第六話
落ちる。
そこも見えない暗い穴の中に落ちていく。どこまで落ちていくのかわからないが
「こりゃ、地面と衝突したときによくて大怪我、悪くて死ぬな」
おそらくあと数秒の落下待ち受けるのは死か生か。
「運だのみってのはあんまり好みじゃないんだよな」
俺はそうつぶやくと地面があるであろう下のほうを見る。
一秒。まずは頭を打って即死を避けるために体制を入れ替える。
二秒。地面が見えてくる。
「あ! なんだありゃ」
見えてきた地面には何かいた。暗くて見えないが何かいた。だが今は無視。生き残るために集中。
四秒。もうそこに地面。
五秒。バキャ!!!
小気味いい音を立てて俺の左足が折れる。粉砕骨折は確実であろう衝撃が全身に駆け巡る。
続いて受け止め切れなかった衝撃のせいで上体が地面にぶつかろうと動く。
痛みを我慢して受身をとる。ここで受身を取らないと痛いのを我慢して左足を折った意味が無くなる。
「ぐ、あぁ!」
受身を取ったはいいが受身を取るときに何度か左足を打ち付ける。
「ぐ、ぎゃ、あ、あべし!」
何度体を回転さして完全に衝撃を受けきる。
「はぁ、はぁ、セーフ。死ななかった。ああ、生きてるって幸せ」
命の危機がさって安堵を覚えるがさっき落ちてくるときに見えたものが気になり正直そっちが気る。俺の命を脅かすものかもしれないし。
俺が死んだらあいつはどう思うんだろうか? 悲しむ? 泣く? 喜ぶ? 狂う?
まあ、俺が死んで喜ぶのはちょっと悲しいかな?
ああ、なんでこんな左足がズキズキいたんでもしかしたら命の危機が迫っているかもしれないときに俺はあんな、一条静香のことが頭に浮かぶんだろうな。
俺は左足が痛む中この落ちてきた空間で警戒しながらもどうしてもどうしようもなく頭に静のことがちらついていた。
もしかして俺、静香にまだ惚れてたか?
あいつも中学校の最初までは最高にいい女だったんだけどな。
「はは、あー。なんか懐かしいこと思い出した」
俺は落ちてきたこの空間で息を殺して俺の正面十数メートル先にいるナニカに見つからないようにしていた。そのナニカは絶対に生き物だと言う確信はあったが動いていない。おそらく眠っているのかもしれない、俺敵には眠っていてくれたほうがうれしいのだが。
「はー」
息を吐く。絶体絶命だろう。あのナニカがおきたら俺は死ぬかもしれない。だが俺は今左足が痛み起き上がることはできそうに無い。
「そういえば、昔静の注意を無視して痛い目にあったこともあったな」
あれは、確か小学生高学年くらいのこと。夏休みも終わりそうな蝉の鳴き声もまばらになっていた頃。
俺と静、それと友達二人の四人で川に遊びに行って俺と友達二人のうち一人で魚を採って遊んでいたんだ。女子二人は服が汚れるからといって川には入ってこなかったが。
それで三十分くらいして俺は一匹も取れないのに対して友達のあいつは大きい魚をとってしきりに静に自慢していたな。今思えばあいつも静に惚れていたんだろう。
その魚を見て感心していた静を見て昔静が好きだった俺は火がついた。あいつは俺にほどほどにしとけと何度も言ってきて俺はそれに生返事返して。あいつはそのたびに怒ってでも注意してくれたんだよな。
大きい魚を採ろうと時間を忘れてがんばっていて気がついたら上流でどうしようもなくてそのときの俺はガキでなんか怖くも悲しくも無いのに泣いちゃって冷静なら普通に帰ってこれただろうに。
それから暗くなって夜になって泣きつかれて冷静になって動かないほうがいいなとそのときは判断したんだけど、雨が降ってきたんだよなぁ。
「う、クソ雨ふってきちゃったよ」
俺は雨降ってきて急いで雨宿りできるような場所を探したんだ。
「ああ、畜生。体冷えてきた」
でも中々見つからなくて見つかったときには体が冷え切っていて。
「畜生、ああ、もう最悪だ」
明日の朝まで俺の体力だ持つかわからない。冷えた体は体力がどんどん奪われて。でも雨は降っていて最悪な状況が続いていた。
それから何十分何時間とたっても雨は上がらなくて体力がそこをつきそうで。
さびしくて、無鉄砲な俺を恨んで、でも悲しくて、でも怒りが湧き上がっていて。
ぐるぐるで正常ができなくなった俺はその場でじっとしていることしかできなくて。
結局助かったんだけど、あんときは怖かったなぁ。
「はあ、あいつの言うことは聞いとくべきだったな」
動けなくてどうしようもない今。あの時と似ている。
「ああー。畜生くっそ、足動かねー」
前方にいるナニカが動き出した。
「ああ、本当にあいつの言うこと軽んじるんじゃなかった」
前方にいるナニカは俺に気がついたのかこっちに向かって歩いてくる。
「くっそ、本当にいたのかよ………」
だんだんとナニカの全体像を捕らえることができる。
それは大体3メートルくらいの大きさで四足歩行。黒色の体表をしていてとにかく威圧感が凄い。
「………魔物」
俺はそれが近づいてきたことにより見上げることしかできない。黒色をした三メートルくらいの顔が三つもある犬。
俺が知っている存在でぴったりなものが一つあった。
『地獄の番犬ケルベロス』




