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第一章28 『一つじゃないもの』


「ティアラちゃん、待たせてごめんね」


 先生の声に顔を上げて、ティアラは加護の確認が済んだのだと理解する。

 先生は後ろを振り返り、そこにいるリーファとミファーに言う。


「二人は帰ってていいよ」


「ぁ……」


 喉が鳴る。

 だが当然だ。加護の確認ができたということは制御出来ているということ、つまり二人にはもう用はないことになる。

 視線が勝手に落ちていく。


「ううぇ!? 帰らなきゃいけないのぉ!?」


「帰りたくないの?」


「ティアラが残ってるじゃん!」


「それはそうだけど……」


 ティアラは思わず顔を上げた。

 すると抗議するミファーと困惑する先生の姿が視界に入る。


「先生は加護持ってるんですか?」


「先生は持ってないよ?」


 リーファが質問し、先生が答える。その表情は質問の意図がわからないといった様子だ。

 するとリーファが、『それなら』と言葉を紡ぎ、


「加護を持ってる人がいた方がよくないですか?」


「……それは、そうだね。じゃあ、力貸してくれる?」


「はい」


「やったぁ~!!」


 と、落ち着いた返事を返すリーファと対照的に、ミファーが歓喜しぴょんぴょんとジャンプを繰り返す。


「いいの?」


「ふふん! ミファー優しいもん!」


「別にそんな自慢できるほどのことじゃないけどね」


 信じられないと言った表情で聞き返すと、ミファーが腰に手を当てて自慢げな顔で言う。そしてそれを、リーファがバッサリと切り捨てた。

 しかしそれに動じることなく、ミファーは『それに』と言葉を繋げ、


「ティアラだけおいて帰るのはダメ。それは、絶対……」


「ミファー?」


 一瞬、目の前にいるのが別人なのではと疑った。

 いつものミファーとは違い。その声音には何か重みがあった。そしてその表情も真剣そのもので――、


「よし! じゃあさっそくミファーがティアラに教えてあげる!」


「あれ?」


「どおしたの? ティアラ?」


「ぅ、ううん、何でもないわ」


 気のせいだったのかしら……


 きっと見間違えだったのだろう。

 ミファーはミファーなのだから、きっとそうだ。

 それからミファーとリーファに協力してもらい、二十分が経過した頃。


「う~ん、わからないわ」


「……一応、確実に教えられる方法はあるよ」


 と、少し言うのを躊躇しながら、リーファが手を上げる。


「どういう方法?」


「私のソースを使う」


「そう言えばリーファちゃんのソースはそうだったね……」


「どんなソースなの?」


「私はソースを付与した相手の加護を使える」


「ううぇ!? なにそれミファー知らないよ!?」


「言ってないからね」


『ティアラ、どういうこと?』


 ティアラはティアの声にピクリとするが、三人の様子を見ながら小声で答える。


「魔法や魔法陣の発動にも使うけど、ソースには持ち主の特殊な体質みたいなものがあるの」


「ティアラ?」


「ひゃい!」


「どうする?」


「ぁ、あたしは何も言えないわよ。ソースが生命に直結してる以上、その付与は相当危ないもの」


「魔法使う時もソース使うじゃん!」


 と、ミファーが言うものの、


「付与の方が量が多いのよ」


「先生としてもそれはあまりおすすめできないなぁ……」


「ティアラのためです」


「う~ん、具合悪くなるかもよ?」


「少しくらいなら大丈夫です」


 覚悟の決まったような顔でリーファが見つめれば、先生は「……う~ん」と唸り声をあげ、少し迷ってから口を開く。


「わかった、ならお願いできる?」


「はい」


 頷くとリーファはティアラに近づき、ゆっくりとティアラの手を取る。


「ぉ、おぉ、なんか不思議な感覚ね」


「ぁ……」


「リーファ!?」


「だ、大丈夫。ちょっとクラっとしただけ」


 正直、不安だ。

 一度の付与だから命にかかわることは基本ない、とは思うものの人によりソースの総量も違ったりするため不安は残る。

 そんなティアラの気持ちをよそに、リーファは『それよりも』と言葉を繋げ、


「……ん? ティアラって加護一つだよね?」


「ぇ? あたりまえじゃない。二つもあるなんて前例一切ないわよ」


「そ、そうだよね。二つ……」


「リーファ?」


「何でもない。それより、ティアラの加護の使い方わかったかも」


「え!? そんな簡単に?」


「ティアラずっとこれ対象を無差別に無効化してるって思ってたんじゃない?」


「ぇ、違うの?」


「うん。これ、加護の持ち主を中心にした範囲の中にいる人の加護を封じるみたい」


「そ、そんな簡単なことだったの……?」


 だとしたら、自分はそんな簡単なことにも気づけず、加護を勝手に見限っていたというのだろうか。

 その事実に、ティアラはかなりショックを受ける。

 だって、もし気付けていたら、あれほど苦しむことはなかったかもしれない。


「ティアラ?」


「な、なんでもないわ。それより、そろそろソースを解きなさいよ。顔色悪いわよ」


「ぇ、えぇ……」


 さすがにきついのか、リーファはすぐにティアラの手をまた取り、ソースを解く。

 するとスッとリーファの顔色が元に戻る。


「よし、じゃあティアラ、今度は範囲を狭めるイメージでやってみて」


「えぇ」


 ティアラは目をつむり、想像する。

 自分を中心に広がっているという効果範囲、それが小さくなっていくように――、


「あっ! 加護使えるよ!」


「ホント? ってわぁ!?」


 目を開けると目の前にミファーの姿があって驚く。

 とっさにあたりを見てティアラは眉を顰める。


 あれ?


 目をつむる前にみたリーファと先生の位置が変わっているような気がする。


「ティアラ頑張ったね!」


「へ? ちょっ、ちょっとやめなさいよ!」


 よそ見しているとミファーから頭を撫でられ、頬を桃色に染めながら慌てて手をどける。


「とゆうかさ、ティアラって加護使い続けてたってことだよね? 反動とかなかったの?」


「多分、ティアラちゃんの加護は発動と停止がないタイプなんじゃないかな?」


「つまりずっと発動してるっこと!?」


「そう」


「なにそれずるい!」


 と、ミファーが吠える。

 なんだかんだあったものの、ティアラは加護を制御できるようになった。

 まだ範囲を自由に調整できるというわけじゃないが、それでも最大から最小までの変更は可能になった。


「そう言えば先生、特別授業ってなにやるんですか?」


「ん? そっか、聞いてなんだ」


「どういうことですか?」


「多分、すぐわかるよ」


 どこか含みのある先生の言葉に、ティアラはよくわからず小首を傾げるしかなかった。

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