第九話
俺の願いむなしくこちらに突進すしてくる小さな龍。
「やばいな」
さっき見ている限りではケルベロスの攻撃は見えない何かにはじかれていた。このことからあいつの周囲は何かよくわからないファンタジー物質で覆われている。
そして今重要なのは俺の後ろは壁ということ。ということは、押しつぶされて死ぬ?
「どうしよう」
と言ってみたもののどうすることもできない。正直詰んでいる。
「うーん」
後数メートル、数秒で俺のところまで小さな龍はたどりつく。
くっそ、取りあえず回避はしてみるかな。
ぐっと体を縮めて右足に力を込める。
「三、二ぃ、一。今!」
無様に横っ跳びで回避。
ッガン!
鈍い音を響かせて小さな龍は壁にぶつかる。いや、この表現は間違いだ。小さな龍の前方にある何かが壁とぶつかり鈍い音を立てる。
「ちぃ! あれ物理攻撃に使えるのか」
確定、あの小さな龍の前方にあるバリア見たいなものは危険だ。
「ぐぎゃああおおおおおおおお!!」
咆哮。ケルベロスより大きな声ではないのに感じる威圧感の違いが半端じゃないほど違う。
「はぁ、これはかなり、やばいか」
何かないかとポケットをまさぐる。さっきも確認した通りシャーペン四本、百円ライター、ハンカチ。
「はぁ、どうにもなんねぇな」
なんとか逃げたいし、あのバリアがどんなものか知らないけどいろいろ試してみるか。
「う、おおおおおおおおお!!!」
まずは死にたくないので自分の体に鞭打って折れている左足も使って立ち上がる。
「………はぁ、はぁはぁ」
襲い来る激痛。だが機動力を確保しない限りは死ぬ、と思う。
あのケルベロスがつぶれた変な現象を起こされたら普通に死ぬだろうけど。
「ぐ、ぎゃあああおおおおおおおお!!」
威圧感たっぷりの咆哮を上げながら突っ込んでくる小さな龍。
「それしかないのか、よっと!」
それをタイミングを合わせてよける。
そしてまた激痛をこらえて立ち上がる。
「ああ、きっつ」
肩を上下に揺らしながらも小さな龍を見る。
「ちょっと、仕掛けてみるかな」
まず最初に試すこと、それはあのバリアが一度に防御できる物体の数。
一番殺傷力のある。シャーぺンはまだ使いたくないので、学生服に着いたボタンを上から六つと袖に着いた使い道のよくわからないボタンを左右二つづつ四つを強引に取る。
「じゃあ、まずは!」
腕を肩に担ぐようにスローイングの体制をとる、指には二つのボタンがはさんである。
「ッシ!」
短い気合いと共に二つのボタンを投げつける。
結構な速さで二つのボタンが同時に小さな龍に飛来する。
カカン!
小気味いい音を立ててはじかれるボタン。
「うーん、だめだよなぁ。さすがに甘くない」
「ぐぎゃあおおおおおおお!!」
もう聞きなれた咆哮を上げながら突進してくる小さな龍。
「ワンパターン、なんだ、っよ!」
タイミングを合わせての回避。だが、これは失敗する。
「え?」
さっきと同じように横っ跳びに回避したのになぜか回避した方向の目の前に見えない壁がある。
「っぐ!」
鈍い衝撃が顔に来る。
「いってーなー!」
顔面強打により衝撃が走る。ツーっと鼻血が流れだす。
「くっそ」
鼻を押さえ左足の激痛に耐えながらも立ち上がり小さな龍を睨みつける。
「あー、痛かった、でもあれか、怪我の功名ってことで次に生かせそうだ」
痛かった。すごく痛かったが。いろいろ新しく気になることができた。
まず一つはあのバリアは多重展開できるか、もう一つはどこまでの大きさで出せるか、最後はどういう条件で出現しているか。あと、一つとても重要そうなことをつかんだと思う。
「はぁ、検証開始だな」
もう一回、肩に腕を担ぐようにスローイングのモーションをつくる。手に握るのはハンカチにボタンを数個包んだもの。
「っし!」
短い掛け声とともに投擲。
ハンカチが空気の抵抗を受けるためさっきよりも遅い。
その遅さを見てか小さな龍は心なしか侮蔑混じりな視線をこちらに向けてくる。
「甘いんだよ!」
その龍に向けて俺は嘲笑する。そして右手を担ぎモーションを作る。
「ッシ!」
気合いを入れて第一投。シャーペンを投擲。
ハンカチが途中で広がりシャーペンは龍から見えない。
そしてシャーペンはハンカチに命中、その勢いを削ぐことなく龍へと突き進む。
「ぐぁ!」
龍の短い鳴き声。それを聞いて俺は口角を上げる、なぜなら先ほどの鳴き声にはあの龍が現れてから初めての悲鳴だったからだ。
カン。
龍とシャーペンの距離はドンドン縮まる。
カーン。甲高い音を立ててシャーペンははじかれる。だがそれは明らかに今までより龍に近い距離で現れた。
俺はそれを見て次の行動に出る。さっきのであのバリアの出現するために必要なものの一つがわかった。演技でなければ、だが。
第二投めを投げるためにモーションを作り、落ち着いて投擲。
「ッシ!」
小さな龍が動揺している今がチャンス、逆にそれを使わせるとあの現象を起こされる。
小さな龍は俺が投げたシャーペンに落ち着いて対処しようとする。だが俺には分かる、あの龍はいまだに動揺していると。
だってあいつに迫っているボタンに気がついてないのだから。
俺が第一投目に投げたシャーペンがはじいたボタンは龍と当たる寸前まで迫っている。
そして、龍の目に衝突。
「ぐぇ!」
龍はその小さい衝撃に驚き目をつぶる馬鹿な奴だ。
俺はその間にさらにシャーペンを投擲。
これでシャーペンを使いきった。後、どうなるかは運次第。
龍が目をつぶっている間に第二投目のシャーペンは龍との距離数十センチになる。
「ぐぁあああおおおおお!!」
今までで一番力のこもった咆哮を龍があげる。
そして十センチほどにまで迫ったシャーペンはバリアに受け止められる。
小さな龍はこちらを勝ち誇ったような目で見る。だがしかし俺はそれを嘲笑した。
「馬鹿め」
そしてバリアが消えるのと同時に第二投目で投げた二つ目のシャーペンが龍の目の前に現れる。
「ぐぁ」
驚く龍はまたバリアを出そうとシャーペンに視線を定める。
だがそれではだめだ。
第二投目で投げたシャーペンに視線を合わせた龍は気が付いていない。龍が目をつぶっていた時に投げた第三投目に投げた、第二投目より速い速度で飛来するシャーペンを。
そして視線を合わせ集中し第二投目にあわせてバリアを作ろうとする龍の右目に第三投目のシャーペンがすぐそこまで迫る。
にやりと俺の口角がつりあがる。そして、
ズブリ。
右目に突き刺さるシャーペン。
「ぎゃ!」
短い悲鳴をあげて小さい龍はたじろぐ。そして追い打ち、小さい龍が視線でとらえていたシャーペンはあらかじめ俺が予想していたルート、たじろいだ龍の左目へと吸い込まれるように迫る。
ズブリ。二度目の肉をえぐる音が響く。
「ぎ、ぎぎゃあああああああああ!」
両目をつぶされた龍はシャーペンが顔にブッ刺さったままのたうち回る。
「はぁ」
一息つく。しかし顔の両目の当たりにシャーペンがブッ刺さったままのたうち回る龍というのもなかなかにスプラッタだ。
「ぎゃ、ぎゃぎお! ぎぎゃ、ぎゅぎゃ!」
奇声を上げながらのたうち回る龍。だがその勢いも段々と弱まっていく。
そして、数十分後息絶えた。
「はぁ、やっと終わった」
【終わった? 何がじゃ?】
俺の頭上で重苦しい声が響いた。
「え?」
いきなり響いた重苦しい声に急いで上を見る。
そこには龍につぶされて息絶えたはずのケルベロスが悠々と寝そべっていた。




