な輝きを放つブレスレットだ。
白銀、それにヴァイオレット……シェリの髪と目の色にそっくりだな。
「さすがお客様、お目が高い……!」
吾輩の視線の行方に気づいたのか大仰な仕草で声を上げる宝石店の店主。
「店主よ、あれはどれくらいするだろうか?」
「あちらは大変稀少な貴石の数々を使っておりまして、白金貨三枚……ふむ……」
む? どうかしたのだろうか。
急に黙り込んでしまったぞ。
それに白金貨三枚とは凄まじい値段であるな。
さすがに気軽に買えるものでは……
「差し上げます」
…………は?
「今回、お客様方には素晴らしい代物をお売りいただきました。そして何より先ほどのやりとり、商人の端くれとして大変感動いたしました。ですので、差し上げます。あちらのブレスレットを!」
「い、いや! あなたまで何を言っておるのだ! もはや意味が……!」
「差し上げます! 是非ともお受けとりください!」
「いや……そ、それならせめて白金貨二枚は最低でもお渡ししたい!」
「ふむ……では一枚だけ頂戴いたします」
……っ!?
さすがにそれはと、さらに食いつこうとしたがあれよあれよと店主はブレスレットの方へと歩いていってしまった。
「と、とても綺麗なブレスレットですのね。わたくしでもここまでのものを見るのは初めてですの……」
キラキラした目でブレスレットを見つめるシェリル……の腕に――
「ふむ、こうか」
と、そのブレスレットを嵌める吾輩。
「へ……? クロノさま? い、いったい何を……」
「何をって……これはシェリルへのプレゼント用に買おうとしたものだぞ? 髪と瞳の色と一緒だから似合うと思ってな」
「ひょっ!?」
今度は素っ頓狂な声を上げておるな。
「せっかくのデートなのにしばらく付き合わせてしまった礼も兼ねてな」
「ク、クロノさま……♡ あ、まずいですの、濡れ……キュンキュンしてきてしまいましたのっっ♡」
今途中で……いや、聞かなかったことにしよう。




