序編第三章39 『深く胸に抱え込んで』
ミファーたちと食事を終えたティアラは、ミファーとリーファが仕事に行くのを寮の入口付近までついていって見送った。
そのあと自室に帰ってくると、早速先生からもらった給料袋を開いて、机にぶちまける。
「給料、給料!」
机に散らばった硬貨をみて、ティアラはテンションが上がった。
『ティアラ、楽しそうだね』
「んっ、ティアじゃない! 起きたの?」
「えっと……そう! 今! 起きたの!」
「ん?」
今、を強調するような言い方に、ティアラは不思議そうな顔をして小首を傾げる。だが今はそんなことより、給料の方へと興味が向いた。
「えっと、白金貨と銀貨ね」
種類としては、その二種類だ。ティアラは「一枚、二枚」と数えながら、一枚ずつ硬貨を分けていく。
やがてすべてを数え終わると、
「白金貨二十枚と銀貨四枚! ふふふ~ん、どんなプレゼント買おうかしら」
『に、二十万四千円……』
ニコニコでこれから買いに行くプレゼントを想像するティアラと、給料の額に驚きを隠せないティア。
「ねぇ、ティア、お母様ってどんなのだと喜ぶかしら?」
『え? ラ、ラノベとか?』
「何よそれ……」
『創作の物語の本』
「……そう言えばあんたもともと男だったわね。女心はわからないわ」
『ひどぉ! ちゃんとあかねは喜んでくれたもん!』
「まぁいいわ。とりあえず店に行くわよ!」
言いながら、ティアラは給料を袋に戻すと猛スピードで部屋を飛び出した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「まず先にどんな店に行こうかしら?」
寮を出てすぐ、ティアラは大通りに並ぶ店を見回しながら呟く。
『宝石店とか? あるかわからないけど』
「んっ、いいわね! たぶんあると思うわ。学園の生徒は基本学園都市から出られないもの。いろいろなものが買えるようになってるはずよ」
『どこにあるかわかるの?』
「いや全くわからないわ」
『ふ~ん……』
「な、なによ……」
何か言いたげに鼻を鳴らすティアに、ティアラはちょっとバツが悪そうな顔になる。
『いや、全然準備してないんだなぁって』
「し、仕方ないでしょ、寮と学園以外じゃ、買い物なんてしたことないんだから……」
『じゃあティアラ、とりあえず見回ってみようよ! それで見つけたよさげな店から入ってく!』
「それいいわね! ティア天才!」
『さっき女心わかんないとか言ってたけど……』
「さぁ行くわよぉ!」
ティアの指摘にシカトを決め込んで、ティアラは早速出発する。
歩きながら、ティアラは辺りの店を片っ端から見やった。
「う~ん、ここはパン屋みたいね。けど、プレゼントにパンはちょっとあれよね。それにもしあげるなら、作りたてをあげたいもの」
仮に今日買ったとしたら、渡すまでに何日も経ってしまう。だからパンはプレゼントには適さない。
ティアラはそう判断して、別の店へと視線を変えた。
「あっ! あれ良いんじゃないかしら?」
ティアラの視界に映ったのは、剣の店だった。
『あれ? でもティアラのお母さんって魔法士団長じゃなかったっけ?』
「そうよ。けど剣も使うのよね」
『そうなの? それならいいかもね。ティアラも誕生日に剣もらってるし、お母さんの誕生日に剣を渡すのはなんかいい感じする』
「んっ、それいいわね! 見に行くわよ!」
言いながらティアラは、店の中へと入り込んだ。
中は廃れているなどということはなく、とても清潔感のある内装となっていた。たくさんの剣が並べられている。
軽く見回していると、店主と目が合った。
「あっ、君は魔法士団長の娘の」
「はい、ティアラです」
「そうか。是非とも見て行ってくれ。君のお母さんには助けられたことがあるんだ」
アミリスに助けられた、と聞いて、ティアラは鼻が高くなる。自分の親が人助けをしているというのは、素直に誇らしかった。
「お母様に合う色ってどんなのかしら?」
『たしか赤色の髪だったよね。それならやっぱり赤かなぁ。あっでも、水色とか合う気がする』
「赤と水色、ね……」
ティアラは人前だからと小声で呟いて、ティアの言った色の剣を探す。
「ここら辺ね……ティアは」
『ティアラは、どれがいいと思うの?』
「んっ……」
『ティアラがプレゼントとするんだから、やっぱりティアラが決めなきゃ』
「いや、ちょっと意見を聞こうとしただけよ……」
『ふ~ん、ならいいんだけどさ』
ちょっと信じてなさそうなティアの声にジト目になりながらも、ティアラはため息交じりに視線を剣へと向けた。
「お母様に合うのだと、これとかかしら?」
目についたのは、水色の宝石が埋め込まれた剣だ。澄み渡るような綺麗な色で、アミリスに合うとティアラは思った。刃の方も、わずかに水色がかっているように見える。
「けど……」
『短剣だね……』
「そうなのよね。だけど普通の剣だと……」
ティアラは普通の剣の値札を見るが、どれも金貨一枚以上になっている。
『た、高いね……』
「他のものも買いたいし、あまり使い過ぎるわけにはいかないのよね」
『あれ? プレゼントって一つじゃないの?』
「違うわ。何個か買うつもりよ」
『……ふ~ん、ティアラお母さんのこと大好きなんだね』
「んっ……ま、まぁ、そういうことにしとくわ」
僅かに頬を赤くしながら、ティアラは言う。
何となく、ティアが精神世界でニヤニヤしているような気がしてムカついた。
「この剣だと、白金貨六枚ね。短剣だとちょっと高めかしら?」
「その剣は軽さを重視してるんだ。ちょっと持ってみるとわかるよ」
「わ、わかりました」
店主を横目にしつつ、ティアラはその剣に手を伸ばし、柄を持って持ち上げる。
「――! ホントだ! 軽いわね!」
びっくりするほどの軽さだった。二百グラムあるかわからないくらいだ。サイズは短剣にしてはちょっと大きいくらいなのに、驚きだった。
「これいいわね。……ティア、お母様喜んでくれるかしら?」
『わたしの想像だと、あのお母さんはティアラになら何もらっても喜ぶ気がするけど……。ただ、後悔しないようにちゃんと考えるべきだと思う、ティアラが』
「そ、そうね」
それからティアラはしっかりと考える。
値段的には白金貨六枚だから、残りは大体白金貨十四枚分だ。一応アミリスからもらったお小遣いもあったりするが、
「プレゼントを買うなら、あたしの給料で買いたいもの」
それからティアラは、アミリスにこれを渡す時を想像する。ティアの言う通り、想像の中のアミリスは喜ぶ顔をした。
だがもし、喜んでくれなかったらと、そんな嫌な考えが頭を過る。
「お母様がこれを使ったら、どんな感じかしら?」
言いながら、アミリスがこの剣を使っているところを想像した。その瞬間、ティアラは自然と頬が緩んだ。
自分がプレゼントした剣を、アミリスが使ってくれるのだとしたら、それはとても嬉しい。
「決めたわ。これ買うわ。ただ、どうせならいろんな店をみてから決めたいのよね……」
『まぁたしかに、買ったらお金が減るもんね。残りは白金貨十四枚くらい? 十五枚以上のプレゼントが見つかっても、買えなくなる』
「どうせなら、取り置いておこうか? 君だけ特別だ」
「んっ」
店主からの思わぬ提案に、ティアラは喉を鳴らして店主の方を見やった。それから、目を輝かせて、
「ぁ……いや、大丈夫です」
「そうかい?」
せっかくのプレゼントなのだから、真っ当に買いたいとティアラは思った。
他の人だって買いに来るかもしれない。その人は、取り置きなんてしてもらえないのだ。だったらティアラも、してもらえないのが正しい。
アミリスへのプレゼントなら、アミリスに助けられた人の恩義を使って、プレゼントを買いたくない。
ティアラはちょっとだけ考えて――、
「今買うわ! 他の人に取られたくないもの!」
そう言って、ティアラは剣を持って店主のところへと足を運ぶと、カウンターに剣を置く。
「白金貨六枚だよ」
「わ、わかりました」
頷いて、ティアラは給料の袋から白金貨を六枚取り出し、店主に渡した。
「うん、白金貨六枚ちょうどね。剣、落とさないようにね」
「は、はい」
言いながら、ティアラは買った短剣を深く胸に抱え込んで、店を出た。
「買えたわ」
両手で剣を目の前に持ってくると、ティアラはもう一度よくよく見つめた。
これをアミリスに渡した時、どんな反応をするのかはちょっと不安だけど、それでも自分の稼いだお金で母親へのプレゼントを買えた。
それがとても嬉しくて、ティアラはもう一度、短剣を深く胸に抱え込むのだった。




