第一章43 『伝えたい想い』
ミファーにお願いし、リーファを呼びに行ってもらった。
一人になった部屋で、ティアラは自分のベッドに腰を下ろす。
「緊張するわね……」
心臓の鼓動がいつもより早い。
ティアラはそれを深呼吸で落ち着かせると、リーファに伝える内容を考え始める。
「……理解、してもらえるかしら…………」
正直、不安だった。
リーファに理解する義務がない以上、一蹴されたらおしまいなのだ。
「いや、そんなの考えても仕方ないわね……」
「呼んできたよぉ!」
「んっ」
と、喉を鳴らしながら振り返って、ティアラはリーファと顔を見合わせる。
ティアラは咄嗟にリーファの前まで駆け寄って、そして――――、
「リーファごめん……」
「――――」
「あたし、リーファの気持ち理解した気になってた。リーファがフィエリアのこと嫌いなのも、怖いのも赦せないのも伝わった。そのうえで、聞いてほしいわ」
ゆっくりと顔を上げて、リーファの金色の瞳を真剣に見つめた。
「いいかしら?」
「うん……」
目尻が、赤くなっている。
それはティアラの未熟さが作ったものでもある。けど自分を責めても意味はない。だから今の自分にできる精一杯を伝えよう。
「あたし、リーファにフィエリアを救うって言ったわよね」
「えぇ」
「言葉が足りなかったわ。あたしは別にフィエリアのしたことを赦す気はないわ」
「――! 本当?」
「えぇ、本当よ。当事者のリーファが赦せていないのに、あたしが赦せるわけないじゃない」
「なら救うってなに?」
「……あたし、フィエリアが追い詰められてるように見えたのよ」
「――――」
「リーファにひどいことした相手にこんなこと思うなんて、リーファからしたら嫌だと思うけど、これは、本当のことだから」
「……わかった」
「――――ッ!」
リーファが頷いたのを見て、ティアラは理解してもらえた嬉しさから涙腺が緩む。が、どうにかあたまをぶんぶんと横に振って立て直す。
「フィエリアを救うって、なにするつもりなの?」
「それは……」
具体的に、こうするという考えはティアラにはなかった。
ただ、学園中から忌み嫌われ、希死念慮が出るまでに追い詰められるフィエリアを、救ってあげたいと思っていたから。
だが、仮にそれを叶えるとするなら、
「償わせる、なんて……そんな資格、あたしにあるとは思わないわ。だけど――――」
はっきりと、リーファの瞳を見つめて言い放つ。
「フィエリアがその気になった時、あたしはその背中を押してあげたい」
その言葉に、リーファが目を細めた。
「私、赦す気ないよ」
「うん、そうだと思う。そうじゃないわけがないとも思う。ただもしいいなら、その時はフィエリアの気持ちを受け取ってほしい。……そ、その代わり、あたしがリーファのお願いをなんでも一つ聞くわ!」
一方的なお願いになっていると気付いて、ティアラは慌ててリーファのメリットを提示する。
ちょっと不安が表情に宿るも、ティアラは上目遣いのようになりながらリーファの返答を待った。
「その時、ティアラもいるの?」
「そうした方がいいならついていくわ」
「――――」
リーファは自分の右腕をもう片方の手で握りながら、沈黙する。
相当、無茶なお願いなのはわかっている。だからこそ、ティアラはリーファから何をお願いされても極力頷く心持ちだ。そうじゃないと釣り合いが取れない。
「…………わかった」
「ホント!?」
「うん……。それと、その……」
「ん?」
「私のこと、嫌い?」
不安そうな顔で、リーファが言った。
そう言えば、大嫌いと言い合っている。だが、そんなはずがない。少なくともティアラは、リーファのことが、
「ううん、す、好きよ、大好きよ!」
頬をほんのりと赤くしながら、ティアラは言った。
その言葉にリーファもまた頬を赤く染めて、
「わ、私も……」
「やったぁ!!!」
「わぁ!!?」
後ろからミファーが抱き着いてきて、押されたティアラは勢いのまま、ミファーと一緒にリーファを押し倒してしまう。
「な、なにするのよミファー!」
「ぉ、重い……」
「だって嬉しいじゃん!! そおだ! 仲直り記念にケーキ買って来よぉ!」
「な、何言ってるのよ! もうすぐ夕食よ!?」
「まぁ、いいんじゃない?」
「リーファ!?」
「ほら、早く行こう!!」
そう言って立ち上がり、一早くドアを開けるミファー。
そんなミファーを見つめていると、ティアラより先に立ち上がったリーファが、手を差し伸べてくる。
「ほら、行くよ」
「――! えぇ!」
時には今回みたいに、気持ちがすれ違うことがある。
だけど相手には自分の気持ちを理解する義務なんかないし、逆に理解してあげる義務もない。だけどそれを理由に理解を避けたら、きっとお互いに辛くなってしまう。
だからその義務の有無を理解しつつ、相手に理解を求めるのではなく、理解してもらえる努力をすることが大事なんだと、あたしは思う。




