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白き黒豹~老害と呼ぶならお好きにどうぞ  作者: 秋月 忍


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警察

 警察は思ったより早く来た。

 相手が侯爵家だったこともあるだろう。

 やってきたのはロキソ・プレドロン警部とラシック・スピノ巡査部長の二人組だった。プレドロン警部はかなり年配なこともあり、メアリーの異名を知っていたのか、かなり恐縮していた。もっとも、メアリーの実兄は、警視局長である。やりにくさを感じるのは当然なのかもしれない。

 ダランドを引き渡したメアリーは、応接室で事情徴収を受けることになった。今のところ、メアリーの言い分はすべて信じてもらえているようで、特に疑われているなどということもないようだ。

「それで、彼女は何を盗もうとしていたのでしょう?」

「わからないわ」

 メアリーは首を振る。

 彼女はまだ何も盗んでいなかった。ただ、あのあと部屋を調べたところによれば、金庫の前で金庫破りに必要な魔道具がみつかった。男爵を部屋から追い出した時にはなかったものだから、間違いなく、その後に持ち込まれたものだ。

「金庫の中には、有価証券や領地に関する重要な契約書などが入っていました。それを狙ったのかもしれないとは思うわ。ただ、換金するのは難しいものばかりだった。金目当てなのか、それとも侯爵家の機密文書目当てなのかの判別はできません。私は彼女とは会ったばかりでよく知らないもの。息子の部屋に行ったら、彼女が金庫の前に立っていて、突然、刃物を持って襲ってきたというだけのことだから」

 メアリーは肩をすくめて見せた。

「動機は警部さんが本人から聞いてください。もちろん、彼女の私室の調査はしていただいて構いません」

 ダランドは目を覚ましたが、沈黙を貫いている。念のため、痛めた腕の応急手当もメイドによって行われたが、筋肉の痛みは簡単には消えないだろう。むしろ気絶したままの方が、よかったのかもしれない。

 あとは警察の仕事だ。彼女の狙いが何なのか、メアリー自身も知りたい。当初、彼女はロクスタン男爵を後見人にするために動いているのかと思ったが、どうやらそうではなさそうだ。警察が来る前に帳簿を確認したところ、ロクスタン男爵に金銭を渡した形跡はなく、当然、魔術誓願もまだ行われていなかったと思われる。だからこそ、ロクスタン男爵は、日記を持ち出そうとしていたのかもしれない。日記がなければ、ユキアが、弟と縁を切ろうとしていた証拠がなくなる。さすがにその事実が発覚すれば、男爵が後見人の資格を得るのはかなり厳しくなる。

「こちらへどうぞ」

 メアリーは立ち上がり、プレドロン警部をダランドに与えられた私室へと案内する。

「メイドの話によれば、彼女、旅支度をしていたようですの」

「ほほう」

 メアリーは扉を開き、部屋に魔道灯の明かりを灯すようメイドに指示を出した。

 家庭教師のダランドの部屋は、それなりに広い。ベッドと机の他に、クローゼットや書棚も置かれている。机の上にはそのほかにはペンが一つ。装飾品と呼べるものは置かれていない。ベッド横のサイドテーブルには、旅行用のトランクがのせられていた。

「トランクを開けて確認はされていないのですか?」

「警察のお仕事かと思いまして」

「左様でございますな」

 プレドロン警部は満足げに頷き、部屋を見回しながら、まず、机の引き出しを開いた。使いさしの便箋とインク壺。手前に置かれている鍵はトランクのものだろうか。

「とりあえず、トランクを開けてみましょうか」

 プレドロン警部は鍵を手にしてトランクの鍵穴に差し込んだ。カチリと音がして、鍵がくるりと回る。

 ゆっくりと開くと、着替え、貴金属、財布のほか、銀行の証書もあった。

「ふむ。財布の中に、鉄道の路線図と時刻表も挟まっておりますな」

「しばらく休みの予定はなかったとは聞いておりますけれど」

 メアリーは肩をすくめた。

「まあ、ただの旅行ではありますまい。貴重品は全部持ち出すつもりだったようですからな。おや、これはなんだろう?」

 鳥の絵が刻まれたコインが財布の中に入っている。

「異国のものですか?」

「違うと思いますね。これは、おそらくどこかの店で使っているものです」

 警部の目が険しくなる。

「現金をこちらのコインに換えると、賭場で現金より多く遊べるとか、そういった形で使うのです。顧客の囲い込みにも使えますしね」

「ああ、そういうことですか」

「大かた、借金でもあったのでしょう」

 警部にとって、急激に事件が単純なものだという認識に変わったのだろう。

 だが、動機が借金という単純なものだったにせよ、一介の家庭教師が金庫破りの魔道具を持っていることは不自然だ。何ものかの指示で動いていたことが考えられる。

「こちらは一応、証拠品としてお預かりいたしますね」

「ご随意にどうぞ」

 メアリーは頷く。

「それでは今日のところは署に戻ります」

「ええ。明日、午前中に息子夫婦の件をよく知りたいから、そちらへ伺いますわ。兄にもそう伝えていただけます?」

「承知いたしました」

 プレドロン警部はトランクを抱え、スピノ巡査部長とともに日付が変わるころ屋敷を出て、ダランドを連行していった。





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