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第一章33 『戦闘技術』


「よし始めよっか。……あっ、ティアラ加護は」


 と、そこでアミリスは言葉を濁す。

 そこでティアラはアミリスが加護の進展を知らないのだと理解する。てっきり先生から聞いていると思っていた。


「リーファのおかげで制御できるようになったわ。まだゼロか百かの調整しかできないけど……」


「あっ、そっか……」


 驚き、次いでアミリスは安堵と嬉しみの混じったような顔で微笑む。


「それとどうやらあたしの加護、あたしを中心にした範囲の内側にいる人の加護を封じるみたい」


「それならティアラは加護は補助になるね。けどこのままだと共闘の時に加護が使い物にならないから、そこは頑張った方がいいかも」


「わかったわ」


「リーファちゃんは加護が強力だから、補助と言うよりは剣術や魔法との連携が課題になってくるかな。それと……」


 と言って、アミリスがリーファに近づき顔を覗き込む。


「な、なんですか……?」


 いつも冷静なリーファがちょっとばかし表情に不安を宿す。


「リーファちゃんの加護は、簡単に人を殺せる」


「――――っ!」


「強いってことは、その分悪用方法が多いってこと。……絶対に、悪用しちゃダメだからね?」


「は、はい……」


 アミリスの圧にリーファが動揺しながら返事を返す。するとアミリスは真剣だった表情を和らげた。


「じゃあ二人とも、木剣持って」


「お母様、あたし剣術が苦手なのよ。魔法と加護だけじゃダメかしら?」


「う~ん、それだと不利になると思うなぁ」


「不利?」


 よくわからないと、ティアラは小首を傾げる。


「魔法を発動している間に剣術で詰められたらどうしようもないからね。場合によっては魔法を発動する間に切られちゃう」


「そもそも魔法って戦闘でどう使うんですか?」


「えっとね、私がよく使うのは生成魔法と移動魔法かな。例えばこんな感じに」


 言いながらアミリスは自分の正面に複数の礫を生成し、それを正面に発射する。と、すごいスピードで飛んでいった。


「他にも変形魔法で地面や壁を伸ばして盾にするのも有効かな」


「移動魔法で上空に移動させて落とすのはどうですか?」


「すっごい物騒なこと考えるねリーファちゃん」


 まったく表情を変えずに言うリーファに対し、驚いた顔のアミリスが言う。


「相手が一人だけなら有効かもね」


「そっか、視界の外にいる敵に攻撃されたら対応できない……」


 魔法は普通、視界の中のものにしか干渉できない。その理由は視界の情報がないと、大魔法陣が魔法陣を展開する場所を特定できないからだ。

 ティアラはその場所の情報をすべて想像で補えるから、視界の外のものにも魔法が使えるが、普通はできない。

 だからリーファの言った方法だと、視界の外にも敵がいた場合その敵に対応するすべがないのだ。


「それにこっちが移動魔法を使えるってことは相手も使えるからね。使った時に逆に使われる恐れもある。それなら高速でちょっと移動させて、あとはそのまま慣性で吹っ飛ばした方がいいかも。でもそれをすると相手を見失う可能性もあるから一長一短って感じだね」


「ならお母様、相手の剣を分解魔法で分解するのはどうかしら?」


「それは無理かなぁ」


「どうして?」


「本格的な武器は魔法が効かない物質の場合が多いからかな」


「そうなんだ……」


「そう、だから魔法より剣術の方が主流になるの。だからはい、剣持って」


 そう言ってアミリスが木剣を渡してくる。

 リーファとティアラは大人しくそれを受け取った。

 そこからは交互にアミリスと一対一で打ち合い、それをしながら魔法や加護を使う練習をした。

 リーファは、剣術のゲームの時はあんなに簡単にアドバンを止めていたのに、アミリスに詰められて攻撃されるばっかりで、それをしなかった。


「それともできないのかしら?」


 リーファとアミリスが打ち合う様子を前に、ティアラは呟く。

 リーファは一生懸命にアミリスの攻撃を防ぎながら、どうにか距離を取ろうとしているように見える。が、それを試みるたびにアミリスが距離を詰めている。


 一方で、ティアラはアミリスと打ち合ってすぐに、アミリスが不利だと言った理由を理屈ではなく感覚で思い知った。

 アミリスに剣を打ち込まれるのを剣で止めるのが限界だ。魔法で対応するのは論外と言えた。アミリスの動きが早いのもあるとは思う。だがそれでも魔法と剣術じゃ、対応速度の差が明確に出る。剣があるなら剣で対処するべきだ。

 それからティアラは剣を打ち合いながら魔法でも攻撃を試みたが、そのたびに若干動きが止まってしまう。これは今後の課題と言えた。


「あれ? 魔法が……」


 生成魔法を使うとするが、魔法陣が展開されるも消滅する。


「結構生成魔法使ったからね。大気中のソースがなくなっちゃったみたい」


「大気中のソース?」


「体内のソースは魔法陣を発動するのに必要になる。生成魔法は新たに何かを生み出しているでしょ? あれは大気中のソースを変換しているの」


「なるほど……」


「ティアラはかなり早く生成魔法を覚えたから、先生も教え忘れたのかな。これ持って」


「ぁ、うん」


 ティアラがアミリスとの打ち合いで生成した礫を拾い上げ、アミリスが渡してくる。


「生成魔法で生成した物は大気中のソースで作られてる。集中してそれを感じ取ってみて」


「わかったわ」


 そう言ってティアラは礫に集中する。

 すると何となくその大気中のソースらしき何かを感じ取る。感覚としては体内のソースに近い。


「これは……」


「それを覚えたら、大気中のソースも集中したら感じるはずだよ」


「ぅ……ん?」


「あぁそっか今はソースが少ないから……。じゃあみてて」


 そう言ってアミリスは拾い上げた礫を――――、


「えっ」


 蒸発するかのように消した。

 同時に空気中に大気中のソースが迸るのがわかった。


「生成魔法で作ったものは大気中のソースに還元できるの」


「へぇ……」


「それよりもティアラ、もしかしなくとも視界外にも魔法を使えるよね」


「えぇそうよ……。けど動いてるものだと無理よ」


「それは記憶と実際の状態が異なるからでしょ? ティアラが記憶した状態の場所やものを誰かが変えたらそれも無理になるんじゃない?」


「えぇその通りよ。……そう言えばお母様、あの……この授業が終わったら帰っちゃうの?」


「――――っ」


 その言い方にアミリスは一瞬言葉を詰まらせる。それからゆっくりと微笑みを浮かべた。


「うん、帰らなくちゃいけない。これでも、もともと加護の授業をするっていうのを言い訳に、ティアラの教室の授業を請け負ったの。けど大丈夫、何かあったら……いや、なくても、手紙を送ってくれたらお母さんも送るから、ね?」


「わかったわ」


 そうだったのかと少し驚き、それからティアラは笑みを浮かべた。

 あの頃のティアラなら何かあったとしてもアミリスに手紙を送ることなどなかったと思う。迷惑になると、そう考えていたから。

 だが今は、せっかくアミリスが――母親がこう言ってくれているのだから、その言葉に甘えようと、そう思えた。

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