序編第三章36 『わがまま』
「ん、いいわねそれ!」
『でしょ!』
ティアから出されたアイデアを聞いて、ティアラはちょっとテンションが上がった。
「そのサプライズなら、絶対にお母様をびっくりさせられるわ!」
言いながら、ティアラは自室の扉を開いて中へ入る。
「あっティアラぁ! もらえたぁ?」
「えぇ、もらえたわ! さっそく今から手紙を書くわね。あっそうだ、あたし十二月二十四日はお母様たちと行動するつもりなんだけど、いいかしら?」
「んっ、いいよぉ! じゃあミファーもお母さん呼ぼおかなぁ」
「良いじゃない。ならリーファも呼んだりするのかしら?」
「あっえっと、リーファは……」
ちょっと困ったように言いながら、ミファーがリーファの方へと顔を向ける。その様子に小首を傾げつつも、ティアラも同じようにリーファを見やった。
リーファは顔を落とし、下を見ながら、
「私は……」
「――?――」
「わぁ!」
「ひゃあ!?」
ミファーが突然抱き着いてきて、ティアラは勢いよくミファーと一緒にベッドの上に倒れる。
「きゅ、急に何するのよミファー!」
「それよりティアラティアラぁ!」
「なによ……」
ティアラを見上げるように見つめるミファーを前に、ティアラはジト目を返す。対照的にミファーは明るい眼差しをティアラへと向けて、
「ミファーたちの小企画にも行ってねぇ!」
「ん、そうね……」
ティアラは口元に指をあてて、ちょっと考える。
あのサプライズやるなら、ちょっと時間がないのよね。けど……
キラキラと、今も目の前から期待の眼差しが放たれている。
それを直視すれば、その顔を暗くするような選択など浮かんで来なくて、
「わかったわよ。頑張って時間空けてみるわ」
「やったぁ!」
「ちょっ、やめなさいよ……」
ミファーが深く抱き着いてきて、ティアラは恥ずかしそうに顔を背ける。
その頬は、ほんのりと赤らんでいた。
「あっそうだ、その……」
さらに頬を赤く染めて、ティアラはチラチラとミファーを一瞥する。
そんなティアラの様子に不思議そうな顔をして、ミファーが小首を傾げた。
「どおしたのぉ?」
「えっと、二十五日は、一緒に回りたいわ……」
心臓の鼓動がちょっとばかし早くなる。
ミファーがそれに気づいて、深くティアラの胸に耳をあてた。
「ティアラ鼓動速いね!」
「――っ! うるさいわよ!」
「うぐぅ……」
ミファーの頭頂部へかなり強めにチョップを入れた。
「いてて……」
「それでどうなのよ、ダメ、かしら……?」
涙目になって頭を押さえながらティアラから離れたミファーを一瞥して、ティアラは体を起こしながら言う。
「いいよぉ!」
「……そう」
ちょっと照れながらも、ティアラは嬉しそうに笑みを浮かべる。
それからちょっと離れたリーファを見やって、
「リーファもいいかしら?」
「うん」
「ありがと」
頷いてくれたリーファを前に、ティアラは微笑んだ。
それからティアラは立ち上がって、
「よし、それならさっそくお母様に手紙を書くわ!」
「じゃあミファーも書くぅ!」
そう言うと、ティアラより先に自分の机に向かうミファー。そんなミファーが席に着くのを見たあとに、ティアラはリーファの様子を窺った。
リーファはやっぱり、書かないのかしら?
それがなぜなのかティアラにはわからない。わからないが。
「――――」
――何となく、触れちゃいけないような気がした。
ティアラは軽く自分の頬を叩いて、切り替える。それから自分の机へと向かった。
紙を取り出し、ミリティアからもらった羽根ペンを手に持って、
「内容は、そうね……」
『サプライズ関連のことは内緒にね?』
ティアからの助言に、ティアラはコクコクと頷いて、それから「わかったわ」と小さく返事を返した。
なら……お父様とお母様とミャミュへ、突然手紙がきて、驚いてくれてるかしら? 同封されてる招待状をみてわかってると思うけど、十二月二十四日と十二月二十五日に学園で冬祭りが開催するわ。その冬祭りに三人に来てほしいのよね。十二月……
と、ティアラはそこでペンを止めた。
「十二月二十四日に来てほしいって、率直すぎるかしら……?」
そんなの、誕生日を祝いたいと伝えているようにも思えてくる。
いや、気にしすぎかしら……?
ティアラは自分の判断に自信が持てなくて、「ティア」と小声で呼ぶ。
「ティアは、どう思う?」
『んー、せっかくのサプライズなんだし、ティアラがいっぱい考えた方が、お母さん嬉しいと思うよ?』
「んっ……」
その言葉に、ティアラは意図せず喉が鳴った。
ティアが考えたものであれ、ティアラが考えたものであれ、アミリスはティアラのサプライズだと思うだろう。
だがそんなこと、ティアだってわかっているはずだ。きっと伝えたいのは、そういうことじゃない。
「……そうね、その通りね」
このままティアのアイデアや判断ばかりで企画していたら、それはティアラのサプライズではなくなってしまう。
だったらやっぱり、ここからはティアラがいっぱい考えるべきだ。だって、ティアラがアミリスを、母親を、驚かせたいのだから。
ティアラはもう一度、ペンを深く握りなおして、
十二月二十四日に、冬祭りにきてほしいわ。このあとはえっと……
「ねぇリーファ、招待された人はいつから学園に入れるの?」
「六時半」
「えぇっと、冬祭り開始が七時半だったわよね?」
「うん、終わりが十六時半」
「ありがと」
ティアラは体の向きを元に戻して、再びペンを持った。
七時半に冬祭りが始まるから、それよりも前に来てほしいわ。もちろん、仕事が忙しいなら、来なくても……
そこで、ティアラはペンが止まる。
仮にこれで来なかったら、ティアラはアミリスの誕生日を祝うことができない。仮に祝えるとしても、冬祭り――誕生日が過ぎたあとだ。
――そんなの、嫌だった。
やっぱり、仕事が忙しくても来てほしいわ。
書きながら、ティアラは初めてする大きなわがままに、心臓がドクドクと鼓動が速まるのを感じ取る。
だが緊張しつつも、ティアラはペンを止めなかった。
もちろんミャミュもよ。屋敷の仕事が忙しいからって、来なかったら怒るわ
自分が今、途轍もない手紙を書いていることに、ティアラは手が震えた。だが、震える手で最後に、
待ってるわね
と、手紙を終わらせた。
それから一度手紙を見直して、緊張で息が止まった。
「だ、大丈夫よ。絶対楽しんでもらうんだから……」
初めてするかなりのわがままに、ティアラは不安で胸がいっぱいになる。が――、
「て、手紙出してくるわ……」
「じゃあミファーも行くぅ! リーファも来て!」
「なんで私も……」
と、ミファーのわがままに冷めた目をしつつも、リーファは立ち上がる。
それからティアラたち三人は、手紙を出すために寮の入口にあるカウンターへと向かった。
「手紙!」
「えっと、送るってことであってますか?」
「うん!」
端的すぎるミファーに受付の人が困ったように確認して、それから差し出された手紙を受け取る。
その様子を前にして、ティアラは次は自分の番だと緊張が強まった。
「あなたもですか?」
「ぇ、えぇ……」
「――?――」
頷きつつも、手紙を差し出さないティアラに、受付が小首を傾げる。
これを出したら、もう取り返しがつかない。本当の意味で、ティアラは三人にとんでもないわがままをしたことが確定する。
けど……
これを出さなかったせいで、三人が来てくれなかったら、とそんな想像をして――、
「――っ! お願いします!」
「はい、送っておきますね」
ティアラは意を決して、受付に手紙を差し出した。




