番外編 新たな日々3
さて、シェリルの足腰も回復してきたことだし、このあとはどうするか?
「クロノ様、わたくし……クロノ様とデートしたいですの!」
「ふむ、デートか」
そういえばシェリルとはそういったことをしたことがなかったな。
「といっても、吾輩はそういった経験があまりなくてな。そもそも大商会の令嬢とどうやってデートしたものか……」
「それでしたらわたくしにお任せくださいませ! ……と言いたいところですが、わたくしもデートというものをしたことが……。異性とお近づきになるのはクロノ様が初めてですし……」
なるほど、そうであったな。
「まぁ、ものは試しだ。二人であれこれと試しながら楽しむとしよう」
「はいですの!」
◆
宿屋を出てゴンドラに揺られることしばらく、吾輩たちはなんとなく港へとやってきた。
「これはすごいな、港がここまで活気にあふれているとは」
「ほんとですの! わたくしも初めてきました!」
漁も終わり閑散としているかと思いきや港にはたくさんの出店が開かれており、魚介類を買う客はもちろん、その場で魚介類を簡単に調理してもらい簡素な席で食べている者の姿もちらほらと。
「あんたぁ、もしかしたらクロノ様じゃねーか!?」
む、何やら後ろから声が。
振り返ると片手に拳よりも大きな牡蠣、もう片方には変わった形をしたナイフを持つ大男が屋台の中からこちら見ている。
「……確かに吾輩はクロノだが?」
「や、やっぱりそうだったか! この都市を救ってくれた英雄! 会えて光栄だ!!」
こ、ここでもそんな扱いなのだな……。
「そうだ、よかったらうちの岩牡蠣を食べていってくれよ! 都市を救ってくれたお礼だ!」
「……!? い、いや、そういうわけには……!」
「遠慮しないでくれ! ゴブリンキングに四魔族の一柱の出現……こうして俺らが店をやってられるのはアンタのおかげなんだからよ!」
有無を言わさず吾輩もシェリルも店の横の席に座らされてしまった。
手際よく岩牡蠣を剥いていく店主。
おお、身がぷるっぷると踊っておる。
実に美味そうだ。
……って、店主よ。
いったいどれだけ剥くつもりなのだ!?
「お待ちどうさん! たらふく食べていってくれ!」
そう言って岩牡蠣がこれでもかと乗った大皿をテーブルの上に置く店主。
岩牡蠣と一緒にレモン、それと何やら赤いソースが入った小皿が添えてある。
「すまない、こんなにも気を遣わせてしまって」
「何言ってんだ! 遠慮なく食べてくれ! 英雄さん、それに連れの美人さんもな!」
「び、美人さん……それにクロノ様の連れ、なんて呼ばれると照れてしまいますの……」
頬に手を当て、顔を赤くするシェリル。
美人などと言われ慣れておるだろうに、吾輩の連れと言われるだけでそんなに照れるようなものなのか……?
まぁいい。
せっかくだからありがたく岩牡蠣にありつくとしよう。
「おお! これは美味いな!」
ぷりぷりの食感、少し強めの塩分。
そしてこの独特の風味……実に美味い。
これは一緒に酒が欲しくなるやつである。
シェリルも岩牡蠣を頬張り、目を丸くしておる。
「気に入ってもらえてよかった! 夏前だから少し塩分が強めだが、これはこれで美味いだろ?」
「む? 店主よ、夏になるとまた味が変わるのか?」
「ああ、その通りだ、英雄さん。この地域はもうすぐ梅雨を迎えるだろ? そうすると山から一気に水が海に流れて今度は塩っけがちょうどよく、それでいてさらに栄養たっぷりで風味がよくなるんだ。ぜひ、その頃にまた来てくれよ!」
ほう、そのような違いが。
それはぜひとも食べてみたいところ。
……にしても確かに塩っけは多少強めだが、本当に美味い牡蠣だ。
レモン、それに店主特製のスパイスを混ぜたオリジナルソースをかけて美味い。
遠慮していたというのに、今となっては食べる手が止まらん!
「英雄さん! よかったらうちの特製果実酒も飲んでくださいな!」
む、今度別の屋台から酒瓶を持った女店主と思しき女性が近づいてきた。
「ほう、それはいい。いくらだろうか?」
「何言ってんだい! これはうちの店からのお礼だよ!」
……っ!?
「さ、流石にここまでくると本当に気が引けるのだが……」
「そりゃこっちのセリフさ! アタイらの生活を守ってもらっといて、お礼の一つもできないなんてこの都市で暮らしてることに気が引けちまうよ! いいから飲んでくださいなって」
そう言って豪快に酒瓶、それに樽ジョッキを二つ置く女店主。
「かたじけない」
「ふふっ、たくさん飲んでいってくださいな!」
ふむ、せっかくの心遣いさっそくいただくとしよう。
「……ほう、これはまた美味いな! そして不思議な味だ」
「この味……ライチが使われてますわね。とっても美味しいですの!」
なるほど、ライチか。
そういえば転生する前に一度食べたことがあるような?
にしても、これは岩牡蠣も酒も進んでしまうな。
次々と手を伸ばしてしまう。
「ふふっ。クロノさまったら、お口の横にソースがついてますの」
む、シェリルが指でソースを拭ってくれた。
吾輩としたことが恥ずかしい……ってうお!?
指についたソースをそのまま自分の口に運んでいきおった。
……な、なんでそんなに愛おしそうに指を舐っておるのだ……っ!
「くっ! さすが英雄さま! 毎晩こんなべっぴんさんに……羨ましいぜ、チキショー!!」
何やら店主が涙流しながら岩牡蠣を剥いておる。
と思ったらまた大皿に持って運んできてくれた。
なんというか、色々とすまぬ……。
あとシェリルはいつまで指を舐りながら吾輩を見つめておるのだ。
股か――心臓に悪いのでやめてほしい。
【シェリルの受精の準備が整いました。いきましょう】
ええい! カレンよ、黙っておれっっ!!




