序編第三章41 『二つの飾りに想いを込めて』
店主が腕輪を裏に持っていくのを見送ったあと、ティアラは店主が返ってくるのを待っていた。
というのも、どうせなら耳飾りや首飾りなども紹介してもらいたいと思ったのだ。買うかどうかは別にしても、やはり見ておきたい。――たぶん買うが。
そんなことを考えていると、店主が帰ってくる。
「あれ? どうしたの?」
店主はそう言いながら、まだ店内に残っているティアラを不思議そうに見つめてくる。
ティアラは両手の人差し指をツンツンと突合せながら、「えっとぉ、その……」と言い淀んで、それから、
「耳飾りとか首飾りとかも、みたくて」
「あぁそういうこと。いいよ、こっちきて」
「は、はい」
言われた通りにティアラは歩き出した店主の跡を追った。
「それにしても、贈り物いっぱい買うんだね。その短剣も贈り物?」
「は、はい」
「そっか、そんなにお母さんに感謝してるんだね」
「――! はい!」
きっとその感謝の想いの中には、迷惑をかけ続けたという罪悪感と、そのお詫びという気持ちも混ざってはいるのだろう。
少なくとも今のティアラには、迷惑をかけたことを、支えてもらったと変換して考えることはできない。
だがそれでも、母親に、両親に感謝していることは事実だった。
「それなら、私も気合入れよっかな。あなたのお母さんが、喜んでくれるようにね」
「ありがとうございます」
そう言って笑いかけてくれる店主に、ティアラは素直な気持ちを伝えた。
そんな会話をしているうちに、首飾りと耳飾りがたくさん売られている場所へと辿り着く。
「じゃあ首飾りからね。おすすめは二つ、かな。まずはこれ」
店主が指を指したのは、金色のチェーンに水色の宝石の首飾りだった。
「この首飾りの宝石は、ソースを付与すると光る特性があるの。角灯に使われてる石と同じ。けどかなり大きめだから、値段は銀貨十五枚」
「角灯に石が使われてたのね……初耳だわ」
もちろん、これまで角灯をみたことがないわけじゃないが、すでに光を放っているものだったり、アミリスやミャミュが明かりをつけていたから、知る機会がなかった。
「あれでも、ソース付与しないとなら角灯って使えない人いるんじゃ……」
「そうだね、ソース量が少ない人は使えない」
「ぁ、ありがとうございます……」
どうでもいいことに引っかかったティアラに、店主が優しく教えてくれる。
その優しさに触れつつ、ティアラは話を脱線させてしまったことにちょっと頬を赤く染めた。
「けどこれいいわね、暗い時にすぐ明るくできるのは便利だわ」
普段はあくまで首飾りとして使って、必要になった時だけ明かりとして使えるというのは、非常にいい。
それに値段もこれまで買ってきたものと比べれば安い方だ。
「もう一つはこれ」
「んっ」
店主が別の商品を指さしたのをみて、ティアラの視線もそっちへと移動する。
そこにあったのは、銀色のチェーンに透き通った赤色の宝石の首飾りだった。
「これはね、えっと……ちょっと持ってみて」
「えっあっはい」
突然のことにティアラは目を白黒させつつも、一度短剣を壁に立てかけて、言われた通りに首飾りを手に取った。
「んん!」
「ね? あったかいでしょ?」
――その宝石は、温かかった。
外をいっぱい歩いて冷えたティアラの手が、温まっていくのを感じる。
「この宝石は、周囲の温度に合わせてちょうどいい温度になるの。面白いでしょ?」
「はい」
店主の目をみてコクコク頷いて、ティアラは宝石を両手で包み込んで微笑む。
「こっちは値段が白金貨二枚。どっちにする? 他のでもいいけど」
「んー」
ティアラは喉を鳴らしながら、他の首輪も見やってみるが、アミリスに似合う色の首飾りはこの二つだけに思えた。
ティアラは手に持っている首飾りをもとの場所へと戻して、それからおすすめされた二つを見比べる。
「どうしよう」
どっちも魅力的と言えた。
前者は、アミリスの進む暗い道を、明るく照らしてくれるかもしれない。
後者は、アミリスの冷えた手を、温めてくれるかもしれない。
ティアラは唇に指を当てながら思考を深める。
やがてどっちも買うなんて考えが浮上するが、同じ種類のものを二つプレゼントするというのもどうかと思えた。
どっちかを選ぶというのなら、ティアラは――、
「こっちにするわ」
「ん、わかった」
ティアラは、水色の宝石の首飾りの方を選んだ。
――ティアラは、先の見えない暗闇の中を進んだ経験があるから。それはもちろん、物理的な暗闇なんかじゃなかったが。
――それでもいつか、この首飾りがアミリスの行く道を照らす光になってくれるかもしれないから。
「えっと、耳飾りもみる?」
「ぁ、はい」
ちょっと考え込んでいたティアラの顔を店主が覗き込んできて、ティアラはとっさに返事する。
「耳飾りだと、これが良いと思うの」
そう言って店主が指さしたのは、金色がベースになっている耳飾りだった。本体部分は、五つの小さな桃色の宝石が花の形を成している。
これをつけると、恐らくこの宝石の花がぶらぶらと揺れる形になる。その様子を想像してみれば、ティアラは自然と笑みが漏れた。
「この宝石には特殊な性質はないんだけど、恩返しの石言葉があるんだ。この石にはこれを贈る人への恩の気持ちが宿るって言われてて、その人が希望を失った時、絶望に抗う意志を与えてくれるって言われてる」
「買うわ!」
「はやいね!?」
ティアラの即断即決に店主が驚いて声を荒げた。
「そんな石言葉聞いたら誰だって買いたくなります!」
「そっか、優しいんだね」
微笑みながら店主がそう言ってくれて、ティアラはちょっと照れくさそうに頬を赤らめる。
「それじゃあ会計、でいいかな?」
「はい!」
そう言うと、店主がコクリと頷いて、商品を持ってカウンターへと向かった。ティアラは、立てかけていた短剣をしっかり手に持って、それを追いかける。
「えっと、全部で白金貨二枚かな」
「わかりました」
ティアラは給料の入った袋を取り出して、その中から白金貨を二枚出す。
「うん、ちょうど。じゃあこれ梱包するね」
「はい」
目の前で、店主が首飾りと耳飾りを綺麗に紙で梱包する。それが終わると、「はい」と言いながらティアラに渡してくれた。
「落とさないようにね」
「はい、ありがとうございます」
そう言って店を出ようと振り返って、
「そうだ、明日の夕方辺りにまた来て。あの腕輪買うんでしょ?」
「ん、わかりました」
ぺこりとお辞儀して、ティアラは今度こそ店を出る。
ガチャと、ドアが閉まる音が響いた。
『いっぱい買ったねティアラ』
「えぇ、親切な店主さんでよかったわ」
『このあとはどうするの?』
「う~ん、さすがにこれ以上は多いから、寮に帰るわ」
『それなら、落とさないように帰らなきゃね』
「あたりまえよ! せっかくのプレゼントを落としたら大変だもの」
プレゼントをしっかりと握りしめて、ティアラは寮へ向けて歩き出した。




