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第一章44 『赦してもらえたなら』


『なんで? ティアラのこと、ずっと心配したのに!! どうしてあんなやつと関わるの!! 私があいつに何されたかわかってる!!?』


 声が、耳に残っていた。

 昨日のティアラとリーファの喧嘩。フィエリアの部屋の前であったから、当然全部聞こえていた。


『――――っ!! あんなクソ野郎に、なんで関わるの!!!』


「――――ッッ!」


「フィエリア、来たわよ」


「あっ、ティアラ……」


 部屋のドアが開いて、ティアラが入ってくる。

 ベッドに座るフィエリアの隣にティアラは腰を下ろし、顔を覗き込んでくる。


「なんか、元気ない?」


「昨日、喧嘩してた……」


「あっ! そっか、聞こえてたのね……まぁ、それもそうよね」


 言いながら、ティアラがドアの向こう側を見やる。


『わかるよ!! あいつが最低でクズで死んだ方がいい人間なことくらい私が一番わかってる!!!』


「私、だって……」


「フィエリア?」


 涙が、溢れてくる。

 自分が間違っているなんてこと、初めからわかっていたのだ。


 ――――間違っているとわかっていても、それを受け止めることが、できなかった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 初めて、ティアラの名前を聞いた時、フィエリアは何も思っていなかった。

 だが何となく、あれほど有名な魔法騎士団団長二人の娘なのに、どことなく自信がないように見えて不思議に思っていただけ。


 ある日、ティアラがさまざまな魔法を習得し、先生に褒められ、いろんな人がティアラのもとへ集まった。

 その時だ、フィエリアがティアラを嫌悪するようになったのは。


 劣等感、だったのだろう。

 ティアラが不相応にいろいろなものを手にしていくのをみて、何とも言えないわだかまりが募った。

 フィエリアもフィエリアなりに頑張っているつもりだった。それなのに、先に報われたのはティアラだった。

 それがなんだか許せなくて――――、


「ティアラあいつうざくない?」


 同室の友達二人にそう言った。

 それはやるせない気持ちをどうにか消化しようとした結果だった。

 だけどその時――、


「今なんて言った!!」


「ぇ……」


 その声に思わず振り返ると、教室のドアを開けて、リーファが立っていた。


 そう言えばこの人、この前もティアラのこと悪く言った人を怒ってたっけ……


「別に何も? 思ったことを言っただけ」


「撤回して!!」


 一喝するリーファの様子に、一緒にいた友達二人が『あ、謝った方がいいよ』などというのが聞こえた。

 だけどフィエリアは、それを無視した。


「撤回して!! ぁ……」


 ちょっと、脅かすくらいの気持ちだった。

 そんな気持ちで、フィエリアはリーファを睨んだ。


「ちょっと、何やってるの!!」


「ぇ、いや、ちょっと脅かしてやろうと思って」


「信じられない! リーファさん大丈夫?」


「ぇ……」


 二人がリーファに駆け寄っていく。

 なんで。なんでだ。ただちょっと脅かしただけ。それなのになんで自分が悪いみたいに言われなくちゃいけない。

 どうして――――、


 気が付けばフィエリアの周りには、誰もいなくなっていた。

 なんで。なんでこうなった。自分はこんなつもりじゃなかったのに。なんで。なんで。なんでなんでなんでなんで――――、


 ――――リーファのせいだ。


 自分が間違っていることなど、わかっていた。わかっていて、わかっていないふりをした。

 募る劣等感と、友人を失った憎悪をリーファへ向けた。

 そうしないと、壊れてしまいそうだった。寮でも一人、学園でも一人、食事も一人、この状況を自分が作り出したなんて、思えるはずがなかった。


「リーファ」


「……なに?」


 寮の裏へと連れ出した。


「それで、何の用?」


「黙って!」


「――――ッ!!」


 ソースを使い、恐怖でリーファの心を縛った。

 自分は悪くないから、こうなったのは全てリーファのせいだから、だからこうするのは正しい。

 そう思い込んでいくうちに、いじめはエスカレートしていった。


 ――――そうして最終的に残ったのは、学園中から忌み嫌われる自分だった。


 先生すらも、困ったような顔でフィエリアを見た。

 廊下を歩けば、誰もがフィエリアを避けるように歩いていく。


 ずっと避けていたのに、自分が悪いと認めざるを得なくなった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「私が悪いなんてこと、もうわかってる!! わかってた!!」


 わかっていたのに、見ないふりをしてしまった。

 もしあの時、謝っていれば、こんなことにはならなかったはずなのに。


「けど私だって、辛かったのに! 苦しかったのに!!」


「うん、わかってる」


 ティアラが横から抱きしめてくれて、もう感情は抑えられなかった。

 大粒の涙が頬を伝った。


「なんでみんな、あんな目で見るの! 私だって苦しんでたのに! それなのになんで!! なんでぇ!!」


「そうね」


「でも私、最低だ。私が悪いのに、リーファのせいにした。いじめた。傷つけた! こんなことになったのも、全部、私が悪い!」


 もう、認めるしかないのだ。

 これまでそれを避けていたから、こんなことになってしまったから。それが痛みを伴うとしても、もう、避けられない。


「私、生きてる意味あるのかな。勝手に苦しんで、勝手に怒って、いじめて、また勝手に苦しんで! 全部自分のせいじゃん!!」


「――――」


「やっぱり、生きてる意味なんかない。私は死んだ方がいいんだ。私がいなければ、リーファもせいせいすると思うし、いっそもう……んっ!?」


 両肩を掴まれ、ベッドに押し倒される。


「そんなことしたら、あたし怒るわよ!」


 いつもだ。

 学園中の人がフィエリアを嫌っているのに、ティアラだけは、ずっと見てくれている。それが嬉しくて――――、


「じゃあ、どうすればいいの……?」


「リーファに、謝りなさい!!」


「ぇ、謝る……?」


「えぇそうよ! 悪いと思ってるなら、その気持ちをちゃんと伝えなさい!」


「け、けど、赦してもらえないよ。あんなことしたんだから……」


「赦してもらうために、あなたは謝るの?」


「……それ、は、違う! ごめんって、思ってるから……」


「ならそれを伝えなさい! 想いは、言葉にしなきゃ伝わんないのよ!」


 ティアラの声が、強く響いた。

 けど、怖い。リーファに会うことは、自分の間違いを直視することでもあるから。だから――、


「あんたは、このままの自分でいていいの?」


「ぁ…………」


 そんなわけが、なかった。

 でもそうだ、謝ることから逃げたら、また同じことを繰り返すかもしれない。せっかく自分の間違いを見れたのに、このままじゃ、何も変わらない。

 怖い。怖いけど、それでも――――、


「……わ、かった、伝える。赦して、もらえなくても、償う…………」


 声は、震えていた。

 大粒の涙が、頬を濡らして落ちていく。

 もう、このままの自分ではいられない。後悔があるから、悪いと思っているから、変わらなくてはいけない。


 ――――もう、こんな自分ではいたくない。


「ティアラ、リーファ、さん、呼んできてほしい」


 その敬称は、フィエリアの反省の証でもある。

 もう、繰り返さない。今度こそ謝るのだ、ごめんなさいと。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「――――呼んできたわよ」


「んっ……」


 ベッドに座ってリーファを待っていたフィエリアは、ティアラの声が耳に響いて、肩をピクリと震わせる。

 ゆっくりと立ち上がり、声の方向へ振り返った。


「――――ッ」


 ギロリと、金色の瞳がフィエリアを睨んだ。

 その手は右腕を掴み、手足はぶるぶると震えている。


 ――――これを、フィエリアが作り出した。

 自分のミスをリーファのせいにして、暴力を振るった。


 涙が、溢れてくる。

 自分だって苦しかったのにという理不尽に対する涙でもあり、それを言い訳にはできないという現実への涙でもあった。


 意を決して、敵意に満ちた瞳を見やった。


「リーファ、さん……ごめん、なさい、ごめんなさい。私が悪いのに、それなのにあなたのせいにして、傷つけて、ごめんなさい……!」


 涙は、もう止めようがなかった。

 その必死さにリーファが目を見開いたが、フィエリアにはそれに気づく余裕はなかった。


「赦せるわけ、ないでしょ……!」


「――――ッ!」


 わかってはいた。わかってはいたが、それでも痛い。

 けどその痛みより強い痛みを、フィエリアがリーファに与えたからだ。


「わ、わかっ、た……けど、その……」


 大粒の涙が、とめどなくフィエリアの頬を伝った。

 震えてどうしようもない音をどうにか声にして、


「……償っても、いぃい?」


 ポロポロと、涙が床に落ちていくのが見えた。

 リーファが驚いた顔のまま止まって、そして――――、


「か、勝手にすれば……じゃあ私、行くから…………」


 そう言ってリーファが背中を向けて去っていく。


「ぁ、あぁぁ……」


 その言葉がとてもやさしくて、もう立っていられなくて、フィエリアは床に膝をついた。そのまま倒れるところを、ティアラが受け止めてくれる。


 私は、本当に酷いことをした。

 自分のミスを相手のせいにして、自分は悪くないと言い続けた。傷つけた。あまつさえ、あの右腕に傷跡を残してしまった。

 だから、償おう。償って、償って償って償って、償い続けよう、仮に赦されないのだとしても。


 それでもし、いつか赦してもらえたなら、その時は、


「友達に――――」


 自分でも聞こえないほど小さい声で、フィエリアは呟いた。

お久しぶりです! RIkuです。

二個目の山場も書くことができてなんだか感慨深いですね。

いつもはキャラの背景が明かされる話のタイトルはそのキャラの名前にしているのですが、あれ? 今回は違いますね?

実はこれにも理由があるので、お楽しみに。


この作品を面白いと思ってくれた方は、ブックマークや星をしてくれると励みになります!

え? もうしてくれてる? ありがとう!!

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