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第一章45 『振ってきた疑問』


 十一月一日。

 今、最後の授業が終わった。


「あっそうだった!」


 と、教室から出ようとする先生の足が止まる。

 その声を聞いて、生徒の視線が先生へと向かった。


「冬祭りの開催が決まったから、小企画や屋台の提案をしたい人と、雇用希望の人は先生のとこまで来てね」


「ん?」


 なによそれ


 ティアラは先生の言っていることが理解できず、思わず小首をかしげた。

 疑問は疑問として残ったまま、ティアラは荷物を整理し、下校の準備を進めた。やがて、下校が始まる。

 その途中も、ティアラのあたまには小企画や雇用などと言ったワードが過る。屋台はまだわかるが、その二つがわからない。

 いやそもそも、冬祭りの開催自体誰が仕切っているのかすら、ティアラは知らない。


「ねぇ二人、先生が小企画? とか雇用希望? とか言ってたけど、あれってなに?」


「あぁそっかぁ! ティアラって夏祭り出てないもんね!」


「えっとね……」


「待って! ミファーが説明する!」


 と、口を開いたリーファの言葉をミファーが途中で遮った。


「まずさぁ、ティアラって冬祭りとかの大企画の成り立ちって知ってるぅ?」


「知らないわ」


「ふふん! じゃあミファーが教えてあげる! えっとねぇ、冬祭りとかの大企画の開催は、企画とか形式とかを考えた人がそれぞれ個人的に募金活動を行うの!」


「募金活動?」


「ようは、企画の開催のための資金集め」


「あぁそういうことね」


 横からリーファの補足があった。ありがたい。


「集まった支援金が金剛貨三枚以上に達すると、学園からも開催資金援助が発生して、大企画として成立するの! 学園からの資金援助の金額は最終的な募金額を基に決められるらしいよ!」


「ちょっと待って! 金剛貨三枚以上!?」


『金剛貨って、ティアラが国王にもらったやつだよね?』


「んっ……!」


 ミファーとリーファを一瞥し、ティアラは口元に手を当てて小さい声で、


「そうよ……」


『ってことは三千万!?』


「ティアラぁ?」


「ひゃい!? な、なんでもないわ! そ、それより金剛貨三枚以上ってなによ!」


「私も聞いた時は驚いたけど、D学園の生徒人数が二万数千人くらいらしいから、あまり非現実的ってわけじゃない」


「あっそっか、それもそうね。なら大企画として成立しなかったらどうなるの?」


「小企画とかに規模を落として開催するか、次の機会まで募金活動を続けるかのどっちかになるらしいよぉ! 他にも、もともと小企画として企画する場合もあるよ! その場合は目標金額を企画者が自分で決めて、その額に達すると実行するみたい! あとは小企画だったのに募金額が集まり過ぎて、大企画になっちゃう場合もあるんだって!」


「……なんでミファーなのにこんなに知ってるの?」


 と、言いながらリーファを見やる。

 後ろからミファーの『今ミファーのこと悪くゆったぁ!?』と声が聞こえたが、それはまぁいいとしよう。


「夏祭りの時、興味を持ったミファーが先生が困るくらい問い詰めてた。私もその横にいたから、なんか覚えちゃって……」


 あぁなるほど、とティアラはジト目になりながら納得する。


「ミファーね……」


「うん、ミファー」


「ミファーそんなミファーじゃないよ!」


 頷き合うリーファとティアラにミファーからそんな言葉が飛んでくる。

 だがミファーという言葉を使っていることに気付かずに使っている時点で、やはりミファーはミファーなのだ。


「それでそれで! 冬に大企画として成立すれば冬祭りと言われて、夏に大企画として成立すれば夏祭りと言われるんだって! 入学祭とか卒業祭とかは、時期と目的が合っていればそお呼ばれるらしいよ!」


「つまり、時期が合っていても入学生徒とか卒業生徒のためじゃないなら入学祭とか卒業祭とは呼ばれないってこと」


「なるほど……」


 リーファの補足がなかったら絶対理解できなかったなと、ティアラはしみじみとする。

 それからやっぱり、募金額が高すぎることにもう一度引っかかった。一度は納得したものの、やはり高すぎる。


「……募金額が金剛貨三枚以上ってやっぱり高くないかしら? 生徒が二万人だとしても、一人銅貨十五枚になるわよ? 募金した生徒への見返りとかないのかしら? ないならそんなにたまらないと思うわよ?」


「うんとね、それにはちゃんと理由があるよぉ! 企画を気に入った生徒とか、すでに募金金額が多くて期待値が高い場合は、高額募金も出るんだって! つまりどんどん募金額は高くなるの! 特に開催資金援助が発生する金額付近からはすごいみたい! そしてティアラの言う通り、見返りの効果はすごいらくして、そおいうのを決めてから募金活動をする人が多いんだって!」


「今回は募金額に応じて、企画参加費とか買い物の金額を割り引くらしいよ。だから高額募金が増えた」


「リーファホントにありがと」


「ミファーはぁ!?」


 と、声を荒げるミファーの様子にクスクスと笑い、それからティアラは『ミファーもありがと』と伝える。


「やったぁ! じゃあさティアラティアラ、次は小企画と屋台の話するね! えっとねぇ! やりたい小企画や屋台は生徒たちから企画者側に提案できるの!」


「あぁ! さっき先生が言ってたのはそれなのね!」


 ようやく、ティアラの根本の疑問に話題が触れ始めた。

 ティアラはより一層耳を立てて、ミファーの言葉に耳を傾ける。


「採用するかは企画者側が決定権を持ってるんだけど、もとから小企画として募金活動をしてて、募金がある程度たまってると交渉の余地が出るみたい!」


「例えば、必要な材料は募金で負担するから雇用してほしいとか、そんな感じ」


「なるほど」


「小企画だけど規模が大きいやつは、大規模小企画と呼ばれてるよぉ! 提案した人はその提案が通ると企画者側に雇用されて、それぞれ屋台主、小企画主になる! つまり、小企画とか屋台の準備を進める進行役みたいなのになるってことぉ! 他の雇用者をまとめたりもする!」


「ミファーの言う他の雇用者っていうのは、小企画主と屋台主の下で働く雇用者のこと」


「わかってきたわ」


「そしてもちろん雇用者には給料があるのぉ! 大変な雇用ほど高いんだってぇ! あぁあと警備だけは魔法騎士団の人員を雇用しないとダメみたい」


 魔法騎士団と聞いてティアラのあたまにはアミリスとアドバンの顔が浮かんだ。だがまぁ、あの二人は忙しいし、雇用額がおかしくなりそうだから、雇用されることはないだろう。

 一瞬、雇用されたら会えるかも、なんて思ったのは内緒だ。


「あと魔法陣は国王様しか書けないんだって! だから依頼するってなると高いらしいよぉ! 入学祭のクルクル回る映像の板みたいなのは魔法陣が多いらしくて、金剛貨一枚だって!」


「金剛貨一枚!? 魔法陣が貴重なのはわかってたけどそんなにかかるのね。ってことはあたしの屋敷どれだけお金かかって……」


「あれぇ? 国王様しか書けないこと驚かないの?」


「それは知ってたわ。見てたもの」


「ううぇ!? 見てたぁ!?」


「ぇ、えぇ、あたしの屋敷でメイザスさんが書いてるのを小さい頃見たわ」


「ううぇ!?」


「ううぇううぇうるさい」


「ごめんなさい……」


 と、まるでコントのようなくらい綺麗に指摘と謝罪が流れた。

 ミファーはしょんぼりしているが、まぁ驚くのも無理はなかったかもしれない。

 なにせ今ティアラは国王のことをさん付けにしたし、屋敷に魔法陣があることを示唆するような言い方をしたのだ。

 普通に考えたら驚かない方がおかしい。


「あっ! あともう一個あった! えっとね、売り上げは総資金の学園が援助した割合分学園に返還しないとなんだって! あとの残りは企画者がもらう!」


「なるほどね。そう言えば、今回の募金額はどのくらいだったの?」


「今回はすごいよティアラ! 金剛貨五枚だって!」


「…………えぇ!!?」


「開催資金援助も金貨千六百二十五枚だって、先生曰く」


「――――」


『えっと金貨百枚が金剛貨一枚だから、金剛貨十六枚と金貨二十五枚? それに募金額を合わせると金剛貨二十一枚と金貨二十五枚だから…………二億千二百五十万!? 高ぁ!? けど入学祭みたいな規模だとたしかにそうなるのか……』


 そんなティアの声を聞きつつ、ティアラは開いた口が塞がらずにいた。


「というか、話してたらいつの間にか帰ってきてるわね」


「ほんとおだぁ!!」


 と、いつの間にか自分たちの部屋のドアが正面に見えてきていることに、ミファーが驚く。驚きすぎだ。

 何はともあれ、ティアラの疑問は二人のおかげで晴らすことはできた。

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