第一章25 『優しい現実の裏側』
「あっティアラ!」
自室に戻るとミファーとリーファがこちらに気がついて振り向く。
「二人とも、魔法が成功したわ!」
「――――! やったあああぁぁぁぁぁ~!!」
ティアラの言葉に、ミファーが手に持っていたトランプをぶちまけながら立ち上がり、歓喜の声を上げる。
「なんでミファーが喜んでるの……」
「だって嬉しいじゃん!」
「それはそうだけどここはおめでとうじゃっ」
「わぁ!」
自分の成功にここまで喜んでくれているという事実に、ティアラはこらえきれなくてミファーに抱きつく。
その様子をみて、リーファは目を丸くする。ミファーは困惑顔で小首を傾げ、
「ティアラ?」
「今までありがとね、応援してくれて……」
「ふふん! 友達を応援するなんてミファーには楽勝だよ!」
「リーファも、ありがとね」
「えぇ」
「じゃあさじゃあさ」と、ミファーはティアラから離れて言う。
「魔法やってみてよ!」
「えっ、でも……」
さっき窓ガラスを割ったしまったばかりだから、ティアラはちょっと躊躇する。が、目の前のミファーは期待の眼差しをティアラへと向けていて――、
「わ、わかったわ……」
ティアラはその期待を否定することができなかった。
「ならぁ」とちょっといたずら心を出して笑みを浮かべ、ティアラは魔法を発動するとミファーを浮かせる。
「わぁ!! すごいミファー飛んでる!」
「水色……」
「へ? ぁあ……」
宙に浮くミファーのスカートの中を見ながらリーファが言い、その言葉にミファーの頬が急速に桃色へ近づく。
「ティティ、ティアラ下ろしてぇ!」
「わかったわ」
「うぅ……」
恥ずかしそうに床にぺたんと座り込み、スカートの裾を押さえて悶えるミファー。
「ごめんねミファー……」
「ぃ、いいの! それよりすごいじゃんティアラ!」
「えぇ、すぐに二人に追いつくから覚悟しておきなさい!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
次の日、魔法の授業になりティアラはちょっとばかし自信を胸に先生に伝える。
「先生、魔法が使えるようになりました!」
「え? ホントに?」
「はい! みててください!」
そう言ってティアラは水晶玉を浮かし、自在に空中を泳がせる。
「ティアラ!」
「わぁ!」
ミファーが後ろから抱き着いてきて、ティアラは思わず振り向く。
「ミファー」
「なにしてたの?」
「先生に魔法をみせてたの」
「ちょっと待ってティアラちゃん!」
「はい?」
驚いたような声が先生から出て、ティアラはなんだろうと思いながら視線を先生へ戻す。
「今水晶玉みてなかったよね?」
「――? はい、みてないですけど」
「――――」
「先生?」
何かいけないことをしただろうかと、ティアラは水晶玉を浮かせながら、その面持ちを不安で固くしながら先生を見つめる。
「いや、ティアラちゃんそれ、凄すぎるよ。よそ見しながら移動魔法を維持するなんてみたことない。というかそれどうやってるの? まさか水晶玉だけじゃなくてその背景まで想像してるの?」
「は、はい」
予想外の展開にティアラは声を震わせながら応じる。
「ティアラちゃん、やっぱり素質すごいよ」
「むぅ、そのくらいミファーもできるもん!」
そう言いながらミファーが自分の水晶玉を浮かせ、「いくよ」と言ってよそ見する。――落ちた。
パリンという音と共に破片が散らばり、ミファーが「あれぇ?」と目を丸くする。
「ぁ、あたりまえだよミファーちゃん、普通こんなのできっこないもん。ティアラちゃんがすごすぎるだけなの……。そうだティアラちゃん、この割れた水晶玉なおせる?」
「や、やってみます」
さすがに魔法を別の想像を両立させるのは無理なため、ティアラは一度浮かせていた水晶玉をおき、それから割れた水晶玉を見つめる。
魔法を発動し、ティアラは水晶玉が元通りになるように想像する。
「で、できた」
「……完璧すぎる。ティアラちゃん、こ、これどうやったの?」
「えっと、割れた時の記憶を逆再生しただけです」
「――――? どういうこと?」
「え? 割れた時の記憶を逆から順番に思い出せば元通りに戻ると思ってやったんですけど……」
「……ティアラちゃんもしかして記憶力いい?」
「わかんないですけど、一度見たものは覚えてます」
『そうなの!?』
と、ティアの驚きの声が聞こえ、ティアラはビクっと肩を震わせつつも、コクンと頷き返事する。
「ぁ、あぁ……」
「先生?」
言葉を失っている先生を前に、困惑の表情を浮かべる。
「よ、よしティアラちゃん、これから言う魔法全部やってみて」
それからティアラは先生に言われた通りに魔法をやる。
最初にティアラが成功したのが移動魔法、水晶玉を元に戻したのが構築魔法だ。続けて分解魔法、変形魔法、生成魔法を習得する。
それが終わると、先生は言葉を失っていた。
「えっと、ティアラちゃん、ホント凄いね。……そうだ! ティアラちゃんもしよかったら教える立場になってみない?」
「教える?」
「うん、みんなに教えるの! できる?」
「が、がんばります!」
と、言ったものの、ティアラはあまりクラスメイトに話しかけるのが得意ではない。というか怖い。
どうしようかなと思っていると、どこからか悲鳴が上がる。
見れば、水晶玉が宙を舞っている。きっとティアラが昨日窓ガラスを割ったように、誤想像してしまったのだろう。
そんなことを考えているうちに水晶玉がある生徒に向かう。
ティアラはとっさに魔法を発動し、その生徒を移動魔法で浮かせ後方へ下がらせる。
それから何も考えずただ心配の気持ちでその生徒のもとへ走り、声をかける。
「だ、大丈夫?」
そしてハッとする。
自分がリーファとミファー以外の生徒に話しかけているという事実に、気が付くことで、ティアラの心臓がありえないほどバクバクと警鐘を鳴らした。
「あ、ありがとう」
「す、すご! 今の君がやったの!?」
「へ? え?」
周りから感嘆の言葉が飛び交い、ティアラは慣れない状況に何も言えない。
「ティアラちゃんだよね? ずっと話したいと思ってたんだ」
「魔法騎士団長二人の娘ってマジ?」
「えっと、えぇ」
「すご! そうだ! 魔法教えてよ!」
「ま、まぁ、別にいいわよ!」
何も、恐れる必要などなかったのだと、ティアラは思い知る。
きっとみんなは自分に失望していると、悪く思っていると、勝手に思い込んでいた。最初から、敵などいなかったのだ。
その自分のバカさ加減に呆れてしまう。
ただいまは、この優しい現実に涙腺が緩んでしまうのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
下校時間になり、ティアラはリーファとミファーたちと寮へ向かっていた。
「あ、文房具忘れた」
リーファが思い出したように言う。
「戻る?」
「いや大丈夫。ここで待っててくれる?」
「あ! ミファーも忘れた!」
「なら私がついでに取りに行くから待ってて」
そう言って、リーファは二人と別れる。
小走りで教室へ戻ると、声が聞こえた。
「ティアラあいつうざくない?」
「――――は?」




