序編第三章40 『水の中で輝いて』
「さて、次はどこの店に行こうかしら?」
胸にギュッと短剣を抱きしめながら、ティアラは顔を上げる。
『アクセサリーショップとか?』
「な、なによそれ……」
『あぁそっか、えっと、耳飾りとか指輪とか、そういうの』
「んっ、そういうのね……」
ティアラは自分の耳についている耳飾りの方へ視線をやって軽く触って、それからティアに返事する。
「たしかにいいかも、探すわよ」
そう言って、ティアラは歩き出す。
『どういうのを買うつもりなの?』
「ん、そうね……どうせなら、ちゃんと目立つやつがいいわね。指輪だと、よくみないと気付けないじゃない?」
『そうなると、耳飾りとか腕輪とか?』
「腕輪、腕輪もいいわね」
『あとは首飾りとかもよさそうだね』
「いいわね、ちょっと楽しくなってきたわ」
『まだ着いてないよ……』
と、ちょっと声色を明るくするティアラに、ティアから呆れたような声がかかるが、楽しくなってきたものは楽しくなってきたのだから仕方がない。
ティアラはそれから十分近く歩いて、アクセサリーショップを探した。のだが、全然見つからない。
「……こんなことならさっきの店の人に聞いておけばよかったわ」
言いながら視線を落とすティアラ。
『あっティアラちょっと待って、顔上げて』
「うん?」
『あっちょっと横』
「よ、横ってどっちよ……」
ちょっと呆れたような目になりつつ、ティアラは左右を確認する。
『違うそっちじゃなくて、ちょっと右』
「右?」
『あぁ行き過ぎ!』
「な、なんなのよ……」
言いながら、ティアラはちょっとだけ左に顔の向きを修正して、
「あ!」
『ほら、あったでしょ?』
「えぇ、急ぐわよ!」
とティアラは駆け出す。
『ティアラ、走ったら転ぶよ?』
「えっけど……」
『短剣傷ついたらそのまま渡すことに……』
「わぁ! わっわかったわ! ゆっくり行くわ!」
ティアの忠告の意味に気付くと同時に、ティアラは慌てて足を止めてゆっくりと歩き出す。
もし本当にこけて、せっかく買ったこの短剣に傷でもついたら大変だ。きっとアミリスのことだから、ちょっとばかり傷ついていても気にしないとは思うが、それでもティアラは綺麗なまま渡したい。
傷ついた剣を魔法で治すなんてことができればいいが、
「剣は魔法が効かないんだものね……」
『そう言えばティアラのお母さんが言ってたよね、魔法が効かない素材でできてるって。なんていう鉱石なのかな? 魔法石とか魔晶石とかそんな感じなのかな?』
「あっ、魔法石は聞いたことあるわね。多分それよ」
『なんか当たった!?』
そんなことを言っているうちに、ティアラはアクセサリーショップの前へとやってくる。
「は、入るわね」
妙に緊張しながらも、ティアラは店のドアノブを捻った。
中はさっきの店と同様に、かなり綺麗な内装となっていた。軽く見回すだけで、さまざまなアクセサリーが視界に飛び込んでくる。
「ん、あなたはたしかティアラちゃんだったかな?」
「あっ、はい、ティアラです」
店主の声に振り向くと、そこには女性の姿があった。
「何を買いに来たの?」
「えっと、母の誕生日のプレ……贈り物を」
危うくプレゼント、と言いかけたが、なんとかリカバリーできて助かった。
ティアラは胸に手を置いて、ふぅっと息を吐いて安堵する。
「贈り物ね、どういう飾りがいいと思ってるの?」
「耳飾りと首飾り、あとは腕輪を考えてます」
「そっか、それなら……」
言いながら立ち上がった店主が、ティアラのもとへとやってくる。それからちょっと屈むようにしてティアラの顔を覗き込んで、
「ついてきて?」
「は、はい……」
歩き出した店主についていく。すると腕輪の売られている場所へと辿り着いた。
「腕輪はここ、お母さんの髪色とか目の色って赤だったよね?」
「はい!」
「それなら、これとかいいかも」
そう言って店主が、腕輪を一つ手に取ってティアラに見せる。
その腕輪は、赤色の鉱石で作られているのが、全体が淡い赤色になっていた。それに、
「これ、ちょっと光ってる?」
「そうなの。夜だともっと綺麗に見えるよ。こうやると……」
「わぁ! ホントに光ってる!」
店主が腕輪を手で囲うと、腕輪の周囲が暗くなってより一層明るいのがわかった。
「他にはこういうのもいいと思う」
「それは?」
「この腕輪の中心にある水色の宝石だけど、中に水が入ってるの」
「水?」
「うん、自然にできた宝石を加工して作ったの。一切魔法は使ってないよ。けどその代わり白金貨五枚って値段はだいぶ高いけどね」
魔法を使わずに作った腕輪、というのは、上手く言えないがなんかいいなとティアラは思った。
「宝石の中に細かい宝石が漂ってるから、こうやって振ると」
「わぁ! すごい!」
宝石の中で、キラキラと宝石が水に漂いながら光っている。それはとても綺麗で、神秘性を感じられた。
「けど、割れると中の水や宝石が出ちゃうから、扱いに気をつけないといけないね」
「そうなんですね」
とは言え、アミリスがティアラがプレゼントした腕輪に、宝石が割れるような扱いをするとは思えないし、そこに関しては心配してないが。
「もっと気軽につけれるといいわよね……」
つけるたびに割れないようにと意識していたら、せっかくのプレゼントが呪いのようになってしまう。それはティアラとしては嫌だった。
「それならこれがいいかも、かなり頑丈だよ」
「それは?」
「これは朝は水色、夜は赤色に色を変える宝石を使ってるの。しかもかなり頑丈な宝石だから、落としても壊れないと思う」
「う~ん……」
ティアラは、店主が戻した水の腕輪をもう一度見やった。
あれが一番、ティアラは好きだ。ただ、落として壊れたりでもしたらと思うと、不安でもある。
ティアラはアミリスがあの腕輪をつけているところを想像して、
「やっぱり……でも……」
あの腕輪を買いたい気持ちと、壊れたどうしようという気持ちがぶつかり合う。店主の持つ腕輪を見やるが、やっぱりあの腕輪がいいと、ティアラはそう思ってしまう。
だけど壊れたら、そんな不安が何度もティアラの脳裏を過った。
「よかったら、覆輪留めしようか?」
「覆輪留め?」
「宝石の周りを金属で囲って簡単に壊れないようにするの。その代わり、ほんのちょっとだけ中が見えずらくなるかもしれないけど……」
「ん~……」
ティアラは腕輪を見つめながら、考えた。
そうして、一、二、三、四、五秒と経過して――、
「お願いしてもいいかしら?」
「わかった。さすがに今日中は無理だから、明日また来てくれる?」
「わかったわ」
そう言うと、店主は頷いてティアラの買いたい腕輪を持って店の裏へと入って行った。
その背中を見送って、ティアラはもう一度アミリスがあの腕輪をつけているところを想像する。
「……喜んで、くれるかしら」
不安、というよりは期待の表情で、ティアラはそう小さく呟いた。




