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第一章19 『迷子の出会い人』


 わかっていた。わかっていたはずだ。

 学園に入れば、あの二人の娘であることから期待されるなんてこと。言ってしまえばそれは必然なのだろう。

 どこか期待している自分がいたのだ。あの二人の娘としてではなく、ティアラとして見れもらえるんじゃないかって。

 ――けど違った。


『えぇ!? ティアラって魔法騎士団団長二人の娘だったのぉ!?』


 驚きと期待の眼差しで、そう言ったミファーの姿が脳裏に蘇る。

 自分は期待に応えることができないのに、周りは勝手にティアラを期待の対象にするのだ。

 それには応えられない。だからティアラは、最低限を演じなければ、いるだけで両親の名前に傷を作る自分は、その傷を最小限に抑える責任がある。


 それすらできないなら、あたしは……


『ティアラ!』


「――っ!? な、なに?」


『やっと反応した……ずっと呼んでたんだよ?』


「ごめん、ちょっと考え事を――っ」


 その時、『危ないぞ!』と声が聞こえた。

 反射的に振り返って――、


「えっ?」


 思わず、声が漏れた。

 目の前には、一本の剣が飛んできていた。


 ――死。


 その言葉が脳裏に過った。

 ティアラは反射的に目をつむって――、


「あれ?」


 しばらくしても剣が刺さる感覚が訪れず、ティアラは素っ頓狂な声を零した。


「大丈夫?」


 目を開けると、ティアラに刺さるところだった剣の柄を、握りしめている少年の姿があった。


「ぇ、あっ……」


「どうした?」


 灰色の目を丸くすると、少年は首を横へ傾けて灰色の前髪を揺らした。

 ティアラより二十センチほど大きい背丈で、屈むようにしてこちらを見ている。年齢は十二歳ほどだろうか。


「あっえっと、助けてくれてありがとうございま、す?」


「別にいいよ。同じ死ねない者同士仲良くやろうよ」


「し、死ねない!?」


「ん? あぁそういうことか、あれが初めてだったってことね。せっかく死んだのに……」


「え? ぁ、あの……」


 訳の分からないことばかり言う少年を前に、ティアラの表情は困惑の色で染まりきる。


「あぁ行っていいよ。あとは僕がやっておくから」


「えっ? あっはい……」


 よくわからないが用は済んだらしい。

 ティアラは困惑しながらもその場を去る。


「あれ? ミファーとリーファは?」


『さっきティアラが考え事してる時にはぐれた』


「あっ! だからあたしのこと呼んでたってわけね?」


『そういうこと』


「あっ!!」


「今度はなに?」


 聞こえた声に振り向くと、そこにはどことなく誰かに似ている人影があった。

 ピンク色のツインテールを揺らしながら、ティアラのことをハート形のピンク色の瞳で見つめる少女が、そこにはいた。


「ティアラちゃんだぁ! 聞いてた通りかわいい!」


「へ? んむ!?」


 え? ……く、口付けされた!?


「ん、んん!?」


 舌が入ってきて、ティアラは思わず悲鳴を上げる。


 なに、これ……ヤバい……


 気を失いそうになるような強烈なディープキス。

 執拗にティアラの舌を追い、絡んでくる。その猛烈な快楽の奔流にティアラは意識を持っていかれそうになる。


「んん、ぱぁ!」


 ようやく解放されるが、ティアラは目を回したままだ。


「あぁ、遅かったかぁ……」


「あっ! イラ!」


 ため息を零すような声でそう言って登場したのは、イラと呼ばれた少年だ。

 ティアラより三十センチ大きい背丈に、赤黒い短髪の髪。燃え盛る炎のような明るい赤色の瞳をこちらへと向けていて――、


「おい、大丈夫か?」


「ぇ、あ、はい……」


 頭が、ふわふわする……


 ティアラは、何とかイラに顔を向けてみると、少年の若干大人びた顔が視界に映り込む。


「お前なぁ……」


「だってぇ、したくなっちゃったんだもん……」


「だもんじゃねぇよ!」


「えっと、その人は?」


「私はメルティア! 誰かに似てない?」


「あっ! ミリティアさんの妹!」


「そういうこと! ティアラちゃん見つけたから、自己紹介しとこうと思って」


「自己紹介で接吻交わすやつがいるかよ!」


 と、イラからツッコミが入るが、メルティアは『えぇ……』と言って不満げの表情だ。

 二人は何年生なのだろうか。メルティアの方はティアラより二十センチほど大きいが、イラはそのさらに十センチ大きい。

 おそらく十四歳くらいに思えるが――、


「あっティアラいた!」


「んっ!」


 声が聞こえて振り向くと、そこには安心したような表情のミファーと相変わらず落ち着きのある面持ちのリーファの姿があった。


「お? お友達かな。じゃあ私たちは行くよ。あっ、でも最後に……」


 そう言ってメルティアはゆっくりと腰を屈め、ティアラの耳元に口を寄せる。

 そして小声で、


「またしたくなったら言ってね? 寮はi寮で部屋番号は千四百四十三だから」


「んっ……!?」


「ティアラ、今の人は?」


「な、何でもないわ」


「ティ、ティアラが今までしたことないくらい赤面してるぅ!」


 最後のメルティアの言葉がクリーンヒットし、ティアラは耳まで赤くなっていた。

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