第一章26 『想いを受け取って』
「――――アミリスぅ~!」
「ど、どうしたのミャミュそんな慌てて」
居間に駆け込んでくるミャミュの様子に、アミリスは目を丸くした。
その手には手紙らしきものがあり、
「て、手紙が!」
「――? 誰から?」
「ティ、ティアラちゃんだよぉ!」
「――――えっ」
「アミリスはここで待ってて、私アドバン呼んでくる!」
手紙をテーブルの上においてミャミュはかけていく。
残されたアミリスは予想外の状況に戸惑ってしまう。
ずっとティアラから手紙はなかった。それも当然だと、アミリスは思い込んでいた。
だって自分の立場がティアラを苦しめていることはずっとわかっていたから。それをどうにかしたくていろいろな言葉をかけたけど、どれも響くことはなくて、だから自分は母親失格だと、そう思ってた。
それなのに――、
「――――」
目の前にティアラからの手紙がある。
その事実が嬉しいと同時に、なにか信じられずにいる自分もいて――、
「アミリス、アドバン連れてきたよ」
ボーっとしているうちに、ミャミュがアドバンを連れてくる。
それほどまでに時間が経っていることにアミリスは今気が付く。
「さ、アミリス開いて……」
ミャミュに言われ、アミリスはハッとして慌てて手紙を見ようとする。が、その寸前で手を止めた。
「アミリス、怖いか……?」
「ぅ、うん……」
「そうか。……大丈夫、俺がついてる」
もしかしたら、ティアラからの恨み言が書かれているかもしれないと、アミリスは考えてしまう。
だがもしそうであっても、それは見なきゃいけないものだ。
わずかに震える手をゆっくりと動かし、アミリスは手紙を開封する。
「お母様とお父様へ――」
ミャミュが、手紙を音読し始める。
アミリスは、怖くて目を向けることができなかった。どうしても、目をつむってしまう。
「どうしても伝えたいことがあったから、この手紙を書きことを決めたわ。聞いていると思うけど、あたしは学園に入学して一ヶ月で不登校になったの。いっぱい心配をかけたと思うわ。けどあたしなりに正しいと思って決めたことだから、わかってほしいわ」
「え?」
思わず、目を開ける。
してほしいなど、ずっと言われていなかったから。
「心配させるかもしれないけど、あたしはずっと、お母様とお父様に迷惑をかけないようにって生きてきたわ。魔法が使えなくて、加護もダメなあたしはそうするべきだって、ずっと思ってた」
「そんなこと……」
「そうやって学園に通ってたら、あたし、苦しくなっちゃって。けどそんなあたしを、ある人が救ってくれた……んん!?」
「ど、どうしたミャミュ」
途中で驚いたような声を出したミャミュに、アドバンが困惑顔で聞き返す。
「ぃ、いや、だ、大丈夫。えっと……その人はティアって言うんだけど、とてもやさしくて良いやつなのよ? ティアはあたしの気持ちを吐き出せて、あたしにもう一度理想を目指させてくれた。それは怖いことだったけど、あたしはお母様とお父様の娘として相応しくありたかったの。だから学園を休んで四ヶ月間、魔法の習得を目指したわ。そしてこの前――――」
「えっ……」
その文面に、アミリスの目が見開かれる。
「ついに、成功したのよ。ずっとあたしは、想像のタイミングが間違ってた、それと想像しすぎてたみたい。それに気づくのに四ヶ月もかかっちゃったけど、それでも成功できたことが嬉しくてたまらないの。それとあたし、今や先生に教えてもらった魔法全部使えるのよ? 魔法の授業じゃあたし教える立場なんだから! すごいでしょ! いつかお母様と勝負したいわ! それとこの前、数学と国語の試験で百点取ったわ! 魔法の試験ももちろん評価Aよ! けど……剣術はDだったわ……。だから今度、お父様に剣術を教えてもらいたいわ。そうだ、この前魔法の練習中に窓ガラスを割っちゃったこと、ごめんなさい。これまでずっと心配かけてたと思うけど、もうあたしには仲のいい友達も、相談できる相手もいる。だからもう、大丈夫よ……だってよ、アミリス」
もう堪えることはできなかった。
大粒の涙が、こぼれ落ちる。
正直、自分がティアラを救えなかったことは悔しいけれど、それでもここまでティアラが変われたのなら感謝しようと思えた。
後ろからアドバンの腕が回される。その温もりに寄りかかりながら、アミリスは思う。
これからはもっと、ティアラの、娘の力になれるような、そんな母親になろう。
――――と。




