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神救異世界転移魂 ~絶望に抗う意志がなければ目的を達することはできない~  作者: Riku
序編第一章 『もう一度立ち向かって』
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序編第一章14 『ティアラ・フォーカム』


「なんで……」


 動かない自分の手。

 まだ頑張れるのに。そうでなくとも、頑張らないといけないのに。

 それすらできない自分に、価値なんかない。

 それなのに――、


「なんで! なんで動いてくれないのよ! なんでぇ!」


 涙が、溢れ出す。

 声が震える。


「頑張らないと、いけないのにぃ……! 動いてよ! 動きなさいよ!」


『ティアラ!』


 ティアの声が響く。

 それと同時に、ティアラは強制的に精神世界へ連れてこられた。


『な、なに……勝手なことしてるのよ! あたしは、学園に行かないといけないの!』


『もういんだよティアラ』


『良くなんか、ないわよ! どうせあんたもあたしのこと嫌ってるんでしょ! 勝手に期待したくせに失望してるんでしょ!』


『してない!』


『嘘よ!』


『嘘じゃない! ティアラが頑張ってるの、ずっとみてた。みてたんだよ……』


『ぁ……』


 涙が、こみ上げてくる。

 その言葉が、たまらなく嬉しい。嬉しかった。

 けどその気持ちを認めるわけにはいかないのだ。頑張ってなんかいないから。頑張れてなんかいないから。頑張るようなことじゃないから。

 してあたりまえのことを頑張っているだなんて、認められるはずがなかった。


『違う、違うわ。あたしは頑張ってなんかない!』


『頑張ってる!』


『頑張ってない! 頑張ってないわよ!』


『違う! ティアラは頑張ってる! 頑張ってたんだよ!』


『なら! ……こんな簡単なことすら、頑張ってもできないって、言うの?』


 簡単なことなのに頑張る必要があって、あまつさえそれでもできないのだとしたら、自分の価値はどこにあるのだろう。


『ティアラ、もう休もう?』


『休む? こんなことで?』


『こんなことなんかじゃない!』


『勝手なこと言うんじゃないわよ! あたしの気持ちも事情も立場も! あんたにはわかんないでしょ!!』


『――っわかんないよ!! わかんないから、教えてよ……ティアラが、そんなになっても頑張る理由、教えてよ……』


『ぁ……あたしはぁ!』


 涙はもう、こらえることはできなかった。

 もうこれ以上、この胸の重みを自分ひとりで抱えることなどできなかった。

 感情はとめどなくあふれ出た。止まることなく出続けた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ティアラは、自分の両親が国を支える立場にあることを知った時、とても嬉しかった。誇らしかった。

 だから、その二人に相応しい娘であろうとした。


 自分に加護があるとわかった時、それが叶うと思った。なにせ加護は国内でも数百人しか持つ人がいない。

 そんな珍しく、さらに強力な力を自分が持っている。その事実にティアラはただひたすらに舞い上がった。


 ――――けどその希望は、簡単に打ち砕かれた。


 ティアラの加護は、周囲にいる人の加護を無差別に無効化するものだった。

 こんなの、邪魔でしかなかった。敵の加護を無効化するどころか、仲間の力まで封じてしまう。共闘ができないのだ。


 ――剣術は、才能が一切なかった。

 剣を扱うどころか、剣に振り回されてしまう。どれだけ頑張っても、上手くできなかった。


 ――――理想には、届かなかった。


 だからティアラは魔法だけでもと思った。けど発動できなかった。どれだけ魔法を試しても、できなかった。

 魔法陣を展開したあとに、消えてしまうのだ。


『ティアラ大丈夫?』


 根を詰めるティアラを、レリーファが心配してくれたのを覚えている。

 けどそんなリーファにティアラは――、


『――っ! レリーファ、あたしを見下してるんでしょ! 魔法が使えるからって!』


『違う。私は――っ!』


『帰って!』


 家に遊びに来てくれたレリーファを、追い出した。


『さようなら、レリーファ様……』


 あからさまに、距離を取った。

 疎ましかった。レリーファは魔法がとても上手かったから。


 あれ以降、レリーファは家に来なかった。

 ティアラはただひたすらに、魔法の練習をし続けた。


 ――何年も何年も。


 静まり返った部屋の中、左手の上に開かれた本――魔法のことが書かれたそれを見ながら、ティアラは一縷の望みで一番難しいとされる生成魔法を行うことを決めた。

 でも――、


『今度こそ、今度こそ成功させないと……』


 視線は本から正面へと移動する。すると深呼吸の音がして、視界が若干上下する。

 そして次の瞬間、ティアラの正面に魔法陣が生成される。生成されて――、


『ぁ……』


 次の瞬間、魔法陣は消えた。


『なんで……なんでできないのよおおおおおおお!!!!』


 悲痛な叫び声が木霊する。

 左手にあった本を正面の壁に投げつけて、本棚を倒し、大量の本が床に散らばる。全身鏡を放り投げて、割れた鏡の破片が額に当たって出血する。

 ぐたりと、その場にへたり込んだ。


『なんで、どうして……』


 額から出血した血が落ちて、床を汚す。かなりの量だが、どうでもいい。

 涙が、視界を歪めた。


『あたしは、ただ……お母様とお父様に……あの二人の娘として、相応しく、ありたい、だけなのに……』


 世界は、残酷だった。

 あれだけ頑張り続けていたのに、ティアラには魔法が使えなかった。

 だからティアラは相応しくない娘として、最低限の贖罪として、迷惑をかけないように生きることを選んだのだ。

 ――欲を、封じ込めた。


 ひずると出会った時、異世界の人間と知って、もしかしたら自分の苦悩を理解してくれるのではと思った。

 けど――、


『……理由、言った方がいいかしら』


『別に言わなくていいよ』


 希望はことごとく打ち砕かれた。

 その時わかったのだ。自分を理解してくれる人など、いないのだと。

 自分の心に嘘をつくようになったのは、その時からだっただろうか。


『――――っだから、だからあんたにあたしを心配する資格なんかないのよ!!』


『ないとしても! 私はティアラを救いたい!』


『勝手なこと言わないで! そもそもあたしは助けなんか必要としてない!』


 そうだ。助けなど必要ない。

 自分は苦しんでいない。この程度で頑張っているなんてことも、この程度で苦しんでいるなんてこともない。

 だから助けなど必要ないのだ。


『だったらなんで泣いてるの!』


『泣いてないわ! 泣いてるわけない!』


『泣いてるよ!』


『泣いてないわ! この程度で泣くならあたしは死んだ方がいいわ!』


 わかっている。自分が涙を流しているだなんてこと。

 だがそれを認められるわけがない。最低限の贖罪すら満足にこなせず、挙句の果てに泣いているだなんて、認められるはずがない。


『ティアラは泣いてる! 苦しんでる! がんばったんだよ!』


『そんなこと――っ!』


『もうやめて!!!』


『――――っ!』


 叫ぶようなティアの言葉に、ティアラは言葉を失う。


『もう、自分の心に嘘つかないで……』


『――――。――なら、ならあたしはこんな簡単なことにも苦しくなっちゃうクズだって言うの?』


 あの二人の娘として生まれたくせに、その娘として相応しくあれず、そのくせに最低限の努力にすら苦痛を感じているのだとしたら、ティアラはクズだ。クソ野郎だ。価値がないどころかそれ以下だ。

 否定したい、そんなわけないと。だけど今ティアラは泣いている。苦しんでいる。そんなのティアラ自身が一番わかっていて、紛れもない事実だった。


『……そうよ、えぇそうよ! あたしはずっと苦しんでたわよ! お母様とお父様に迷惑しかかけないのに、それを最低限に抑えることすら苦しいと思っちゃうクズ野郎なのよあたしは!! なんであたし生きてるのかしら? もういっそ死んだ方がいいわよね? こんなあたし生きてる意味ないわよ。魔法も加護も扱えないくせに、迷惑の塊のくせに、辛くて苦しくて、助けてなんて思ってるのよ? 死んだ方がマシよ。誰も、あたしなんか必要としてないのよ! 死ね死ね死ね! 死んばいいのよあたしはぁ!』


 自分の心を直視してしまったら、ティアラにはもう自分を苦しめることしか贖罪方法が残らない。

 もういっそ死んでしまおうと思って――、


『わたしは、ティアラがいなくなるのは絶対に嫌』


『――――っ!』


 その言葉に、思考が揺らぐ。


『……あの時、聞いてくれなかったくせに』


『うん、だから今聞かせて。――あの時ティアラが言えなかった想いを』


 そして言うのだ。

 ――――ティアラが今まで一番言ってもらいたかった言葉を。


『今まで独りで、よく頑張ったね、ティアラ』


『ぁ……』


 気付いたら声を上げて泣いていた。

 感情の波はとどまることを知らず、ため込んでいた想いを吐き出さずにはいられなかった。


『…………頑張った、頑張ってたのよぉ! ずっと独りだった! 独りだったのぉ! 誰も気づいてくれなくて! 辛かったの! 痛かった! 苦しかった! なんであたしだけこんな目に遭うのって、ずっと思ってたの! あたしだって! もっと相応しくありたかったの! だから頑張って、頑張ったのになんで! なんでぇ!!』


 ティアラの体をティアが優しく包み込む。

 それがとても温かかった。


『あたしなんで魔法使えないのよぉ!』


『頑張ったねティアラ。辛かったね』


 その肯定が、嬉しかった。

 なにも否定せずに、ただ抱きしめて受け止めてくれる。


『誕生日の時も、お母様たちが優しくて……だから辛かったのよぉ! あたしは、なにも返せないのに! なのにあんなにしてくれるからぁ! ごめんなさいって思ってたの!』


『苦しかったよね。えらいよティアラ、ホントに』


 涙きそうなティアの声。

 共感してくれている。ずっと独りだと思っていたのに、理解してくれる人はこんなにすぐそばにいた。

 自分はあんな簡単にティアを見限ったというのに。


『あたしどうすればいいの? 考えちゃうの! みんなあたしのこと嫌ってるんじゃないかって、失望してるって思っちゃうのよ!』


『わたしは失望なんかしてない。だって、知ってるもん。ティアラがすごい頑張れる人だってこと。でも独りは辛かったよね』


『ぅ、うん、辛かったぁ! 苦しかったの! 寂しかったぁ!』


 涙枯れるまで、ティアは背中をさすってくれた。

 ティアラのずっと偽っていた想いの奔流を、しっかりと受け止めてくれた。ドス黒い想いも、やるせない気持ちも、苦しみに満ちた感情も、何もかもを、優しく抱きしめてくれた。


 ――その温かさが、ティアラを救い出してくれたのだ。


 やがて、ティアラが落ち着きを取り戻した頃、ティアが抱きしめていたティアラの肩を掴んで少し押して、顔を見合わせる。


『ティアラさ、これからどうしたい?』


『どう、するって……?』


『正直、この先どっちに転んでもティアラは苦しい。けどずっと逃げ続けるより、立ち向かった方がいいとわたしは思うんだよ』


『それって……』


『今度は、わたしがいる。ティアラが何度泣いても、何回でも助けてあげる。だからまた、頑張ってみない? もちろん、ティアラには休息が最優先だけどね』


『――――』


 その提案は、とても重い。

 またあの時のように、なってしまうのが怖い。これでまたできなかったら、今度こそティアラは壊れてしまう。

 けどティアラは、やっぱりあの二人に相応しくありたいと思うから――、


『ホントに、何回でも助けてくれるの?』


『一万回でも話聞くよ?』


 その無茶苦茶なティアの優しい言葉と微笑みに、ティアラは目尻に涙が溜まる。自然と頬が緩んで、ティアラも優しく微笑んでしまう。

 ティアラは一度視線を落として、もう一度深く考えて、


『……怖い。怖いけど……ぅ、うん、わかったわ、頑張る』


 このままでいいとは思えなかった。

 またあの時のようになるのも怖いけど、このままあの二人の傷であることは、もっと苦しいし怖いから。


 あたしはもう一度、手を伸ばそうと思う。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 あのあと、ティアと相談して、しばらく学園を休むことに決めた。

 それはティアラにとって、とても怖くて、不安で張り裂けそうなくらい重大な決断だ。

 休むことが、さらにあの二人の名前に傷を作るのではないかと、そう思ってしまう。

 でも――、


「先生……」


 みんなが帰った教室。そこにポツリと残っている先生へ、声をかける。

 すると気付いたのか、こっちに近づいてきてくれる。


「ティアラちゃん。今日は大丈夫だった? 具合悪いから休むってリーファちゃんたちから聞いてたけど」


「え?」


 思わず素っ頓狂な声が出た。

 すぐにわかった。ティアだ。ティアがティアラのために、リーファたちに休む言伝を頼んだのだ。

 その優しさに、ティアラは頬が緩んでしまう。


「あの……」


 意を決して、ティアラは事情を先生に伝えた。

 今学園に通うことが、とても辛いこと。

 だからしばらく学園を休みたいということ。


 伝え終わると先生が安心したような顔をした。


「よかった。ずっと心配してたの、ティアラちゃん無理してないかなって」


「心、配? なんで、ですか?」


「――? 生徒だからだよ?」


「え?」


 ――驚いて、思わず目が丸くなった。

 そして、感情があふれ出すのをティアラは悟った。


「ぅ、うぅ……」


「学園を休む手続きは私がなんとかするからね」


 そう言って先生は抱きしめてくれる。

 最初から、独りなんかじゃなかったのだと思い知る。

 振り返れば、ミファーやリーファも心配してくれていたように思う。

 ずっと誰も自分を理解してはくれないと思っていたのに、実際は違っていたのだ。


 ――歩み寄ってくれていたのに、歩み寄っていなかったのだ。


 寮に帰り、リーファとミファーに事情を話すと、快く受け入れて応援してくれた。

 世界が突然優しくなったように感じた。

 けどきっと違うのだ。


 ――もとから世界は思っていたより優しかったのだ。

 自分で自分の視野を狭めていただけで、ずっと心配してくれていたのだ。ずっと見ていてくれていたのだ。


 ――世界は残酷で、でも優しくもあったのだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

ついに山場を投稿できました。ティアラちゃんはあの二人にふさわしい娘になれるのでしょうか。


続きが気になった方は、ブックマークや評価をいただけると励みになります!


また、次回更新から投稿時間を19:30→21:00(※修正:明日のみ19:10。それ以降21:00)に変更します。

今後もよろしくお願いします!

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面白い設定だなーって思いました。 周囲から期待に応えられないストレスとプレッシャー、そこからの自己否定。それが無意識に溜まって動けなくなること…ありますよねぇ… ティアちゃんがなんてメンタルイケメンな…
思い詰めてしまう苦しみは、当人にしかわからない苦痛ですよね。 みんなが普通に出来ることが出来ないと、自分に絶望してしまいますよね。 ティアラが救われますように今後の展開に期待します!
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