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第一章58 『初めてのお仕事』


「ん、人多いわね」


 メルティアと一緒に教室に戻ると、さっきの何倍もの人数になっていてティアラは目を見開いた。


「ティアラちゃんはあそこ座ってて」


「えぇ。メルティアさんは?」


「イラの頼みで私は普通の特別雇用者より仕事が多いの。だからその仕事をしてくるね」


 そう言ってティアラのもとから離れたメルティアは、教壇に立つと雇用者たちに今日の仕事内容の説明を始めた。

 主な仕事内容は、学園の装飾らしい。自分なりの飾り付けを魔法で作成し、それを装飾する。そして今日は学園の内装ではなく外装とのこと。

 このあと数人で組みを組んでやっていくようだ。もっともティアラの組相手はメルティアと確定しているみたいだが。

 しばらくするとメルティアが説明を終わり、周りの雇用者たちが組を作り始める。

 そんな人の間を潜り抜けて、


「ティアラちゃん、じゃあ行こっか」


「えぇ」


 ちょっとだけ、メルティアとの心の距離が近づいたような気がする。

 今まではずっと、メルティアだけがティアラに心を開いていた。だけどさっき、メルティアにちゃんと気持ちを伝えることができたからだろうか。


 メルティアと一緒に教室を出て、学園を出るために廊下を歩く。

 いつもと違って冬休みだからか、人があまり多くない。すれ違う人たちもどこか急いでいる様子だ。恐らくティアラと同じようにどこかの雇用者なのだろう。


「ティアラちゃん……」


「なによ」


「その……」


「――?――」


 両手の人差し指をツンツンと突き合わせながら言いよどむメルティア。

 その様子にティアラは小首を傾げる。


「手、握っていい?」


「え!?」


 彼女と手を繋ぎたい彼氏のようなセリフに、ティアラは思わず声が出る。

 だがまぁ、いつものメルティアだったら確実に勝手に握っている。ちゃんとさっきの謝罪が口だけじゃないとわかって、ティアラは頬が緩んだ。


「ま、まぁ、そのくらい、なら……」


 照れながら許可すると、


「――! やったぁ!」


 ニコニコになったメルティアが、ティアラの手を握る。

 ティアラはちょっと恥ずかしくなりつつも、その手の温もりを受け入れた。


「ねぇティアラちゃん……」


「ん?」


 名前を呼ばれて横目を向ける。

 視界に映り込んだメルティアの顔は、何となく考え込んでいるように見えた。


「……私って、距離感、近いのかな?」


「えぇ近いわ。それは間違いないわ」


 遠慮なく、ティアラは言い放った。

 ここで変に気を遣って事実を隠しても意味はない。

 それにこの質問には、本心を伝えるべきだと、ティアラはそう思った。


「……そう、だよね」


 ちょっと落ち込んだように、メルティアは視線を落とした。

 それを見れば、ティアラは焦った。言い過ぎてしまっただろうか。


「けど、さっきちゃんと確認したのは、えらかったと思うわ……」


 その物言いに、ティアラは自分で自分を偉そうだと思った。

 だがメルティアはちょっと泣きそうで嬉しそうな笑みを浮かべて、


「ありがと」


 そして小さく、感謝を零した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 しばらく歩き続けて、ティアラとメルティアは学園の外へとやってくる。


「メルティアさん、装飾ってどうやるの?」


「みてて?」


 したり顔でティアラに言って、メルティアは「う~ん、どれにしよっかなぁ」と呟きながら辺りを見回す。


「あれにしよっか」


 そう言ってメルティアは近くにあった一つの柱のもとへ駆け寄る。

 そして次の瞬間、メルティアの目の前に複数の魔法陣が展開する。


「おおっ」


 ティアラはちょっと驚いたように声を出し、思わずメルティアのもとへ駆け寄った。

 正面に石の飾りが生成される。


「花?」


「うん、花」


「それどうやって飾るの? 構築魔法?」


「柱にくっつけるのはダメなの。柱の原型を保ったままじゃないと学園を壊したことになっちゃうからね」


「じゃあどうやるのよ」


「どうにか支えるしかないかな。一番いいのはたぶん、飾り付ける場所に沿うように、何でもいいけど生成する。その生成物には構築魔法を使ってもいいからね」


「なるほど。だったらこの柱なら、巻き付けるように何かを生成して、その生成物に飾りを構築魔法でくっつけるとか?」


「ティアラちゃん天才!」


 とそう言ってメルティアがティアラの頭に手を伸ばすが、寸前でやめて、ティアラのアイデア通りに魔法を使い始める。


「そのくらい別に……」


「何か言った?」


「い、言ってないわ」


 撫でるくらいしてもいいなどと言ったら撫でまわされそうだし、それになによりそんなことをティアラから言うのは恥ずかしい。

 そんな理由でティアラは首を横に振った。


「そう?」


 そう言ってメルティアが魔法の発動に戻る。

 その様子を見ていれば、たびたび出る魔法陣の出現場所がたまに変わる点に疑問ができる。


「メルティアさん、魔法陣が出る場所ってなにか条件があるのかしら?」


「うん? う~ん、たぶん、出現しやすくて、魔法発動者の視界の邪魔にならないところとかじゃない?」


「どういうこと?」


「壁の中に魔法陣が出ても機能しないだろうし、目の前に出たら想像の邪魔になるからね」


「それもそうね……」


「あとは干渉するものの近くに出る印象かな」


「ふ~ん」


 メルティアからの回答に鼻を鳴らして、ティアラはもう一度飾りを見やる。

 そしてふと、疑問が浮かんだ。


「この飾り、冬祭りのあとはどうするの?」


「大気中のソースに還元するよ」


「あぁそっか」


『ねぇティアラ!』


「わぁびっくりした!」


 突然ティアに名前を呼ばれ、ティアラは驚いて肩を跳ねさせる。

 そんなティアラを、メルティアがびっくりしたような面持ちで見やった。


「ど、どうしたの?」


「な、何でもないわ」


『ごめん……。その、生成魔法って生物作れるのか気になって』


 ティアラがずっとメルティアに質問ばかりしていたからか、ティアも気になることができたらしい。


「……メルティアさん、生成魔法で生物って作れるわよね?」


「うん、とんでもなく難しいけどね。たしか昔、メルメルティティスが作ったって言われてるよ。けど、ほぼ完ぺきに作っても動かなかったみたい」


『そうなんだ……』


「……けどたぶん、それは魂がないから。あればきっと…………」


「ティアラちゃん?」


「ひゃい!」


「えっなに今のかわいい」


「ぅ、ゔぅ゙……」


「な、何もしないよ……」


 何かされるかもと警戒モードに入って唸るティアラに、メルティアがちょっと残念そうな顔をする。

 だがそれでも行動に移さないのを見て、ティアラは自分で、自分のメルティアへの印象が少しずつ変わり始めているのを感じ取った。

明日は20時に投稿します。

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