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神救異世界転移魂 ~絶望に抗う意志がなければ目的を達することはできない~  作者: Riku
序編第三章 『想いを込めて贈って』
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序編第三章42 『拳を握りしめて』


 翌日の朝。

 ティアラたちは朝食を終えて自室へと帰ってくる。


「わぁ!」


 言いながら、楽しそうにミファーが自分のベッド――否、リーファのベッドにダイブする。

 その様子をリーファが冷めた目でみるが、不快そうな顔ではない。


「そう言えば二人とも、今日はこのあと何かあるのかしら? あたしは図書館にでも行こうかと思ってたけど」


「ミファーとリーファは仕事!」


「――? 今日もなの? 一般雇用なのにそんなに仕事あるのね」


「ギクッ!」


「ギク?」


 肩をビクリと跳ねさせながら自分で擬音を出したミファーに、ティアラは困惑の面持ちになった。

 何がなんだかわからないが、このミファーの顔と動揺ぶりをみれば、何かを隠しているというのはさすがにわかった。

 それが何なのか知りたくて、ティアラはリーファを見つめた。すると目が合うが、リーファは何も言わずにミファーの方へと視線を戻す。


 協力させられてるわね……


 たぶんミファーのことだから、『リーファもゆっちゃダメだよぉ?』などと言ったりしたのだろう。


「まぁいいわ、じゃああたし図書館に行ってくるわね」


「あれ? もう行くのぉ?」


「えぇ、だってもう九時だもの」


「ティアラ」


「ん?」


 リーファに名前を呼ばれて、ティアラは部屋を出ようとした足を止める。それから軽く振り向くと、


「いってらっしゃい」


「――――」


 ティアラは驚いて喉が鳴った。目を丸くする。

 それからリーファの優しさに微笑みを零すと、「えぇ、行ってきます」と返事を返して歩き出した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「それにしても、なんであんなに仕事があるのかしら?」


 図書館を目指して学園の中を歩きながら、ティアラはさっきのミファーの姿を思い出す。

 明らかに動揺していた。あれが動揺と言えないのなら、すべての動揺が大根役者の大げさなリアクションのようになってしまう。

 ともかく、ミファーは何かを隠している。ティアラに隠しているということはティアラに向けたサプライズでも企んでいるのでは、などと一瞬期待するが、あいにくティアラが祝われるような日は近日中に存在しない。

 ――ミファーならそんなの関係なしにやる、などと言われたら否定できなくはあるが。


「どうであれ、仕事が多いのは謎なのよね……」


 隠す理由がどうであれ、一般雇用のミファーとリーファがなぜあれほどまでに仕事が多いのかがわからない。

 そんな疑問に頭をひねっていると、


『ティアラ、着いたよ?』


「んっ……」


 ティアの声に反応して、ティアラはピタリと足を止める。見れば、図書館の入口が目の前にあった。


『それにしてもティアラ、なんで図書館に?』


「最近来れてなかったでしょ? だからよ……ほら変わりなさい」


『――! いいの!?』


「えぇ、本来なら毎週金曜日に来てるはずなんだもの」


『けどあれは放課後って』


「あぁもういいからやりなさい!」


『わ、わかった』


 ティアの細かい発言がめんどうになって、ティアラは強引に話を終わらせる。それと同時に、体の主導権を押し付けた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「――――」


 ティアラから体の主導権を受け取ると、ティアは久しぶりの感覚を味わう。それから体を慣らすように手を握ったり開いたりを何度か繰り返した。


「ティアラ、ありがとう」


『……そんなこといちいち言わなくていいのよ』


 ちょっとばかし恥ずかしそうに言うティアラに、ティアは思わず頬が緩む。


 それからティアは図書館へと足を踏み入れた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「う~ん、やっぱりあかねの情報はこれ以上は見つからないかもなぁ……」


 ティアは再び、膨大な数の本を読み漁り、さらなるあかねの情報を求めていた。のだが、以前と同様に、新たな情報を得られずにいた。


『どうするの?』


 パタンと本を閉じたタイミングで、ティアラから疑問が投げかけられる。


「そんなの、わたしが知りたいよ……。どうしよう」


 ティアは苦悩する。

 どうしても、あかねには会いたかった。第一、あかねとはあの事故の出来事の直後に別れたのだ。そんなの、納得できるはずもない。

 ひずるは自然にあかねを想起した。

 それはあかねの笑顔だったり、泣きそうな顔だったり、楽しそうな顔だったり、して――、


 声、どんなだったっけ……


 記憶を絞り出しても、思い出せない。

 どうやら、声が一番忘れやすいというのは本当だったらしい。正確には音だが。まさか、こんな嫌な形で実証されるとは思っていなかった。

 ――このまま全部、忘れてしまいそうな気がした。

 徐々にあかねという存在の記憶が白濁して、やがて白く染まって思い出せなくなってしまいそうで、


「ホントにもう、お前に会えないってのか……」


 小さく、自分にも聞こえない声でひずるは呟く。

 その声を、ティアラが精神世界で聞いて唇を噛んだ。ティアラは、ティアが悩んでいるのに手を差し伸べらずにいることがやるせなかった。

 そんなティアラの気持ちを知らずに、ティアは頭をぶんぶんと振った。


「諦めちゃだめだ! うん! 過去に行くことができるなら会えるわけだし」


『ぇ、ちょっ、ぁ、あんた本当に過去に行くつもりなの!?』


「だって……」


 このままあかねに会えないで終わるのは、嫌だった。

 過去に行けば、失踪する前のあかねはたしかにそこにいるのだから、ほぼ確実に会える。だったら、その可能性は捨てたくなかった。

 現実世界なら限りなく幻想に近い発想だが、ここは異世界だ。過去に行く方法がどこかにあるかもしれない。


『いや、あたしも別に否定したつもりはないのよ。ただ、びっくりしただけ……。たしかに、過去に行けるならそれが一番だものね……』


「そんなことないよ。過去に行かなくて済むなら、その方がいい」


『――? どういうことよ? 過去にあかねさんがいるのはたしかだから、ほぼ確実に会えるじゃない。行かない理由あるかしら?』


「――?――」


 どこか話がすれ違っていて、ティアは小首を傾げた。

 だがすぐに理解した。そもそも過去に行くなんて発想自体、この世界じゃかなり珍しいのかもしれない。だとしたら、ティアラが過去に行くことの危険性を知らなくても不思議はない。


「今わたしが図書館にいることが原因で、一日前の過去に行けたとするよ。そしてティアラに明日は図書館に行かないでって言って、ティアラが図書館に行かなかったら、今わたしとティアラはここにいないことにならない?」


『そう、なるわね』


「けどここに、図書館にいないなら、わたしは一日前の過去に行かないから、ティアラに声をかけないことになるでしょ?」


『あれ? ホントだわ。けどそしたらあたしは図書館に行くから……あれ? それだとまたティアが過去に行ってあたしに声をかけることになって……ぬ、抜け出せないわ』


「そうなったら、あかねに会うどころの話じゃないでしょ? まぁ他にも、過去を変えた時点で別世界線ができるなんて説もあるけど……」


『別世界線?』


 と、興味を持ったティアラが精神世界で小首を傾げる。


「うん。さっきの可能性ともう一つ、過去を変えるとその時点から世界が分岐するっていう説があるの」


『……ぅ、う~ん、よくわかんないわ』


「えっとつまり、さっきの例えを持ってくるとしたら、今わたしが話してるティアラは一日前にわたしに声をかけられなかったティアラになるよね?」


『ぇ、えぇ』


「仮にティアラが声をかけられてたら、今ティアラとわたしは図書館にいないでしょ?」


『うんうん』


「このわずかな違いを反映した世界が新しく作られるってこと。これなら、その別の世界のわたしが、図書館にいないことで過去に行かなかったとしても、この世界とは無関係の出来事だから、今からこの世界のわたしが過去に行くっていう出来事が変わったりしないでしょ?」


『そうね、たしかにそうなるわ。……そっか、過去に行くのってなんか危ないのね』


「そう、だから行かなくて済むならそれが一番なんだよ」


『あれ? でもティアの目的ってあかねさんに会うことよね? それなら会ったうえで、本来の歴史通りに動いてもらうようにお願いすれば、一つ目みたいなことにはならないんじゃないの?』


「う~ん、どうかなぁ。ちょっとの変化が連鎖的に変化を生み出すバタフライ効果なんて言葉がわたしのいた世界にはあったし。けどティアラの言う通り、過去改変が未来の自分の因果さえ変えなければ、一つ目の抜け出せなくなる状況にはならないってわたしは思ってる。まぁそれも、別世界線ができるなら意味がないんだけど……」


『難しいわね……』


 お互いに、頭を悩ませる。

 一、二、三、四、五秒と沈黙が続いたところで、ティアがその沈黙を破った。


「……ん、ここらへんはまだ考える段階じゃないよ。そもそも、過去に行くなんてことができるかもわかんないし。わたしの世界でも空想上の話だったしね。まぁでも安心して、わたしが過去に行くことで一個目になって、ティアラとか他の人たちの人生が止まるなんてことにはならないようにするから」


 言いながらティアは本を本棚にしまおうとつま先立ちになりながら、


「けどまぁ過去に行く方法を探す以前に、そもそもわたしの体がないとだよ。じゃないとティアラを過去に連れてくことになっちゃう。そんなわけにはいかないもんね」


『それは……』


「――?――」


 何か言い淀むティアラに、ティアは小首を傾げた。


『なんでも、ないわ……』


「そっか……」


 その言葉を最後に、静寂がその場を支配する。


 視線が落ちる。

 唇を噛んだ。ティアラの体だから、傷つけないように。


「これでいい……」


 ――呟く。

 それは音になっていたかもわからないほど、小さい声だった。

 けどその声量に見合わない感情が、強く握りしめられた拳をプルプルと震えさせていたのだった。

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