序編第三章57 『三つあるもの』
「ティアラちゃん大丈夫?」
「ティアラ!」
会場から降りてアミリスたちのもとへ向かっていると、その途中でやって来たミャミュとアミリスに声をかけられる。
遅れてきたアドバンも、心配の眼差しをティアラに向けていた。
「だ、大丈夫よ。ちょっと背中を打っただけよ。あっ!」
「な、なに!?」
アミリスが心配を視線に乗せてティアラを見る。
本来なら、心配させないようにティアラはするべきなんだろうが、今日くらいは甘えようと、そう思った。
「だいぶ痛いわ」
「大変! ミャミュ! あっ違うえっと、私が治療魔法を!」
「そ、そこまでじゃないわ。ただ、その……心配してもらいたかっただけよ」
ちょっと恥ずかしそうに、ティアラは言う。
ただ、この気持ちに嘘はなかった。ずっと、心配させないようにして生きてきたから、心配されることの嬉しさを、今日ばかりは味わっていたい。
それはちょっと、歪な想いなのかも知れないが、
「ティアラ! こっちに来るんだっ! 体を乾かすぞっ!」
「ほ、ほんとだ。ティアラ服が濡れて……アドバン! なんかこれダメだよアドバン!」
「まぁまぁ、子どもたちが頑張って考えたんだからよ」
「――?――」
濡れたティアラの姿を見たアミリスとアドバンが何か問題を見つけたかのようなニュアンスで会話している。
その様子にティアラは、何が何なのかわからずに小首を傾げることしかできなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「へぇ、こんなところがあったのね。てっきりあたしは濡れたまま帰らせるのかと思ってたわ」
「そんなわけないぞっ! 病気になったら責任が発生することになるっ!」
「ふっ、マレらしい発言ね」
会場から少し離れた場所にある仕切りの中へ入ると、そこには魔法陣があった。
マレディクトゥム曰く、それが体を乾かす魔法陣とのことだ。
「じゃあマレ、しばらくしたらそっち行くわ。お母様たちによろしく」
「わかったぞっ!」
そう行って仕切りをくぐり外へ出ていくマレディクトゥムを見送ると、ティアラは早速足元にある魔法陣を発動させる。
「んん!?」
結構強めに暖かい風がティアラの全身を駆け巡る。それが、少しばかり冷えていたティアラの体を温めてくれる。
その風に五分ほど当たれば、ティアラの服も髪も綺麗に乾いた。
「よし、このくらいでいいわね」
そう行って魔法陣の発動を止め、ティアラは仕切りをくぐって外へ出る。するとすぐにアミリスたちが視界に入って、ティアラはその方へと駆け出した。
「お母様終わったわ」
「ん、ティアラ大丈夫? 体冷えてない?」
そう言って顔を覗き込んでくるアミリス。
それにティアラは「えぇ、大丈夫よ。背中の痛みも引いてきたわ」と応えて、
「それよりティアラすごいじゃねぇか。この前はあんなに動けてなかったよな?」
「あぁ! そう言えばティアラちゃんすごかった!」
「ほ、ほんとに、すごかった?」
「あぁ、驚いたよ」
「そう」
ティアラはちょっとばかし喜びに浸る。
親に褒められるなんてことも、ティアラにはなかった。――いや、その褒め言葉を、ティアラは素直に受け取れていなかったから。
「ティアラちゃん、嬉しそう」
「ぇ、えぇ、嬉しいわ」
「ふふっ。それにしてもティアラ、なんで急にあんなに動けるようになったの?」
「ん、それはあたしもわからないのよね。なんか急に体が軽くて……ん? リーファ?」
「なんでもない……」
隣、マレディクトゥムと話していたリーファが突然ティアラのことを神妙な面持ちで見つめた。
その眼差しに小首を傾げるも、わからずじまいだ。
「そう言えばリーファ、ミファーのお母さんたちは?」
「あっち」
そう言ってリーファが指差すのは、球避け企画を見ている人たちの人だかりの方だ。
「最初の三十分だけ一緒に遊んで、そのあとは自由にしてもらうってことになってたから」
「最初の三十分?」
「ミファーがなっ! 両親と出店を回りたいと言っていたんだ! それで最初の三十分だけ休憩を前借りして特別雇用の仕事を休んでいたわけだっ!」
「なるほど、だから四十五分後に来てなんて正確な時間を言ってたわけね」
点と点が繋がったようなスッキリ感と同時に、ミファーの抜け目のあるサプライズにちょっとばかしジト目になる。
だがまぁ、ミファーらしくもあったとティアラはゆっくりと頬を緩めた。
「そうだっ! ティアラの父っ!」
「ぉ、え? な、なんだ?」
突然マレディクトゥムに声をかけられて、動揺した声になりながらもアドバンは応じる。
「お前に小企画に挑戦してほしいぞっ! まだ誰も賞金をもらっていないんだっ! 盛り上げるために協力してくれっ!」
「いいのか? 賞金払うことになるぞ?」
「最初の賞金は銀貨百枚だっ! 別に問題ないぞっ! それより、誰にもクリアされない方が問題だっ!」
「それもそうか、わかった。そういうことならクリアするぞっ!」
「なんで真似するんだっ!」
「なんでだろうなっ! それじゃあアミリスミャミュ、俺行ってくる。ティアラを頼んだ」
「わかった」
「うんうん! ティアラちゃんは任せて!」
「ぁ、あたしそんなに子供じゃないわよ!」
子供扱いされてティアラは叫ぶが「あぁ悪かったよティアラ」などとアドバンに言われて頭を撫でられた。子供扱いだ。
それを受けてティアラはプクッと口を膨らませた。だが撫でられるのは嬉しくて、若干未完成になった。
そんなながらも去っていくアドバンを、ティアラはちゃんと手を振って見送った。
「ティアラ、ちょっといい……?」
「ん、リーファじゃない。どうしたのよ」
「来て……」
「ん? わかったわ。お母様、あたし行ってくるわ」
「わかった。ちゃんと帰ってきてね?」
「えぇ」
リーファは何も言わずに歩き出す。
その背中をティアラは何を言われるのかと考えながらついていく。
何か嫌なことしちゃったかしら……?
ちょっとばかし不安になってくる。
ティアラが知らぬ間にリーファを傷つけるようなことをしてしまっていたとしたら、それはちゃんと謝らなければならない。
もしそれが原因で嫌いになられたらどうしようと、根拠のない妄想がティアラの中で肥大化する。
そんなことを考えていると、リーファが突然足を止めた。
「ここでいいの?」
学園の方まで来ている。外側だが、人の死角になっているところだ。
ティアラはあたりを軽く見回したあと、ゆっくりとリーファの方へ視線を戻す。リーファのその眼差しは、真剣にティアラの目を捉えていて、自然と緊張が募った。
数秒の沈黙のあとに、リーファが口を開いて、
「ティアラ……ティアラは、加護が三つある……」
「――――は?」




