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第一章59 『静かな部屋』


「じゃあ、ティアラちゃんもやってみよ?」


「ぇ、えぇ……」


 正直ちょっと緊張するが、ティアラはメルティアが装飾している柱の方を見やる。


「な、何を作ればいいの?」


「なんでもいいよ? ティアラが作りたいもの」


「わ、わかったわ」


 と言っても、特に作りたいものなどないのだが。

 ティアラはとりあえずメルティアの真似をして、石の花を作ろうと決めた。

 ゆっくり深呼吸をして、ティアラは魔法を発動する。同時に、複数の魔法陣が展開された。

 それからティアラの想像通りに、石でできた花が生成される。


「ティアラちゃんうまいね!」


「そ、そうかしら?」


 メルティアから褒め言葉が飛んできて、ティアラはちょっと嬉しくなる。


「じゃあティアラちゃん、飾り付けしよ?」


「えぇ!」


 それからティアラとメルティアは、学園の装飾を続けた。ティアラは最初こそ緊張したものの、やっていくうちに楽しくなってくる。

 これは装飾というより工作をしている感覚に近いとティアラは思う。自分の作りたい飾りを自分で生成して、それを飾り付けていく。

 一時間と経つ頃には、ティアラは完全に熱中していた。


「ここは……そうね、花はもう結構やってるから、なにか違うのにしたいわね」


 楽しそうな面持ちで、ティアラは次はどんな飾りを生成するかを考える。


「えい!」


「わぁ!」


 背後からメルティアの声が聞こえて、それと同時に頭に何かを被せられる。

 ティアラは驚きながら咄嗟に振り返った。


「あぁ、やっぱり可愛いと思ったの」


「ゔぅ゙……」


 メルティアが陶然とした表情でこちらを見て、舌なめずりをするものだから、ティアラは咄嗟に警戒態勢を取る。

 するとメルティアは「し、しないよ……」と言って視線を逸らす。

 しないと言うということは、したくはあったということではと気づき、ティアラはメルティアをジト目で見つめた。


「ティアラちゃん、楽しそうだね」


「ぇ、えぇ! これ面白いわ! というか、頭の上のこれ何よ」


「あぁ……」


 ティアラが頭の違和感に手を伸ばし、その何かを手に取る。と、その様子を見て残念そうにするメルティア。

 ティアラはその違和感の正体を目にして、目を丸くした。


「花、冠?」


 石でできた花冠が、そこにはあった。


「うん、魔法で作ってみたんだけど……」


 ちょっと不安そうな顔をするメルティアをみて、ティアラはちょっと考える。


「……まぁいいわ」


 そう言ってティアラは頭にそれを戻した。

 するとメルティアの表情がパッと晴れる。


「それより、どうしたのよ」


「えっとね、私そろそろソースが不足してきちゃって」


「……ソースって、休めば回復するのよね?」


「うん、そうだけど……ティアラちゃん、不足したことないの?」


「ない……いや、水道を使う時に一度だけ、手にソースを集めすぎて倒れたことがあったわ」


 それをやったのは正しくはティアだが、どちらにしろソースの枯渇であることは変わりないと思って、ティアラは言う。


「えっ、そのあと大丈夫だったの?」


「ん? えぇ、すぐに調子は良くなったわよ?」


「う~ん、だったら多分、それはソースの不足じゃないかも。一気にソースを消費したからじゃないかな? ソースを消費するのに慣れてないとなっちゃうかも」


「そうなの?」


「うん、だって不足するとしばらく具合悪くなるからね」


「えっ、メルティアさん大丈夫なの?」


「心配してくれるの?」


 と言ってまた陶然とした面持ちになるメルティアに、ティアラはジト目になる。


「でも私は大丈夫だよ。不足って言ってもちょっとだからね、ちょっとだるいくらいかな。枯渇寸前とかだったらめちゃくちゃヤバいけどね」


「そう。じゃああれは不足じゃなかったのね……」


 たしかに言われてみれば、あの頃はティアラは魔法が使えなかった。

 だからあまりソースを消費する機会がなかったりした。そんな中大きく消費して反動が来るのは納得だ。


「今のあたしならならないのかしら?」


「ティアラちゃん結構魔法使ってるし、ならないと思うよ? そうだ、今日はソースが少なくなってきたら仕事は終わりなの。ティアラちゃんのソースが少なくなってくるまで付き合うね? けど無理しちゃダメだよ?」


「別に一人でもいいわよ?」


「ティアラちゃんともっといたいの、ダメ?」


「ん……」


 ストレートな想いが飛んできて、ティアラは頬が赤くなる。

 メルティアの過度なスキンシップは抵抗があるが、一緒にいたいと言われるのは普通に嬉しい。


「ま、まぁ、いいわよ」


「やった」


 それからティアラは、メルティアと雑談をしながら仕事を続けた。

 やがて、ニ十分、四十分と時間が経つ。さらには一時間、二時間と時間が経って――、


「ね、ねぇティアラちゃん、さすがにおかしくない? ソース不足してない? 無理してない? なくなったら死んじゃうんだよ?」


 本気で心配そうな面持ちで、メルティアが言う。

 ティアラも、さすがにおかしいと思っていた。


「ぇ、えぇ、別に無理とかして、ないわよ……」


「――――」


 メルティアが口をポカンと開けたまま硬直する。

 その様子を前にすれば、ティアラは自分のソース量の異常さを認識させられる。


「す、すごい、ソース量だね、ティアラちゃん……」


「ぇ、えぇ……」


 なぜか気まずくなってしまった。

 そのあと、メルティアの判断で仕事は終わりにすることになった。メルティア曰く、これ以上はキリがない、とのことだ。

 そんなこんなで、ティアラはメルティアと一緒に寮につながる転移魔法陣のもとまで足を運んだ。


「じゃあティアラちゃん、またね」


 転移魔法陣の上に立ったところでメルティアから声がかかって、ティアラは思わず振り返る。


「あれ? メルティアさんは帰らないの?」


「私はまだやることがあるから」


「そう、じゃあまた」


 そう言ってティアラはメルティアに手を振り、転移魔法陣を発動させる。

 その瞬間、ティアラを桃色の眩い光が包み込んだ。


「ん……」


 目を開けると、寮にある転移魔法陣の上に立っている。

 ティアラは自分の自室へ向かって歩き出した。


『ねぇティアラ、魔法陣って手にソースを集めて発動するんだよね?』


「ん……」


 ティアから質問が飛んできて、ティアラはピクリと肩を跳ねさせる。

 それからティアラは辺りに誰もいないのを確認して、


「ちょっと違うわ。正確にはソースを集めた部位を魔法陣に近づけると、そのソースを消費して発動するわ」


『じゃあ今のはどこにソースを集めたの?』


「足元よ」


『ふ~ん、面白いね。魔法の時はどうなの?』


「魔法の時は勝手に魔法陣から必要な分ソースが取られるわ」


『そうなんだ! でもあれだね、魔法じゃない方の魔法陣なら、小さい生物だとソース集めなくても近づいたら発動しそう』


「いや、ソースは人にしかないわ。あぁでも、付与することなら何にでもできるわ。まぁ、場合によっては意味がないこともあると思うけど」


『――? どういうこと?』


「そもそも、ソースの効果は自分の意志で使えないのよ。ソースはその人の体質みたいなものだから」


「というと?」


「ソースの効果が発揮する形は二種類よ。一つは常に発揮するソース、火が熱いのと同じね。もう一つは条件付きのソース、水が寒いと凍るのと同じ。どっちもその性質に逆らえない。ソースも同じよ」


「それで? 意味がない場合って言うのは?」


「フィエリアのソースがいい例ね。あの子のは睨んだ相手に恐怖されるソースでしょ? けど目のない生物や無機物に付与しても条件がクリアできないから意味がないの。常に発揮するソースでも、同じね。仮に頭がよくなるソースがあったとしても無機物じゃ意味がないわ」


 土台の概念がない生物や無機物にソースを付与しても効果は発揮できないということだ。

 温度の概念の土台があれば、温度系統のソースは意味があるし、知能の概念の土台がないなら、知能系統のソースは意味がない。


『なるほど! じゃあ火を噴けるようになるソースとかはなかったり?』


「えぇ。というかそもそも、何を生み出すようなソースはないと思うわ」


『じゃあさじゃあさ、一回ティアラリーファのソース付与されたことあるじゃん? あの時ティアラもリーファのソースの効果受けてたの?』


「う~ん、リーファのソースはたぶん、ソースの所持が土台で、自分のソースの付与が条件だから……そうね、ソースの所持と付与ができる相手に付与したら、その相手も自分のソースを誰かに付与して、その相手の加護使えることになるわね」


『じゃあリーファがティアラにソースを付与した状態で、ティアラがミファーにソースを付与したら、ティアラが自分とミファーの加護を使えるってことじゃん? だったらリーファは自分とティアラとミファーの加護全部使えるの?』


「そ、そんなのリーファに聞かないとわかんないわよ。まぁでも、リーファはソースを付与した相手の加護を授かるじゃなくて、使えるって言ってたからたぶんそうはならないと思うけど」


『ふ~ん。ねぇティアラ! 付与ってどうやるの!』


「体の一部にソースを集めて、その部位で付与したいものに触れてソースを注ぎ込むのよ。解く時は逆ね。あとはそうね、付与には多めにソースが必要なのと、付与したソースが時間経過でちょっとずつ消えていくわ。まぁソース付与は普通に危険だから、あまりやらない方がいいわね」


『でもティアラソース量すごかったからいっぱいできそうだね!』


「ぇ、えぇ、あたしもあんなに多いなんて初めて知ったわ……」


 そんな会話をしているうちに、ティアラは自室に到着する。

 自室のドアを開けて中に入るが、ミファーとリーファの姿はない。


「まだ帰ってないのね」


 ティアラはドサッとベッドに倒れ込んで、上向きになるように寝返りを打つ。

 二人がいないこの部屋はとても静かで、ちょっぴり寂しさを感じる。


「……早く、帰ってこないかしら」


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