第66話-爺さんは異世界人?
ここはクロル・スイム人形屋の奥。
倉庫用に使われている部屋の中。
部屋の壁は四面とも、
天井まで続く棚になっており、
長い木製の梯子がかかっている。
床の上には、雑然と寄せられた工具や材料。
床の荷物は、入れ替えが多いためか、
それほど汚れている様子は無い。
しかし、棚の上の荷物は、
厚い綿ホコリを被っていた。
俺が上っているこの梯子も、
もう何年と使っていないように見える。
俺は今、クロルと一緒にバータさんの遺品を探している。
パーティメンバーの選択に困った俺は、
爺さんのパーティを参考にするため、
手掛かりとなるものを捜索しているのだ。
「おい、クロル。
この箱でいいのか?」
「うーん……
たぶん、そうっす!」
俺は、棚の中から1つの木箱を出し、
梯子を掴んだまま、それを胸と片腕で抱えた。
どうやら、どこの棚に何があるのかは、
店の主人であるクロルにもあやふやなようだ。
「いやー。何年もいじってないから、
もう、あちしもよくわかんないんすよー
じいちゃんのお葬式の後、
アウト師匠とエルフの偉い人が、
荷物を片づけてくれたきりっすから」
なるほど、クロルの身体では、梯子を上がることは出来ない。
棚に荷物を置いたのも、他人だろう。
しかし、配置については、
クロルのことを思ってくれたようだ。
生活に必要なものは、なるべく下に、
不要なものは上に、片づけてある。
「ふーん。
葬式って、この店でか?」
「そうっす。
ここは元々じいちゃんの家だったっすから」
俺は、クロルと会話しながら、
階段を下り、抱えた箱を床に下ろした。
バフッと煙の様なホコリが舞った。
「なぁ、クロルのじいちゃんも人魚なのか?
陸での生活も大変だったろ?」
「いやいや、ちがうっす。
じいちゃんは男だから、マーマンっす!
マーマンには足があるから、
陸でも問題なしっすよ」
あぁバータさんはマーマン、
いわゆる半漁人だったのか。
それで、うちの爺さんとも、
一緒に冒険が出来たというわけね。
「それじゃあ、見てみるっすよー
さてさて、なにがあるっすかねー」
俺が、納得しているうちに、
クロルはガサゴソと箱を荒らし始めた。
箱の中には、ガラクタの様な物が、
溢れんばかりに詰め込まれている。
「おー!
これは懐かしいっすー!」
クロルはそう言うと、箱から
ナックルと籠手が一体となった様な
装備品を取り出した。
「なんだ? それ?」
「これはじいちゃんの武器。
【爆流のナックル】っす!
固有スキル付きのお宝っすよー!」
その装備品は、青いメッキをかけた様な光沢があった。
良く見ると、籠手の部分に、竜の彫り物がしてある。
ほう。レアアイテムか。
さすがは【拳聖】だ、良い物使ってるな。
「で、どんなスキルがあるんだ?」
「固有スキルは【水竜波】っす!
ナックルが敵にあたると、
高圧の水流が噴き出すっす!」
へぇ、そいつは痛そうだ。
敵は殴られたが最後、衝撃+高圧の水の勢いで、
吹っ飛ばされるということか。
意外なところでお目にかかったお宝。
だが、俺が見たい遺品はこれではない。
「なぁ、クロル。
バータさんの仲間、
つまりノーレッジさんのパーティが、
分かる様な品ってないかな?」
「うーん……
じいちゃん達の顔が見たいんすか?
何かあるっすかねー……」
クロルは手を箱に突っ込み、
ガチャガチャと音を立てる。
「おー! これはどうっすか?」
「おっ、それは……」
クロルの取りだしたのは、
『思い出のペンダント』だった。
「これは、じいちゃんが、
ノーレッジ様と冒険していた時、
仲間同士で買ったものらしいっす!」
「えっ、『思い出のペンダント』をか?」
たしか、アインが言うには、
恋人同士のアイテムのはずじゃ?
「そうっす。
でも、家族とか友人とか、
そういう間柄でも持ってるっす!」
そう言うとクロルは、
『思い出のペンダント』を俺に手渡した。
なるほど、ロケットペンダントとか、
ゲーセンにある写真機みたいなものか。
まぁ両方とも俺には縁が無かったけどな。
「確かこれって……
目をつぶれば、
送り主の顔が浮かんでくるんだよな?」
「そうっすよー!」
俺は、ペンダントを握りしめ、そっと目を閉じる。
すると、頭に浮かんできたのは……
……半裸で青い素肌をテカらせ、
ボディビルダーのポーズを決める、
ムッキムキのおじいさん……って、
「っおい! なんだこれ!」
「あっ、まちがえた。
それは、じいちゃんしか、
浮かばないやつっす!」
まじで!?
今の霊界探偵とバトルする妖怪みたいな、
ものすごい筋肉した爺さんが、
バータフライさん!?
ある意味、衝撃の事実なんですけど!?
「いやー、悪かったっす!
こっちが仲間のやつっすね!」
「おいおい……
頼むよクロル……」
クロルが謝りながら、別のペンダントを渡す。
どうやら、間違いだったようだ。
俺は渡されたペンダントを再び握りしめる。
おぉ! 今度こそ浮かんできたぞ!
……って! えー!
なにこれ、全員すごい美形じゃん!
俺の頭に浮かんできたのは、
3人の男性と1人の女性の姿だった。
……まず1人目。
たぶん……この女性は、ネットさん。
つまり、マリーさんのお婆さんだな。
魔法使いの様な杖を持ち、優しそうに微笑んでいる。
マリーさんそっくりの、かなり美人だ。
すこしウェーブのかかった綺麗な金髪を、
頭の上で丸めて束ねていた。
神官の様な神秘性とお姫様の様な気品がある。
さすがにエルフは格が違うな。
で、その隣には、青い肌をした男性。
これは……まさかバータさんか?
さっき見た老後の姿とは、全然違うな!!
なんて言うか、ガテン系のカッコいいお兄さんって感じだ。
背が高くて、ワイルドで、頼りがいがありそうで、
爽やかな短髪が好印象だな。
こりゃ、絶対モテただろなー。
……と言うか、なんで、
あんなムキムキじいちゃんになったのか不思議だよ。
そして、お次は……
おぉ! こりゃまた癖のある美形だな。
黒いマントを羽織ったキザな男性だ。
多分、この人がクロルの師匠で、ミットなる人物の祖父、
アウトさんだろう。
……ゴシックホラーと言うか、ビジュアル系というか、
あからさまな二枚目だなー。
銀髪のロングヘヤ―だし。まつ毛長いし。
なんか伯爵とかの称号付いてそうだな。
で、最後に。
真ん中で【天空剣】を携えてるのが……
……やっぱり、爺さんか。
なんだよ、爺さん。
若い頃は、格好良かったんじゃないか。
バータさんとアウトさんの身長が高すぎて、
小さく見えるけど、まぁ背格好は俺と同じくらいだな。
だけど、細身の体には、しっかりと鍛えた筋肉が乗り、
顔もシャキッと引き締まっている。
髪型はすっきりした短めで、眉も若干俺より濃いかな。
くそー、同じ遺伝子なのになぁ。
俺は髪も適当に伸ばしてるし、
基本的にはひょろひょろだからな。
あーあ、鍛えれば、こんなに格好良くなれんのかなぁ。
「……エイジっち!
どうっすか!?」
俺が、4人の様子を観察していると、
横からクロルが声をかけてきた。
その声で、俺も想像の世界から、現実に引き戻される。
「お……おう!
見れた見れた!
ノーレッジさんのパーティって、
この3人で全員か?」
俺は、ペンダントを使うのを止め、
クロルに返しながら質問した。
「そうっす!
これで全員みたいっす!」
「じゃあ、確認したいんだけどさ。
メンバーの属性ってわかる?」
見た目からすると、
おそらく爺さんが光、ネットさんが木、
バータさんが水、アウトさんは闇か。
「それは、光、木、水、土っすね!」
「あれ?
アウトさんは闇じゃないの?」
「師匠はアンデッドっすから、
土っすよ?」
そうなのか。アンデッドと言えば、
闇の感じもするが、どうやら土らしい。
そうすると、爺さんのパーティーは、
……光、木、水、土。
木のネットさんが、水のバータさんに弱いけど、
光の爺さんには特に影響しないわけか。
……まぁ、ゲーマーの爺さんだもんな。
自分に不利になる様なことはしないよなぁ。
「うーん……
ひょっとしたら、
参考になると思ったんだけどなぁ」
俺は、ため息をついて、うなだれる。
どうやら、調査は無駄骨に終わったようだ。
「なんだ、エイジっち。
パーティのこと気にしてたんすか?」
「あぁ、英雄のパーティは、
どんなだったかと思ってさ。
それにしても、バータさんは、
すごい変り様だったな」
「あははっ、そうっすね!」
クロルが笑いながら答えた。
「じいちゃんの口癖は、
『ダンクが帰ってきたら、また皆で冒険する』
だったっす!
年をとってからも、
毎日修行は欠かさなかったっすよ」
「へーそれでムキムキに……
うん? でもダンクって誰だ?
もう1人仲間がいたのか?」
俺は聞きなれない名前に、ひっかかった。
クロルが不思議そうな顔をして答える。
「エイジっち知らないんすか?
ダンク・エアウォーカーは、
ノーレッジ・ニューフィールドの前の名前っす」
「前の名前?」
「【英雄】になる前っすよ」
あぁ、確か英雄になると名前が変るんだっけ?
あれ?
でも、うちの爺さん『新原 則冶』だよな?
良く考えると、名前変わってなくないか……?
異世界の元の名前がダンクなら、
異世界に来る前に、
元の世界で『則冶』はおかしいだろ?
思考パズルの様な疑問。
しばしの混乱のうち、俺の頭にある考えが浮かんだ。
ん……?
ひょっとして、うち爺さん、異世界人?
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名前 エイジ・ニューフィールド(こんらん)
職業
略
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