序編第三章20 『あかね』
ミファーとリーファを見送ったあと、ティアラは自室でゴロゴロとしていた。
あの二人がいないとこんなにも暇なのだと、ティアラは昨日と今日を通して思い知られる。
「ねぇティア……」
何となしにティアに声をかけた。
これ以上黙っていたら暇すぎて死んでしまう。
「ティア?」
『えっあっなに?』
慌てたティアの様子に、ティアラは眉を顰めて、
「ねぇ、なんか最近ぼーっとしてること多くないかしら?」
三日前くらいからだろうか。
リーファとミファーがいるから高頻度で話しかけているわけでもないが、それでも何度か声をかける機会はあった。
そしてティアは、毎回ではないものの、反応が遅れていることが多々ある。
『実はねティアラ……』
「えぇ」
『あかね……わたしの友人がこの世界の二百年前にいたことがわかったんだ』
「……えっ?」
一瞬、ティアラは自分が何を言われたのかわからなかった。
てっきりもっと軽い話題になると思っていたから、理解が遅れる。ティアラは慌てて体を起こして、姿勢を正す。
「それって……」
『うん、この前ティアラが図書館で寝ちゃった時にね』
「だからずっとぼーっとしてたのね……」
納得しつつも、「相談してくれてもよかったじゃない……」とティアラは若干拗ねたような声で言う。
実際ちょっと拗ねている。ティアラはティアが助けてくれたことにずっと感謝しているから、こんな時くらい頼ってほしいのだ。
「それで、どうしてわかったのよ」
『ティアラが寝てる時に見つけた本の挿絵があかねだったんだよ。わたしの世界のゲームや言葉があるのもあかねが作ったり広げたりしてたからだったみたい』
「……そのあかねって人とはどんな関係なのよ」
『え?』
ちょっと気になった。
ティアラはティアとかなり仲がいいと思っているから、そんなティアが他の人のことを友人などと呼ぶのがちょっと嫉妬深い。
もっとも、ティアラはティアの相棒だからもっと上だが。
『う~ん、一緒に住んでて』
「一緒に住んでて!?」
一瞬で、優越感に特大の亀裂が入った。
それと同時に友人なのに同棲しているという事実に混乱した。
「そ、その子って男?」
『女の子だよ?』
「女の子なの!?」
『ティアラ? えっどうしたのティアラ!』
女の子と同棲しているという事実に驚きつつ、心にダメージが入った。
ティアラは別にティアに対して恋愛感情など抱いてはいないが、それでもティアは大切だし恩人なのだ。
そんな人に自分より距離の近い相手がいたという事実に、ティアラはポカンと口を開けたまま固まった。
「まぁいいわ。それよりこれからどうするのよ? 二百年前ってことはその人は……」
言いづらくなって、ティアラは声量が落ちる。
二百年もの間その人が生き続けている、というのはさすがに希望的観測だ。
『……諦めない。どうにかして、もう一度あかねに会う』
「そんなに……」
ティアにとってそんなに大切な人なのかと、ティアラはちょっと嫉妬する。
だがまぁ、考えてみればティアラのことが大切じゃないと言っているわけでもない。
変な邪推はやめようと、ティアラはぶんぶんと頭を振って考えを吹き飛ばす。
『謎なのが、あかねが四百六十三年に突然現れて、四百六十六年に失踪したこと』
「ちょっと待って、あかねさんってこの世界にゲームを広げた偉人なのよね?」
『え、うん……本にはそう書いてあったよ?』
「……まるでアルコルの神隠しみたいね」
『それはわたしも思った。あとわかったのは、この世界の言語は最初から……少なくとも二百年前時点で、ある程度わたしの世界と同じだったんだと思う』
「どういうこと?」
『だって、仮にあかねが二百年前のこの世界に転移したとしても、言葉が通じなかったら偉人になんかなれっこないもん』
「それもそうね」
『他にもあかねの名前がアルカネ・アルカロネって書いてたし……』
悩み込むように、ティアがまた口を閉じる。
そんなティアの悩む様子を見れば、ティアラは我慢できなくなって、
「このあと、図書館に行ってあげるわ」
『えっでも……』
「行ってあげるわ」
『ぁ、ありがとう』
と、半ば強制に図書館に行くことが決まった。




