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第一章27 『加護』


「ティアラ、ここは?」


「ここは――」


 こちらを振り向くミファー。彼女にティアラは勉強を教えていた。


「むぅ、この前までミファーが教えてたのになぁ」


「まぁあたしの場合、一度見たものは忘れないから……」


「ティアラずるい!」


「……ん、嫌なことも忘れられないのよ?」


「……ご、ごめん」


「いいわよ別に。ミファーに悪気がないことくらいわかってるから」


 そう言って、ティアラは引き続きミファーの勉強に付き合う。

 魔法が成功してから、ティアラは試験で百点を取ったりA評価を取ったりと、だいぶ充実した生活を送っていた。

 とはいえ、それなりの努力はしている。一度見れば覚えられるティアラだが、数学とか考えないといけないものはちゃんと理解する必要がある。


「あれから二週間、かぁ……」


 あの日、魔法が発動した瞬間のことは鮮明に覚えている。

 これまでの人生で一番うれしかった瞬間と言っても過言じゃない。


「そおいえばさ、先生が近々特別授業があるから、明日の放課後加護を見せてもらうってゆってたよ?」


「えぇ!?」


「わぁ! ど、どおしたの?」


「ぃ、いやなんでもないわ。それより特別授業ってなんなの?」


 慌ててティアラは話を逸らす。


「わかんないけどすごい人が来てくれるんだって!」


「すごい人?」


「ティアラのお母さんだったり?」


「そんなの聞いてないわよ。それにお母様は忙しいからさすがにないわ」


「そっかぁ……」


 残念とばかりに視線を落とすミファーの様子に、ティアラは目を丸くする。


「えっなに、ミファーあたしのお母様に会いたいの?」


「うん! 会ってみたい!」


「ふ~ん」


 そうなんだ、とばかりに鼻を鳴らす。


「そう言えば、この前手紙を送ったなのに返事が遅いわね。そろそろ来てもいいと思うんだけど……」


「忙しいんじゃない?」


「まぁ、それはあるかも……。じゃ、勉強に戻るわよ」


「は~い」


 と、そこで部屋のドアがガチャリと開く。


「あ! リーファ!」


 入ってきたリーファを見て、ミファーが机から逃げて立ち上がる。


「ミファー、勉強したの?」


「うん!」


「――?――」


 妙によそよそしいリーファの様子に、ティアラは若干眉を顰める。

 それからふと、リーファが腕を押さえているのに気が付き、小首を傾げる。


「リーファ、腕押さえてるけどどうかしたの?」


「ぁ、ちょっと怪我しちゃって……」


 そう言って手を離すと、痛々しい傷口があらわになる。


「わぁ……大丈夫ぅ?」


「何かあったの?」


「転んだ時に腕下敷きにしちゃって……ティアラ?」


 傷をじっと見つめたままのティアラを不思議に思ったのか、リーファが首を小さく傾ける。


「ねぇリーファ、魔法で治してみてもいいかしら?」


「え? えぇ……」


 そう言って腕を出すリーファ。

 その手を取り、ティアラは魔法を発動する。と、傷の上に一つの魔法陣が生成される。

 そして想像する、その傷がふさがるように。

 その瞬間、普通の二倍の量の魔法陣が展開されて――、


「できたぁ……」


「ホントにティアラすごいね。魔法じゃ誰も勝てそうにない」


「そんなことないわよ」


「むぅ、ミファーだってできるよ! リーファ腕貸して!」


「もう傷ないって! それにミファーだと失敗しそうだから嫌」


「今ミファーのこと悪くゆったぁ!?」


 と、ミファーの叫び声が響き渡った。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 次の日の放課後、ティアラたち三人は訓練場に先生とやってきていた。


「さ、三人とも加護を見せて」


「じゃあミファーから! ……あれ?」


「どうしたの?」


「あのすみません先生、あたしの加護のせいです……」


「そう言えばティアラちゃんの加護ってそっか。……でも、どうして?」


「えっと、制御ができなくて……」


 不安に満ちた面持ちで、ティアラは言う。

 正直今日一日中、こうなることがわかっていたからそわそわしていた。


「そっか、なら今日がんばってできるようになろう!」


「ティアラの加護ってもしかして加護を無効化するの?」


「えぇ……」


 視線を落とし、手を握りしめる。

 表情は不安に満ちていて――、


「それ強くない?」


「ミファーも思う!」


「へ?」


 素っ頓狂な声がこぼれる。

 ティアラは思わず顔を上げた。


「けど加護を制御できないのよ?」


「制御できないから弱いじゃなくて、制御できたら強いって考えるといんじゃなぁい?」


 そのミファーらしくない発言に、リーファとティアラの目が見開かれる。

 するとミファーは『え!? なっなにぃ!?』と言い、視線が二人の顔を行ったり来たりする。

 そんなミファーの顔をティアラは覗き込んで――、


「あなたホントにミファー?」


「……今ミファーのこと悪くゆったぁ!?」


 と、揶揄されて吠えるミファーを前に、ティアラは軽く笑う。


「まぁけどありがと、元気出たわ」


「そ、そお? ならいいや!」


「それじゃあ、先にミファーちゃんとリーファちゃんの加護を確認したいから、ティアラちゃん、悪いんだけどここで待ってもらえる? ある程度離れればティアラちゃんの加護の効果は消えると思うからさ」


「は、はい……」


「本当にごめんね……」


 落とした視線をちょっと上にあげると、申し訳なさそうな先生の顔が窺えた。

 だが先生は悪くない。むしろ、加護を制御できないティアラが悪いのだ。

 そんなことを考えているうちに、先生はミファーとリーファを連れてティアラから離れていく。

 少し、胸が苦しくなった。

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