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第一章57 『また立ち上がって』


「ティアラちゃんかわいい」


「んん…………」


 ティアラは今、メルティアに捕まっていた。

 正確には、椅子に座るメルティアの膝の上に座らされ、可愛がられていた。


「早く来なければよかったわ……」


 仕事の開始時間の二十分も早く来てしまったことに、ティアラは心底後悔していた。

 こんなことになるくらいなら、ミファーたちと一緒に行けなくともギリギリに来れば。


 それだとミファーが悲しむわね……


 涙目になるミファーの姿が頭に浮かんで、ティアラは何とも言えない気分になる。


「ティアラちゃんこっち向いて」


「ん?」


 言われたままに後ろを振り向くと、抱っこされて体の向きを変えられる。


「かわいい」


 と、そう言って顔を近づけてくる。

 近づいて、近づいて、近づいて――、


「ちょっと待って近ッ」


 避けようとする暇もなかった。

 メルティアの唇がティアラの唇を奪い、それから舌が入ってきて――、


「――――ッッ!!」


「わぁ!」


 ティアラは咄嗟に、メルティアを突き飛ばした。

 今は集合時間の二十分前だが、それでも何人か人が集まってきている。そんなところでこんなことをされた。

 ティアラは恐る恐る周りを見て、他の雇用者と目が合った。

 プルプルと、握りしめた拳が震え、目尻に涙が集まった。


「メ、メルティアさんのバカ!!」


 ――言い放つ。

 ティアラは咄嗟に教室を飛び出した。

 メルティアの反応を窺う余裕すらなかった。

 それが怒りなのか羞恥だったのか、恐らく両方だろう。やるせない気持ちが募りに募った。

 ティアラは漫然と廊下を走って、気が付くと学園の入口の傍でうずくまっていた。


「…………」


 ティアラだって、メルティアが悪い人でないことなどわかっている。

 治療魔法の時だってそうだ、ティアラに罪の重みを理解させたうえで、おおごとにしない選択をしてくれた。ティアラを慰めてくれたのだ。

 ――――でも今回はひどすぎる。


「――――」


 この気持ちを、どう処理していいのかわからなかった。

 ただ、なかったことなどできないし、それだと同じことの繰り返しだ。


『ティアラ……』


「……なによ」


『前見て』


 言われた通りに顔を上げる。


「あっ……」


 視線を落とし、両手の人差し指をつつき合わせながらもじもじするメルティアが、そこにはいた。

 ティアラが思わず声を出せば、メルティアもそれに気づいてこっちを見る。


「――――」


「――――」


 目が合う。

 けどお互いに何も言えず、一秒、二秒、三秒、四秒、五秒と沈黙が続いて――、


「ティアラちゃん、ごめんね……」


「んっ……」


 ティアラは何か言わないとと思って口を開くも、閉じてしまう。同時に視線も下に下がった。

 怒っているというより傷ついていて、赦すとか赦さないとか、そんな簡単なことじゃなかった。

 自分でもこの感情をどう処理すればいいかわからなくて――、


「――――」


 ティアラはもう一度、メルティアの顔を窺う。

 その表情は、申し訳なさに満ちていた。きっとメルティアも、悪気があったわけじゃないのかもしれない。けどだからやっていいわけじゃない。

 それでも、ティアラの傷ついたのは事実だから、


「次やったら、赦さないから……」


 言葉にして、ティアラはちょっと胸が軽くなる。

 自分の中にあったわだかまりが、スッとほどけた。


「――! ぅ、うん!」


 安心したような表情を浮かべ、メルティアは頷いた。

 それからティアラの前にしゃがんで、


「ティアラちゃん、今日、その……」


「なによ……」


「ティアラちゃんが最年少の雇用者だから、特別雇用者の私と一緒に仕事する予定だったんだけど……いい、かな?」


 拒絶を恐れているような面持ちで、メルティアはティアラを見つめた。


「特別、雇用者……?」


 と、そこでティアラは、イラディスが特別雇用者のことを何か隠していたのを思い出す。

 会ってのお楽しみと言っていたのは、特別雇用者がメルティアだったからだったのだと、ティアラは腑に落ちる。

 まぁ、こんなことにはなってしまったが、


「ま、まぁ、いいわ。一緒に仕事してあげるわよ……」


 ちょっと頬を赤くして、ティアラは言う。

 だけど、なかったことにはしたくないし、するべきじゃないと思うから、


「でも、次やったらただじゃおかないわよ!」


「ぅ、うん!」


 ティアラの言葉に嬉しそうな笑みを浮かべて、メルティアは頷く。


「ティアラちゃん、はい」


「――! えぇ」


 差し出された手を取って、ティアラはまた、立ち上がった。

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