第一章41 『衝突』
「なんで、なんでティアラが、その部屋から出てくるの?」
「ぁ……」
どうする。なんて言う。なんて言えばいい。
そんな思考がティアラのあたまを支配した。だが、そんな都合よく体のいい言い訳が思いつくはずもなく、それよりも先にリーファが静寂を破った。
「ティアラも……ティアラもあいつの仲間だったの?」
「違、うわ……」
「ティアラが、ティアラが最近どこかに行くことが多いから、いじめられてるんじゃって思ってたのに……。最初から、最初からフィエリアと組んで私をいじめてたの? 私に心配させたのも、いじめの一つ?」
「違うわ! あたしはそんなつもりじゃない!! ……そんなつもりで、フィエリアと関わってなんかないわ」
「ならなんで!」
「それ、は……」
言葉に詰まる。
フィエリアを救うためだなんて、そんなことリーファに言えない。言えるわけがない。言いたいはずがない。
「なんで? ティアラのこと、ずっと心配したのに!! どうしてあんなやつと関わるの!! 私があいつに何されたかわかってる!!?」
「わかってるわよ! けど、だからって、そんな……」
「――――っ!! あんなクソ野郎に、なんで関わるの!!!」
「クソ、野郎……?」
カチンとあたまにきてしまった。
「リーファの気持ちはわかるけど、そんな言い方やめて――っ!!!」
「ふざけないで!! やっぱりティアラはフィエリアの味方なんだ!!」
「違って言ってるでしょ!!」
「じゃあなんで!!」
リーファは泣きそうな声に声色を変え、
「……私のこと、どうでもよくなったの? 最初からじゃないって言うなら、途中から、私のこと、嫌いになったの?」
「違うわ、そうじゃない……」
「――っ! そうやってずっと言い訳ばっかりじゃん!!」
「あ、あたしは……フィエリアを…………」
「名前を呼ぶくらい、仲がいいんでしょ? じゃあそう言えばいいじゃん!! 私のことはどうでもいいってさぁ!!」
「そんなこと言ってないじゃない!! さっきから勘違いばっかりして!! あたしはリーファの気持ちだってわかってるわ!! 嫌だって思うのも当然よ!! だからあたしの気持ちも理解してよ!!」
「ならはっきり言ってよ!! あんなクソ野郎と関わってるのはなんで!!」
「だから、その言い方をやめなさい!!」
「なんで!!? ティアラはあいつを擁護するの!!? あいつが私に何したか本当にわかってる!!?」
「――っ! ……ならはっきり言うわ」
睨むようにリーファの金色の瞳を捉えて、言い放つ。
「あたしはフィエリアを救うために関わってる」
「――――は?」
まるでそれは、本当に理解できないと、そう言わんばかりの声音だった。
リーファは一、二、三秒と絶句し、ゆっくりと口を開いて、
「……何それ、意味わかんない。あんなやつを救う? ティアラ頭おかしいよ」
「――っ!! うるっさいわねえぇ!! あんたにフィエリアの何がわかるって言うのよ!!!」
「わかるよ!! あいつが最低でクズで死んだ方がいい人間なことくらい私が一番わかってる!!!」
「ふざけるんじゃないわよ!! 死んだ方がいいは言い過ぎよ!! 取り消しなさい!!」
「取り消さない!!」
「――っ、たしかに、フィエリアがリーファにしたことは赦せないし赦されないわ。……けどね、人は変わるのよ!!!」
それは、ティアラにも言えたことだった。
あの自己嫌悪に満ちた暗闇から、ティアが連れ出してくれたから、ティアラは変わることができたのだ。
「変わる? あんなやつが? ありえない! あいつはずっとクズのまま!! 変わるはずない!! 私の腕に傷跡を残したやつが、変われるってティアラは本気で思ってるの!!?」
「ぁ、それは……」
いつぞや、リーファの腕に出来ていた目に付くような傷跡。
あれがフィエリアによるものだというのは、聞くまでもなく察しがついていた。きっとティアラがいつか治療魔法で治した傷も、フィエリアにやられたのだろう。
どうする。どうすればいい。どうしたら理解してくれる。いやそもそも、自分の考えは正しいのか。わからない。でもたしかに、リーファの気持ちも間違ってなんかなくて――、
「ティアラあたまおかしいよ。気持ち悪い。最低」
「ど、どおしたの二人ともぉ!」
「――――大っ嫌い」
「ぁ……」
息を切らして駆けつけてきたミファーが、リーファの放った言葉に喉を鳴らす。
だが、そんなミファーを気にするほど、ティアラには余裕がなかった。
なんで理解してくれない。どうしてこんなに言われなくてはいけない。リーファだって、ティアラの考えを聞こうとしていないくせに。
「――っ!! あたしだって、あんたなんか大っ嫌いよ!!!!」
「――――」
ミファーの目を涙が潤す。
「うるさい!! この裏切り」
「待って!!!!!」
「――――ッッ!!!」
ミファーの全力の叫び声が、寮の廊下に木霊する。
ティアラに何か言おうとしていたリーファの口もさすがに止まる。
「こっち来て! ティアラはそこで待ってて!!」
その声は、その顔は、泣きそうなのに必死で、ティアラとリーファに逆らおうという意志を持たせない何かがあった。
ミファーがリーファの手を掴んで自室に入っていく。その姿を、ティアラはただ眺めることしかできなかった。




