第一章30 『特別授業』
「どうしてこんなことに……」
魔法の授業ということで、ティアラたちは訓練場へと足を運んでいた。
顔を上げれば、自分の両親と楽しそうに会話するクラスメイトが視界に映り込む。と、それを横から覗き込むようにしてミファーの顔が覆いつくす。
「お母さんたちに会えたのに嬉しくないの?」
「ぃ、いや、嬉しくないわけじゃないわよ……」
「じゃあなんで?」
「なんか複雑なのよ……」
やがて訓練場にやってくると、アミリスとアドバンが前に立ち、喋り始める。
「じゃあね、みんなそれぞれに課題があるみたいだから、その課題に挑戦してみて? わからないことがあったりしたら、私たちに聞いてね」
その言葉を合図として、授業が始まる。
基本はいつもと同じ、それなのに教師がアミリスとアドバンというだけで、あまりにもその場は楽しみに包まれていた。
初めはアドバンとアミリスの周りに人だかりができ、次第にそれは減っていく。たまにアミリスが全員に注目を促して、魔法を披露したりなどもした。
ティアラもアミリスやアドバンと会話したかったものの、クラスメイトたちが見ているのに二人に娘として接するのは正直やりづらい。
ゆえにティアラは、ミファーとリーファに魔法を教えながらそんな時間を過ごしていた。
「違うわリーファ、こうやるのよ」
「こうね。あっできた」
「なんでぇえ!?」
するとそんな時、ティアラの後ろからひょっこりと誰かが顔を出す。
「調子はどう? ティアラ先生」
「ひぅ!?」
慌てて振り返ると、そこにはアミリスの姿があった。
ティアラは自分でもわからぬ内に、ミファーを盾にして後ろに隠れてしまう。
「ティアラ?」
「わぁ! 魔法士団長だぁ! なんて呼べばいい?」
「え? う~ん、アミリス、先生、とか? そ、それよりティアラはなんで隠れてるの?」
「いや、だ、だって、学園に来るなんて思ってなかったから……」
言いながらさらに隠れるティアラを見て、アミリスが悲しそうな表情を見せれば、気を使ったリーファがアミリスをちょんちょんとつつく。
「ティアラさっきまで話したそうにチラチラ見てましたよ」
「ちょっとリーファ!?」
「ティ~アラ、言ってたでしょ? 魔法見せて?」
「ぇ、えぇ」
そう言って隠れるのをやめると、思いの外なし崩し的にティアラは緊張が解け始める。
「ならそうね……」
「な、なにぃ?」
どんな魔法を使うか悩みながらミファーを見て、ティアラはミファーの銅像でも作ろうかと考える。特に理由はない。何となくだ。
「よし……」
魔法を発動する。
すると、ティアラの前の床に一つの魔法陣が生成され、続いてティアラが想像を開始するとさらに数十個の魔法陣が展開される。
そして下からゆっくりと等身大サイズのミファーの銅像が作り上げられてゆく。ちょっとばかし細かいところまで想像し、繊細に――――、
「できたわ!」
「わぁ! これミファー!? ううぇ!?」
「どうお母様! これが今のあたしよ!」
「わぁ!」
「あっ」
振り返ると同時に、アミリスに抱き寄せられ、ティアラは目を丸くする。
後ろからミファーとリーファの驚くような声が聞こえれば、恥ずかしくなって離れようとする。
「ぉ、お母様、は、離しっ……! お母様?」
「う~ん、なんでもない……」
アミリスの嬉しそうでいて悲しそうなその表情に困惑する。が、すぐにアミリスは表情を戻し、ティアラを解放する。
「う~ん、すごい完成度だね! そうだなぁじゃあおかっ……私は」
そう言ってアミリスも魔法を発動する。
すると手のひらの上に魔法陣が展開され、しばらくすると手乗りサイズのティアラの銅像ができあがる。
「ううぇ!?」
「これ、どうやったの?」
あからさまに驚くミファーはおいておいて、ティアラは『はい』と言って渡された自分の銅像を手に取って観察しながら聞く。
手乗りサイズなのに細かいところまでしっかりと作られているのだ。どういう方法を使ったのか、ティアラは気になった。
「想像力を限界まで使って作るの」
「けどあたし、本気でやると魔法が発動しないのよ」
「それすごいことだと思うよ?」
「え?」
「それって、大魔法陣が再現できないほど想像力が高いってことなんだと思うの。だからもし、ティアラが大魔法陣の許容範囲内の想像力を自由自在に調整できるようになったら、すごいことになる。お母さんは大魔法陣の許容限界の想像力は出せないからね」
「お母さんって言ったぁ!」
「あぁ! しーっしーっ」
満面の笑みで指摘するミファーへ、アミリスが慌てて口の前に指を立てて制止する。
と、そんな時遠くでアミリスの名前が呼ばれ、アミリスは行ってしまう。
「すごかったねリーファ!」
「私はミファーの配慮のなさに驚いた」
「……今ミファーのこと悪くゆったぁ!?」
ちょっと理解が遅れつつも、ミファーの声が訓練場に響き渡った。
しばらく魔法の授業が続き、やがて剣術の時間になると、アドバンの指示通りに訓練場に常備されている木剣をみんな手に取って集まる。
「そうだなぁ。剣術の授業はもっと楽しくやろうかな。じゃあ今から、アミリスが頭上に赤と青の光を出すから、赤の人とと青の人とで分かれてくれ」
そう言いながらアミリスを横目にすると、アミリスはコクリと頷き、魔法を発動する。
「え!?」
ティアラは思わず驚いた。
なにせ今、すべての生徒の頭の上に魔法陣が展開され、その上に組分けの光が生成されている。それはつまり、数十に重ねて魔法を同時発動しているということになる。
「わぁ」
「ね! すごいわよね!」
「うんきれい!」
「……あぁ」
ミファーが驚くからてっきり同じことを思ったのかと考えたが、ミファーに限ってそんなことあるはずがなかった。
「とゆうかミファーだけ赤じゃん! リーファとティアラだけズルい!」
「仕方ないでしょ、さっきティアラのお母さんに配慮しなかったんだから」
「それのせいなのぉ!?」
と、そんなこんなで、組に分かれると、アドバンが再度口を開く。
「よしじゃあ、赤組はアミリスに、青組は俺に一度でも攻撃を当てたら勝ちのルールだ!」
「加護使っていいの!」
「ん?」
と、ミファーが質問を投げかける。
「友達を巻き込まないように使えるならいいぞ」
「わかった!」
「ミファーね……」
「えぇ、ミファーね」
アドバンもアミリスも今日は先生という立場なのに、敬語を一切使わないミファーの態度にティアラが思わず口にすると、リーファも同感と口を開く。
「それじゃあ、ゲーム開始!」




