序編第三章29 『変わりゆく心』
ガチャリと自室のドアノブを捻って中に入ると、中にいたリーファとミファーと目が合う。
そして一、二、三秒と経って、ミファーが何も言わないことに目を細めた。いつものミファーなら、『ティアラ!』などと言って抱き着いて来そうなものだが。
いや、考えすぎね……
そう結論付けてティアラは、口を開く。
「なんか変なのに会ったわ……」
「へ、変なの?」
と、応じたミファーの声が若干震えていて、ティアラは思わず眉を顰めて、
「えぇ、マレディクトゥムとか言う子よ。初対面で不老不死の天才だっ! とか何とか言われたわ……」
「ふふっ」
「リーファ?」
いつも冷静を貫いているリーファが声を出して笑ったのをみて、ティアラは目を丸くする。
二人が何かを隠しているような気がして、探るように目を細めて――、
「それよりティアラぁ!」
「わぁ!」
突然ミファーが抱き着いてきて、ティアラは驚きで喉を震わせる。
「な、なによ……」
「今日の仕事はどおだったぁ?」
「今日もいつも通りよ……あっ」
「ティアラ?」
ティアラの頭に、メルティアからの伝言が過った。
その瞬間、ティアラは一気にテンションが上がる。
「そうよ! そうなのよ! あのねミファー、大企画の仕事の日が決まったのよ!」
「ううぇ!? よかったじゃん! ティアラずっとまだかなぁって言ってたもんね!」
「えぇ! ホントそうよ!」
「いつなの?」
と、そこでリーファから質問があって、ティアラはニヤリとした笑みを浮かべながら三本指を突き出して、
「三日後よ!」
「ううぇ!?」
「ミファーうるさい」
「ごめんなさい……」
「ふふっ」
いつものリーファとミファーのやり取りを前にして、ティアラは思わず声を出して笑った。
大企画の仕事が決まったからか、心が軽くなっている気がする。心なしか――否、一目瞭然にティアラは気分が上がっていた。
もっとこの素晴らしい吉報を誰かに話したいと思って、
「そうだあたし、フィエリアのところに行ってくるわ!」
と、言いながらドアの方へ振り返る。
「――――」
その発言にリーファが目を細めた。
ティアラはハッとして口を両手で押さえるが、時すでに遅しだ。ティアラは恐る恐るリーファの方へ振り向いて、
「……別に、行けばいいじゃん」
「ぇ、えぇ……」
ティアラはリーファの対応に目を丸くする。
それからゆっくりと頬を緩めて、ティアラは「行ってくるわ」と言ってドアノブを捻った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ティアラが出て行ってから少しして、ミファーがリーファを見ながらオドオドし始める。
きっとさっきフィエリアの名前が出たから、話しかけていいのか迷っているのだろう。
そんなミファーをジト目でみて、リーファはハァとため息を零す。
「ティアラにマレディクトゥムのこと隠す必要あった?」
「――! あるよ! どうせなら飾り付けの雇用の時にも驚かせたいもん!」
一体どれだけティアラを驚かせるつもりなのだ。
このペースだとティアラは五回くらい驚かされる気がするが、ティアラの心臓にことを考慮しているのだろうか。サプライズもやりすぎは毒になる。
「そんなことよりリーファ! その……よかったのぉ?」
「――――」
その抽象的な心配が何のことなのかは、すぐにわかった。
ティアラがフィエリアのところへ行ったことに対してなのだろう。
リーファは視線を下げながら、
「ティアラがフィエリアの部屋に入るところは何度かみてるしね……」
「――――」
「……フィエリアのことは嫌い。だけと、だからってティアラの行動を制限するのは、なんか違う気がするってだけ」
「そっか!」
パァッと表情を明るくするミファー。
そんなミファーを他所に、リーファはフィエリアの泣き顔を想起する。と、『……償っても、いぃい?』と脳内で声が再生された。
それに何か思うところがあるのはわかっても、リーファにはそれがどういう感情なのかはわからなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「フィエリア! 来たわよ!」
言いながら、ティアラは勢いよくフィエリアの部屋のドアを開け放つ。
「ティアラ?」
目を丸くしたフィエリアがベッドに座っているのを見れば、ティアラはコツコツと足音を鳴らしながらその隣までやってくる。
「よいしょっと」
「んっ」
ティアラが隣に腰を下ろしてピッタリとくっつくと、フィエリアが緊張した面持ちで喉を鳴らす。
テンションが上がっているからか、ティアラはいつもより距離感が近かった。無自覚だ。
「フィエリア?」
「な、なんでもない……」
「そう?」
「……えっとティアラ、何かあった?」
「あたしね、ようやく大企画の仕事の予定が決まったのよ!」
「――! よかったじゃん」
「えぇ! ホントに嬉しいわ!」
「だから、その……距離感近いんだ」
「えっ……」
フィエリアから言われて、ティアラはフィエリアとの距離の近さを確認するように視線を動かした。
そして――、
「わぁ!」
慌てて間に空間を取って座りなおし、ティアラは自分の失態に頬を赤らめる。
「ぁ……」
「わ、悪かったわ」
「ぅ、うん……」
「ん?」
どこか切なそうにするフィエリアの横顔をみて、ティアラは思わず小首を傾げて考える。
わからないわ……
が、その表情がなんでなのかティアラにはわからなかった。
「そうだ、さっきリーファにフィエリアに会いに行くって言ったら、行ってくればって返ってきたわ」
「え?」
ティアラは視線をちょっと落として、和らいだ表情で続ける。
「あれがどういうつもりだったのかはあたしもわからないけど、リーファにも何か思うところがあるのかもしれないわね」
「そっか……」
ちょっとだけ嬉しそうな面持ちになって、フィエリアは視線を落とす。
そんなフィエリアの横顔をみて、ティアラはチョンと頬に指を触れさせた。
「んんっ!」
「ふふっ」
驚くフィエリアをみて、ティアラは微笑みかける。
「そうだ、あたし今日はこっちで寝ようかしら」
「えっ!」
「嫌、かしら?」
「うぅん、そんなわけない」
その表情は本気で嬉しそうで、ティアラがわかるほどだった。そんなだから、ティアラも嬉しくなってしまう。
まだまだ日は落ちていない。時間たっぷりあるが、それでも、
「じゃあ、就寝時間まで話し込むわよ!」
と、ティアラは込み上がる感情に任せて、言い放つのだった。
言い忘れてましたが、毎日投稿から週5投稿に変更しました。
代わりに一話ごとの質をあげてます。
詳しくは活動報告をご覧ください。




